■■【経営コンサルタントのお勧め図書】200325 大前研一氏の『日本の論点2020~21』
「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
■ 今日のおすすめ
『日本の論点2020~21』
(大前研一著 プレジデント社)
■ 大前研一の俯瞰するこれからの日本・世界観を見てみよう(はじめに)
著者の大前研一は、英国エコノミスト誌から、「現代世界の思想的リーダー」として、ドラッカー(故人)やトム・ピータースと共に名前が挙げられています。
著者がプレジデント誌に連載している「日本のからくり」の過去1年分のストック及び特集記事から読者の反響の大きかった記事に、加筆修正して出版したのが紹介本です。
紹介本の副題は『「アホ」が支配する世界で私たちはどう生き抜くか』です。この副題が表しているように、前月ご紹介した『日経大予測2020「これからの日本の論点」』の様に世界・日本のPESTを総覧的に俯瞰するのではなく、大前流の世界・日本観を論じています。
その意味では、日頃私たちがマスコミで見るのとは異なった結論に至る論説をいくつか見出します。それが紹介本の特徴であり、私達の頭の中に一般的な結論とは異なった見方を認識できる良い機会とも言えます。
著者は、‟巻頭言”の中で「世界各国で台頭するポピュリスト政治家たち」「‟異形の大統領”トランプに破壊されたアメリカの政治システム」「世界の経済史の中から完全に消えた‟泰平の眠りについていた日本”」「日本の再生を妨げているのは、過去の成功体験だ」等と大前流の突っ込んだ論説を窺わせています。
ところで、2020年をスタートにこれからの世界・日本がどうなるのか、どの様
に対応すべきか、著者は「改革でも改善でもないゼロからスタートする時」と記述しています。その記述は、その様な厳しい時と伝わってきますが、何をすればよいのか分かりません。その取り掛かりを、紹介本の大括り項目の「日本編」「世界編」「特別編」から、各編の注目に値する論点を一つずつ選んで、次項でご紹介します。
■ 各編の注目する論点を見てみよう
【「日本編」『国の借金を容認する、嘘っぱちMMTに騙されるな』】
2019年4月4日の国会の答弁で、安倍総理は「MMT(Modern Monetary Theory)の理論を実行しているわけではない」と述べています(2019.4.4ロイター・東京)。
一方、『通貨発行権を持つ国家は債務返済に充てる貨幣を自在に創出できるため、インフレにならなければ財政赤字の膨張は問題ない、国は破綻しないとする学説「現代貨幣理論(MMT理論)」』の提唱者であるステファニー・ケルトン教授(NY州立大学)は、2019年7月16日都内で講演をしました。物価上昇を目指した金融緩和が続く日本の財政政策について「中央銀行の金融政策よりも、消費者の所得を向上させる財政政策の方がより直接的に機能する」と述べています(2019.7.16日経電子版)。
又ケルトン教授は、講演とは別に、MMT理論に関係して、「巨額債務を抱えているのにインフレも金利上昇も起きない日本が実証している」「日本の景気が良くならないのは、インフレを恐れすぎて財政支出を中途半端にしてきたから」「MMTは日本が直面するデフレの解毒罪になる」とも述べています(紹介本より)。
紹介本の著者は、MMT理論に関し『次の世代に重荷(国の債務)を押し付けて今の繁栄を享受したいと思っている人にはMMTは心地よく聞こえるかもしれないが、将来世代からすれば、「危険物・リスク(財政赤字)の解消は現役世代の責務」と考える。この問題を放置すれば、世代間闘争も勃発する可能性もある。』と指摘する。更には、『「インフレも金利上昇も起きない日本」の基本的な要因は「低欲望社会」である。しかし、リタイア―世代が、‟団塊世代”の後の‟バブル世代”となり「低欲望社会」から「高欲望社会」に移行した場合、インフレが起こり、MMTのご臨終と、中央銀行の大規模金融緩和政策の終焉に繋がることは言うまでもない』と指摘します。
【「世界編」『世界を覆う「ポスト・トゥルース」とワーキングプア反乱の問題点』】
著者は、現在の世界政治の現状を、『政治のリーダーが「ワーキングプア」層に対し目をそむけたくなるような「真実」よりも聞き心地の良い「嘘」を放って世論をリードしていく、「ポスト・トゥルース(post truth 、脱・真実)」に走る政治家の台頭が欧米先進国で目立つ』と言います。アメリカのトランプ政権、イギリスのブレクジット、イタリアの「五つ星運動」と「同盟」の連立政権、ドイツの反EUの右派政党「ドイツの選択肢(AID)」の台頭などを具体例として挙げています。
更には、これはポピュリズム、衆愚政治の極みと表現し、格差が広がり社会構造が二極化する中で、富の偏在を修正したり、社会に還元させたりする本来の政治の役割を果たさず、逆にそれを煽った方が票につながるとして「ポスト・トゥルース」に走っていると指摘します。
一方、日本においては驚くほどワーキングプアが政治勢力化していないとして、その一つの要因として、身の丈に合ったような生き方を選ばせるような戦後の偏差値教育が強く影響していると指摘します。
【「特別編」『日本を成長させるのは「構想力」を持った人材である』】
著者は、日本の低迷を「文部科学省が国内でしか通用しない人材をひたすら輩出している」ことを要因として挙げ、グローバルに通用する「論理的思考力」と「語学力」を育てる教育プログラムの必要性を説きます。更には、『経営は答えのない世界。そこで求められるのは見えないものを見る力「構想力」であり自分で答えを導き出す能力とスキルだ。これからの企業の浮沈はそれらを持ったグローバル人材をいかに世界中から集めてくるかにかかっている。』と指摘します。
【その他の「論点」】
上記以外にも
〔日本編〕:「憲法8章を換えない限り、日本の地方衰退は進んでいく」
〔世界編〕:「いまや再選絶望のトランプ。次期大統領の候補は誰か?」
〔特別編〕:「21世紀サイバー経済でパスポートとなるのは、どんなスキルか」
等、大前研一流の知見と深い洞察力で書かれている「日本の論点」が多く掲載されています。詳しくは紹介本をお読みください。
■「改革でも改善でもないゼロからスタートする」の意味を考えよう(むすび)
著者が唱える「ゼロからのスタート」は、深い意味を持っていると思います。世界・日本を見渡しても、新しい予測不能な事態が次々と出ています。
その様な不確実性の時代に生き抜いていくためには、感性の高いアンテナを張りめぐらし「メタ」を得、そこから導き出される情報を生かしながら、迅速且つ持続的・適切な企業経営のマネジメントを求められる年になりそうですね。
【酒井 闊 先生 プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm
http://sakai-gm.jp/
【 注 】
著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
■■ 経営コンサルタントへの道 ←クリック
経営コンサルタントを目指す人の60%が見るというサイトです。経営コンサルタント歴40年余の経験から、経営コンサルタントのプロにも役に立つ情報を提供しています。