■■【経営コンサルタントのお勧め図書】2016「日本の論点」
「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
■ 今日のおすすめ
『2016日本の論点』(編著:日本経済新聞社 発行:日本経済新聞出版社)
■ 2016年の初めにP・E・S・Tの論点を整理しておこう(はじめに)
私は、年初にPESTに関る本を読む事にしています(P:政治、E:経済、S:社会、T:技術)。それは予測される論点を整理し、企業経営における変化への対応力を高める必要に答えるためです。
紹介本「2016日本の論点」は、日経の論説委員陣が各専門分野の知見に基づき、2016年以降の国内外の注目すべき論点を抽出・分析し、方向・結論を示しており参考に出来ると思います。
紹介本を読んでの感想は、2016年以降はいつになく、グローバルな論点に視線が向かうことです。その中で特に注目したい視点を次項で見てみたいと思います。
■ 2016年の主要な注目情報はこれ
【やってきた第四次産業革命】
ドイツ発の「インダストリー4.0(第四次産業革命)」に注目しましょう。「インダストリー4.0」は、機械化(18世紀)、自動化(20世紀始め)、情報化(1980年代)に続く、「スマート化」「ユビキタス・ネットワーク化」による第四次産業革命と言われています。トヨタに代表される日本の製造システム(JIT生産方式)、アメリカへ渡った「リーン生産方式」等に追い詰められたドイツが必死になって探し求めた経営システムです。「インダストリー4.0」とはいったいどんなものか。それは一言でいうと「スマート・ファクトリー&オープン・プラットフォーム」です。それはサプライチェーンとバリューチェーンが密接に結合し、高い生産効率を維持しながら、全てのプロセスが、最もタイミングのいい時期に「顧客の欲しい一品」を届けるべく、同期して動くプラットフォームです。トヨタの生産方式は部分最適ですが、「インダストリー4.0」は全体最適を求めるシステムといっても良いでしょう。
2015年4月に開かれた「ハノーバー・メッセ」では、ドイツのメルケル首相がインドのモディ首相をはじめとするインド企業を招き、モディ首相のスピーチが行われました。ドイツはこのプラットフォームを世界に浸透させようと国を挙げて推進しています。
日本でも、2015年7月に結成された、富士通、パナソニック等を中心にした「インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ」が動き始めています。このプラットフォームは大企業だけの問題ではなく、中小企業もこのプラットフォームに乗らなければ落ちこぼれになります。第四次産業革命の動きから目を離せません。
【国際情勢と日本】
2016年はいつになく、海外の情勢を頭において経営を考える年になりそうだと思います。日本の人口・労働力減少が避けられないとなれば、大企業も中小企業も海外関連売上(輸出・外国人消費等を含む)を伸ばすことに目を向けざるを得ないのではないでしょうか。そこで気になる海外情報をいくつか上げてみました。
〔失速する中国経済。軟着陸はできるか〕
2015年8月の中国発の世界株安をご記憶ですか。NYダウは一時リーマンショックの777ドルを上回る1,000ドルを超える下落を記録しました。これは中国経済の世界に与える影響が大きくなっていることの証左です。
中国は2016年3月の全国人民代表大会に備え、2015年12月に「中央経済工作会議」を終えています。2016年は習指導部が初めて立案する5カ年計画の最初の年です。2017年3月の共産党大会で5年毎の党最高主導部人事があり、2018年の全人代では国家主席が選任されます(習氏がそれぞれの大会で総書記、国家主席に再任の見込み)。2016年は習指導部にとって大事な年なのです。
中国経済は、①製造業の過剰設備②過剰住宅在庫③地方政府の過剰債務④国有企業を中心とする非効率経営、等の問題を抱えています。習指導部はこの問題の解決に全力を挙げるでしょう。最近習主席は、向こう5年間は「年平均6.5%以上の成長が最低ライン」と明言しています(日経朝刊2015.12・22)。
明るいニュースもあります。中国の第三次産業のGDPに占める比率が2005年の41%から2015年1~9月は51%と第二次産業(47%⇒41%)を逆転し、しかも足下の成長率が第二次産業の6%に対し第三次産業は8%以上と高く、中国の産業構造の変換が図られつつあることです。求人倍率も足下は1以上と、今後の国有企業の合理化などの要因があり先行き不透明ながら、安定しています(日経朝刊2015.12・21)。
直近のOECDのレポート(11月9日発表)によれば、中国の内需が2016-17年に亘り2%マイナスとなった場合のGDPの下押し影響を、世界全体で16年▲0.7%、17年▲0.9%、日本については16年▲0.8%、17年▲1.0%とレポートしています。無視できない影響であり、今後の中国の政治・経済・社会の動向を注視したいですね。同時に世界経済が、中国に代表される国家資本主義とアメリカ・日本等の自由主義が共存するハイブリッド経済の時代になった感を強く抱きます。
〔インドの10年が始まった〕
2014年の世界人口白書によれば、インドは12.6億人と中国の13.7億人に次ぐ第2位にあります(ちなみに3位以下はアメリカ、インドネシア、ブラジル、パキスタン、ナイジェリア、バングラディシュ、ロシアと続き10位は日本の1.3億人です)。インドの政治・経済の状況を中国と比較してみますと、①政治は民主主義で安定成長が見込める②産児制限がないので人口が増え続ける③労働力人口比率が中国は2010年の74.3%をピークに2050年には58.9%まで低下し続けるが、インドは2010年の64.0%から2050年には67.1%と安定した推移を示す(国連発表)④足下の一人当たりGDPは1,800ドルと2005年の中国とほぼ同じであり、中国が2008年には一人当たり3,000ドルと消費ブームの起点となり、高い成長を遂げたことを考慮すると、インドも2018年頃に消費ブームの起点を迎え、高い成長が見込める、等が上げられます。
これらの要因や国連のデータ等を併せ予測すると、インドの人口は2022年には14億人を超え中国を追い越し世界1位となり2050年には17億人に達すると見込まれています。労働力人口も安定的に増加が見込まれ高齢化に伴う経済成長へのブレーキも心配が要りません。これらを背景に、IMFは2016~20年のインドの成長率を7.5~8%と見ています。今インドの潜在成長力に目をつけ、外国企業が進出を始めています。これらも併せ、インドは、心配されている産業インフラ不足を克服し、安定した高成長が見込めるのではないでしょうか。インドに注目です。
■ 2016年の企業経営はグローバルの視点が欠かせない(むすび)
主要な注目情報を前項で見てきましたが、字数の関係で書ききれない海外の注目情報が多くあります。難民とテロ問題に揺れるEU、2017年1月に新大統領が就任する米国、原油安に揺れる中東産油国やロシア等の資源国、今後15年間で12億の人口が17億に増えるアフリカ、2015年12月に発足したASEAN経済共同体(AEC)を先取りする形で物流が広がっている東南アジア、等グローバルな論点が山積みです。
2016年は、大企業も中小企業も、グローバル・リスクへの対応力の強化とグローバル・チャンスを如何に捉えていくかが、経営の良し悪しの分かれ目を決める一つの大きな要素となる年と思います。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm
http://sakai-gm.jp/
【 注 】
著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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