経営コンサルタントへの道

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【小説風】竹根好助の経営コンサルタント起業1 人選 4 下馬評の外れと竹根の推理

2023-09-15 12:03:00 | 竹根好助の経営コンサルタント起業

  【小説風】竹根好助の経営コンサルタント起業1 人選 4 下馬評の外れと竹根の推理

 

■ 【小説風】 竹根好助の経営コンサルタント起業 

 私は、経営コンサルタント業で生涯現役を貫こうと思って、半世紀ほどになります。しかし、近年は心身ともに思う様にならなくなり、創業以来、右腕として私を支えてくれた竹根好助(たけねよしすけ)に、後継者として会社を任せて数年になります。
 竹根は、業務報告に毎日のように私を訪れてくれます。二人とも下戸ですので、酒を酌み交わしながらではありませんが、昔話に時間を忘れて陥ってしまいます。それを私の友人が、書き下ろしで小説風に文章にしてくれています。
 原稿ができた分を、原則として、毎週金曜日に皆様にお届けします。

【これまでお話】

 エピローグは、主人公である竹根好助(たけねよしすけ)の人柄を知る重要な部分でした。
 親によるある教えで、超一流ではないものの上場商社に入社した竹根の若かりし、1ドルが360円の時代でした。
 入社して、まだ1年半にも満たないときのことです。アメリカ駐在事務所を開設するという重大発表がありました。社内では、誰が派遣されるのか話題沸騰です。若輩の竹根は推理小説でも読むような気持ちで、誰が選ばれるか、興味津々で推理を働かせました。
 一方、竹根の信条のひとつに「サラリーマンとしての心得のひとつとして上司からの命令には逆らうなというビジネス書の教えをかたくなに守ってい」という頑固というか、意志堅固なところがあります。
 初めてのアメリカ人事に、まさか竹根に白羽の矢が立つことはないだろうとおもっていた竹根です。しかし、数人の候補者のひとりに竹根が入っているのでした。

【過去のタイトル】 1.人選(1ドル360円時代 鶏口牛後)

■■ 1 人選

 竹根が、経営コンサルタントになる前の話をし始めました。思わず私は乗り出してしまうほどですので、小説風に自分を第三者の立場に置いた彼の話をご紹介します。

◆1-4 下馬評の外れと竹根の推理

 数日が経ったとき、新しい噂が流れてきた。角菊事業部長が推薦した三人は、いずれも社長が却下したというのである。

 ――こうなると、自分が考えていた若手起用という線が濃くなってきた。社長のことだから、複数の社員候補を再度もってこいと指示を出そう。そうなると、佐藤氏は当然リストに載るが、残るあと二人は誰だろう。三人とは限らないかもしれないな――

 そこまでは推理できたが、あとは誰が候補に挙がるか、見当がつかない竹根である。

 ――まてよ、自分は曲がりなりにも、まだ日本ではあまり一般的でないマーケティングを大学院で学んできているから、ひょっとするとあの福田社長のことだから自分を指名するという可能性がないわけではないな――

 自分の都合の良いように竹根は考えるようになった。すなわち、選ばれるのは竹根である。自分が社長なら、竹根を選ぶだろう。その思いが妄想のように広がってゆく。しかし、さりとて、竹根は仕事が手に付かないなどと言うことはない。複々線思考というのか、今何をするのかが決まると、他のことが雑念にならず、集中して目の前の業務を遂行できる。竹根自身も、自分の集中力の高さと、複々線思考ができることを誇りにさえ思っている。これが後に、経営コンサルタントとして大きな力になることを竹根が知るよしもない。

  <続く>

 

■ バックナンバー

  https://blog.goo.ne.jp/keieishi17/c/c39d85bcbaef8d346f607cef1ecfe950

 


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【小説風】竹根好助の経営コンサルタント起業1 人選 3 竹根の人事推理

2023-09-08 12:03:00 | 竹根好助の経営コンサルタント起業

  【小説風】竹根好助の経営コンサルタント起業1 人選 3 竹根の人事推理

 

■ 【小説風】 竹根好助の経営コンサルタント起業 

 私は、経営コンサルタント業で生涯現役を貫こうと思って、半世紀ほどになります。しかし、近年は心身ともに思う様にならなくなり、創業以来、右腕として私を支えてくれた竹根好助(たけねよしすけ)に、後継者として会社を任せて数年になります。
 竹根は、業務報告に毎日のように私を訪れてくれます。二人とも下戸ですので、酒を酌み交わしながらではありませんが、昔話に時間を忘れて陥ってしまいます。それを私の友人が、書き下ろしで小説風に文章にしてくれています。
 原稿ができた分を、原則として、毎週金曜日に皆様にお届けします。

【これまでお話】

 エピローグは、主人公である竹根好助(たけねよしすけ)の人柄を知る重要な部分でした。
 親によるある教えで、超一流ではないものの上場商社に入社した竹根の若かりし、1ドルが360円の時代でした。
 入社して、まだ1年半にも満たないときのことです。アメリカ駐在事務所を開設するという重大発表がありました。社内では、誰が派遣されるのか話題沸騰です。若輩の竹根は推理小説でも読むような気持ちで、誰が選ばれるか、興味津々で推理を働かせました。
 一方、竹根の信条のひとつに「サラリーマンとしての心得のひとつとして上司からの命令には逆らうなというビジネス書の教えをかたくなに守ってい」という頑固というか、意志堅固なところがあります。
 初めてのアメリカ人事に、まさか竹根に白羽の矢が立つことはないだろうとおもっていた竹根です。しかし、数人の候補者のひとりに竹根が入っているのでした。

【過去のタイトル】 1.人選(1ドル360円時代 鶏口牛後)

■■ 1 人選

 竹根が、経営コンサルタントになる前の話をし始めました。思わず私は乗り出してしまうほどですので、小説風に自分を第三者の立場に置いた彼の話をご紹介します。

◆1-3 竹根の人事推理

 竹根は、今回の福田商事アメリカ駐在員選定人事をあたかも推理小説を読むかのごとく関心を持っていた。

 竹根も福田商事がアメリカに駐在員事務所を開設するという情報は知っていたし、駐在員として派遣される人は、下馬評が順当だろうと認めていた。下馬評に挙がっている二人とも三十~四十代であり、脂がのっている。
 一方で、竹根は、
 ――もし、自分が社長だったら、どのような人事をするだろうか。天下の三井菱商事ですらアメリカには日本人が十三人しか行っていないことから考えると、大手商社のまねをして、順当な人事方針で駐在員を選択しても駄目である。これからアメリカという新天地に進出しようという時には、むしろフットワークの軽い若手ががむしゃらに動く方が成功策ではないか。下馬評の二人のようなベテランは、日本にいて、ちょっと離れた視点で、アメリカで走り回っている若手をコントロールした方が結果に結びつくのではないか――と考えた。

 ――では、福田商事の場合にはどうであろうか。福田社長のこれまでの社員の使い方から推量するに、今回も斬新な人事起用をするのではないだろうか。もし、この推理が当たっていたとすると、若手を送るだろう。ただし、自分は、島村課長の人の目を見る目のなさに泣かされ、人事評価点は高くないし、まだ入社して一年半しか経っていないこともあり、当然対象外であろう。そうなると、二年先輩の佐藤氏が最右翼だ――

  <続く>

 

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【小説風】竹根好助の経営コンサルタント起業1 人選 3 竹根の人事推理

2023-09-08 12:03:00 | 竹根好助の経営コンサルタント起業

  【小説風】竹根好助の経営コンサルタント起業1 人選 3 竹根の人事推理

 

■ 【小説風】 竹根好助の経営コンサルタント起業 

 私は、経営コンサルタント業で生涯現役を貫こうと思って、半世紀ほどになります。しかし、近年は心身ともに思う様にならなくなり、創業以来、右腕として私を支えてくれた竹根好助(たけねよしすけ)に、後継者として会社を任せて数年になります。
 竹根は、業務報告に毎日のように私を訪れてくれます。二人とも下戸ですので、酒を酌み交わしながらではありませんが、昔話に時間を忘れて陥ってしまいます。それを私の友人が、書き下ろしで小説風に文章にしてくれています。
 原稿ができた分を、原則として、毎週金曜日に皆様にお届けします。

【これまでお話】

 エピローグは、主人公である竹根好助(たけねよしすけ)の人柄を知る重要な部分でした。
 親によるある教えで、超一流ではないものの上場商社に入社した竹根の若かりし、1ドルが360円の時代でした。
 入社して、まだ1年半にも満たないときのことです。アメリカ駐在事務所を開設するという重大発表がありました。社内では、誰が派遣されるのか話題沸騰です。若輩の竹根は推理小説でも読むような気持ちで、誰が選ばれるか、興味津々で推理を働かせました。
 一方、竹根の信条のひとつに「サラリーマンとしての心得のひとつとして上司からの命令には逆らうなというビジネス書の教えをかたくなに守ってい」という頑固というか、意志堅固なところがあります。
 初めてのアメリカ人事に、まさか竹根に白羽の矢が立つことはないだろうとおもっていた竹根です。しかし、数人の候補者のひとりに竹根が入っているのでした。

【過去のタイトル】 1.人選(1ドル360円時代 鶏口牛後)

■■ 1 人選

 竹根が、経営コンサルタントになる前の話をし始めました。思わず私は乗り出してしまうほどですので、小説風に自分を第三者の立場に置いた彼の話をご紹介します。

◆1-3 竹根の人事推理

 竹根は、今回の福田商事アメリカ駐在員選定人事をあたかも推理小説を読むかのごとく関心を持っていた。

 竹根も福田商事がアメリカに駐在員事務所を開設するという情報は知っていたし、駐在員として派遣される人は、下馬評が順当だろうと認めていた。下馬評に挙がっている二人とも三十~四十代であり、脂がのっている。
 一方で、竹根は、
 ――もし、自分が社長だったら、どのような人事をするだろうか。天下の三井菱商事ですらアメリカには日本人が十三人しか行っていないことから考えると、大手商社のまねをして、順当な人事方針で駐在員を選択しても駄目である。これからアメリカという新天地に進出しようという時には、むしろフットワークの軽い若手ががむしゃらに動く方が成功策ではないか。下馬評の二人のようなベテランは、日本にいて、ちょっと離れた視点で、アメリカで走り回っている若手をコントロールした方が結果に結びつくのではないか――と考えた。

 ――では、福田商事の場合にはどうであろうか。福田社長のこれまでの社員の使い方から推量するに、今回も斬新な人事起用をするのではないだろうか。もし、この推理が当たっていたとすると、若手を送るだろう。ただし、自分は、島村課長の人の目を見る目のなさに泣かされ、人事評価点は高くないし、まだ入社して一年半しか経っていないこともあり、当然対象外であろう。そうなると、二年先輩の佐藤氏が最右翼だ――

  <続く>

 

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【小説風】竹根好助の経営コンサルタント起業1 人選 1ドル360円時代

2023-09-01 12:03:00 | 竹根好助の経営コンサルタント起業

  【小説風】竹根好助の経営コンサルタント起業1 人選 2 鶏口牛後

 

■ 【小説風】 竹根好助の経営コンサルタント起業 

 私は、経営コンサルタント業で生涯現役を貫こうと思って、半世紀ほどになります。しかし、近年は心身ともに思う様にならなくなり、創業以来、右腕として私を支えてくれた竹根好助(たけねよしすけ)に、後継者として会社を任せて数年になります。
 竹根は、業務報告に毎日のように私を訪れてくれます。二人とも下戸ですので、酒を酌み交わしながらではありませんが、昔話に時間を忘れて陥ってしまいます。それを私の友人が、書き下ろしで小説風に文章にしてくれています。
 原稿ができた分を、原則として、毎週金曜日に皆様にお届けします。

【これまでお話】

 エピローグは、主人公である竹根好助(たけねよしすけ)の人柄を知る重要な部分でした。

 親によるある教えで、超一流ではないものの上場商社に入社した竹根の若かりし、1ドルが360円の時代でした。

 入社して、まだ1年半にも満たないときのことです。アメリカ駐在事務所を開設するという重大発表がありました。社内では、誰が派遣されるのか話題沸騰です。若輩の竹根は推理小説でも読むような気持ちで、誰が選ばれるか、興味津々で推理を働かせました。

 まさか竹根に白羽の矢が立つことはないだろう・・・

■■ 1 人選

 竹根が、経営コンサルタントになる前の話をし始めました。思わず私は乗り出してしまうほどですので、小説風に自分を第三者の立場に置いた彼の話をご紹介します。

◆1-2 鶏口牛後

 竹根は、本日の報告を終わると、竹根の商社マンとしてのサラリーマン時代の話の続きを始めました。まだ社歴の浅い竹根がアメリカ駐在員の候補になっていることに不満の声も出てきていました。
 竹根は、サラリーマンとしての心得のひとつとして上司からの命令には逆らうなというビジネス書の教えをかたくなに守っていました。

 今回の駐在員を派遣するということは、すでに噂として事業部内では周知の事実である。三十代後半の第二課の伊田課長が最有力であるが、竹根と同じ課の長池係長も捨てきれないというのが下馬評である。

 福田商事に竹根が入社したときには、二部上場企業であった。竹根は、母親から『鶏口牛後』『鶏頭となるも牛尾となるなかれ』という教育を受けていたから、「おまえならどこの大学でも、たとえ超一流どころにも入学できる」と、高校の進学指導で合格印を押されたのにもかかわらず、それを避けて、東慶大学に入学した。就職の時も、当時三井菱商事が業界のトップ企業であったにもかかわらず、福田商事に入社した。超一流ドコロでは、上が閊(つか)えて、実力を発揮する場が少ないだろうし、歯車の一つに過ぎないような位置づけを好まない竹根である。

  <続く>

 

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【小説風 傘寿】 竹根好助の経営コンサルタント起業 エピローグ 0-1

2023-08-18 12:03:00 | 竹根好助の経営コンサルタント起業

  【小説風】竹根好助の経営コンサルタント起業 エピローグ 0-1

 

■ 【小説風】 竹根好助の経営コンサルタント起業 

 私は、経営コンサルタント業で生涯現役を貫こうと思って、半世紀ほどになります。しかし、近年は心身ともに思う様にならなくなり、創業以来、右腕として私を支えてくれた竹根好助(たけねよしすけ)に、後継者として会社を任せて数年になります。
 竹根は、業務報告に毎日のように私を訪れてくれます。二人とも下戸ですので、酒を酌み交わしながらではありませんが、昔話に時間を忘れて陥ってしまいます。それを私の友人が、書き下ろしで小説風に文章にしてくれています。
 原稿ができた分を、原則として、毎週金曜日に皆様にお届けします。

◆ エピローグ 0-1

「お母さん、お父さんは書斎にいるの?」
「そのはずよ。どうして?」
「久しぶりに濃茶でも入れてやろうかと思ってさ」
「それは喜ぶんじゃないかしら。もう、一ヶ月以上は茶会にも行っていないからね」
 経営コンサルタントを四十年近くもやってきた竹根は、最近は経営コンサルタント協会の理事長の仕事以外は、特段に仕事をするわけでもなく、書斎に閉じこもって原稿を書くことに余念がない。七十年近い人生の総まとめをしているようである。ビジネス書は何十冊も出版してきたが、最近は、ビジネス書の良い面である箇条書きを入れたり、図版を取り入れた小説を書いて、気軽に経営とは何かを伝えたいと考えている。
 小説を書く契機となったのは、竹根の腹心の部下の一人が、「コンサルティングというのは、推理小説のように、企業がどのように変化していくのか、変化の先を推理するのが楽しみです」という一言であった。
 閑雲野鶴(かんうんやかく)、空に浮かぶ雲、野に遊ぶ鶴のように、何者にも拘束されず、自然を相手に悠々と生活を楽しむことをこの年になっても夢見ているが、それができない竹根でもある。
 若い頃から、お茶が好きで、経営コンサルタント業が忙しくなった三十代後半からは息抜きのために洗心会という会で、毎月茶会を開いている。お茶の会というと茶道の流儀に基づき、作法がうるさいが、竹根が会長を務める洗心会というのはお茶を介した交流会のようなものである。竹根は、下戸であるので、宴会やパーティなどの形式ではなく、経営者や企業幹部を集めるための口実として茶会を催している。
 最近は、若い人もメンバーに加わり、大企業から零細企業までの経営者や管理職たちとの交流が盛んになってきた。
「ツッくん、おじいちゃんにお茶が入りましたって言ってきてちょうだい」
 ツッくんこと、田澤翼は、竹根の娘である由紗里の長男である。まだ、小学校に上がったばかりであるが、父親の田澤充雄に似たのか、慎重だが闊達な子供である。父親の充雄は、日本国際航空のパイロットをしているので、飛行機をイメージして翼と名付けられた。
 由紗里は、自分の父親を男性の理想像のように思って今日まで育ってきたこともあり、翼には自分の父親の話を良くするようである。そのために、小さい頃から翼は竹根のことを「ジージ」と言っては、あとを追ってまつわりついたりして育った。翼の父親は、仕事で数日から、長いときには十日くらい家を空けることがある。そのために、竹根のうちに母親に連れられて来ることが多かったこともある。
 翼に手を引かれて、仕事を無理矢理中断させられて竹根がリビングにやってきた。指定席の籐いすのアームチェアは、還暦の祝いに妻のかほりと由紗里が買ってやったものである。以前より、リクライニング付きのアームチェアをほしがっていたので、これが届いてからは座って読書をすることが多い。竹根の手油で、アーム部分を中心にぴかぴかしている。翼が、竹根にお世辞を言って何かをせがむときに、アームチェアの手入れをすることも貫禄をつけるのに一役をかっている。
 アームチェアの背を垂直に近く立てて、座面の高さを調節すると、由紗里が点てたお茶に手を伸ばす。いつも手順が決まっている。両手のひらに茶碗を抱くようにして、茶碗を観る。もう、何千回と見ているだろうに、何も言わずに繰り返す。一すすりすると目を閉じて、茶を味わうようである。
 たとえ、由紗里の茶の入れ方がうまくいかないときでも、決して文句を言わない。時々、「うまいな!」と言うことがあるが、多分その時には茶が上手に入った時であろう。目を開けると、茶を飲むのではなく、茶碗に見入るのである。
「おじいちゃんはまた茶碗を観ているね」と母親に声をかける。これも、竹根が茶を飲むときの定例になっている。
「そのうちに、茶碗に穴が開いてしまうよ」と妻のかほりが言うと、翼は不思議そうな顔をして「何で茶碗を観ていると穴が開いてしまうの?」と疑問に持つ。小さい頃から、竹根に「なんでー」と聞きながら知識や知恵をつけてきた翼である。
 五歳の子供にわかるわけではないのに、その言葉の意味をかほりが説明するが、翼は一向に納得しない。そのうちに、竹根に質問を向ける。
「おじいちゃん、じっと茶碗を観ていると穴が開くなんて、そんなことないよね」
 その言い方も二、三歳の頃と変わらない。竹根は、ただ笑って翼の頭を撫でるだけである。翼は、竹根にそうされると自分の主張が認められたと思って、黙ってしまう。
「お父さんは、なんで経営コンサルタントになったの?」
 かねてから、父親に聞いてみたいと思っていた由紗里の疑問である。
 お茶を飲むときには、口数の少ない竹根だが、由紗里に向かって、四五年ほど前の昔を振り返りながら思い出をポツリポツリと語り始めた。

  <続く>

 

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【小説風】竹根好助の経営コンサルタント起業 エピローグ 0-1

2023-08-12 07:30:40 | 竹根好助の経営コンサルタント起業

  【小説風】竹根好助の経営コンサルタント起業 エピローグ 0-1

 

■ 【小説風】 竹根好助の経営コンサルタント起業 

 私は、経営コンサルタント業で生涯現役を貫こうと思って、半世紀ほどになります。しかし、近年は心身ともに思う様にならなくなり、創業以来、右腕として私を支えてくれた竹根好助(たけねよしすけ)に、後継者として会社を任せて数年になります。
 竹根は、業務報告に毎日のように私を訪れてくれます。二人とも下戸ですので、酒を酌み交わしながらではありませんが、昔話に時間を忘れて陥ってしまいます。それを私の友人が、書き下ろしで小説風に文章にしてくれています。
 原稿ができた分を、原則として、毎週金曜日に皆様にお届けします。

◆ エピローグ 0-1

「お母さん、お父さんは書斎にいるの?」
「そのはずよ。どうして?」
「久しぶりに濃茶でも入れてやろうかと思ってさ」
「それは喜ぶんじゃないかしら。もう、一ヶ月以上は茶会にも行っていないからね」
 経営コンサルタントを四十年近くもやってきた竹根は、最近は経営コンサルタント協会の理事長の仕事以外は、特段に仕事をするわけでもなく、書斎に閉じこもって原稿を書くことに余念がない。七十年近い人生の総まとめをしているようである。ビジネス書は何十冊も出版してきたが、最近は、ビジネス書の良い面である箇条書きを入れたり、図版を取り入れた小説を書いて、気軽に経営とは何かを伝えたいと考えている。
 小説を書く契機となったのは、竹根の腹心の部下の一人が、「コンサルティングというのは、推理小説のように、企業がどのように変化していくのか、変化の先を推理するのが楽しみです」という一言であった。
 閑雲野鶴(かんうんやかく)、空に浮かぶ雲、野に遊ぶ鶴のように、何者にも拘束されず、自然を相手に悠々と生活を楽しむことをこの年になっても夢見ているが、それができない竹根でもある。
 若い頃から、お茶が好きで、経営コンサルタント業が忙しくなった三十代後半からは息抜きのために洗心会という会で、毎月茶会を開いている。お茶の会というと茶道の流儀に基づき、作法がうるさいが、竹根が会長を務める洗心会というのはお茶を介した交流会のようなものである。竹根は、下戸であるので、宴会やパーティなどの形式ではなく、経営者や企業幹部を集めるための口実として茶会を催している。
 最近は、若い人もメンバーに加わり、大企業から零細企業までの経営者や管理職たちとの交流が盛んになってきた。
「ツッくん、おじいちゃんにお茶が入りましたって言ってきてちょうだい」
 ツッくんこと、田澤翼は、竹根の娘である由紗里の長男である。まだ、小学校に上がったばかりであるが、父親の田澤充雄に似たのか、慎重だが闊達な子供である。父親の充雄は、日本国際航空のパイロットをしているので、飛行機をイメージして翼と名付けられた。
 由紗里は、自分の父親を男性の理想像のように思って今日まで育ってきたこともあり、翼には自分の父親の話を良くするようである。そのために、小さい頃から翼は竹根のことを「ジージ」と言っては、あとを追ってまつわりついたりして育った。翼の父親は、仕事で数日から、長いときには十日くらい家を空けることがある。そのために、竹根のうちに母親に連れられて来ることが多かったこともある。
 翼に手を引かれて、仕事を無理矢理中断させられて竹根がリビングにやってきた。指定席の籐いすのアームチェアは、還暦の祝いに妻のかほりと由紗里が買ってやったものである。以前より、リクライニング付きのアームチェアをほしがっていたので、これが届いてからは座って読書をすることが多い。竹根の手油で、アーム部分を中心にぴかぴかしている。翼が、竹根にお世辞を言って何かをせがむときに、アームチェアの手入れをすることも貫禄をつけるのに一役をかっている。
 アームチェアの背を垂直に近く立てて、座面の高さを調節すると、由紗里が点てたお茶に手を伸ばす。いつも手順が決まっている。両手のひらに茶碗を抱くようにして、茶碗を観る。もう、何千回と見ているだろうに、何も言わずに繰り返す。一すすりすると目を閉じて、茶を味わうようである。
 たとえ、由紗里の茶の入れ方がうまくいかないときでも、決して文句を言わない。時々、「うまいな!」と言うことがあるが、多分その時には茶が上手に入った時であろう。目を開けると、茶を飲むのではなく、茶碗に見入るのである。
「おじいちゃんはまた茶碗を観ているね」と母親に声をかける。これも、竹根が茶を飲むときの定例になっている。
「そのうちに、茶碗に穴が開いてしまうよ」と妻のかほりが言うと、翼は不思議そうな顔をして「何で茶碗を観ていると穴が開いてしまうの?」と疑問に持つ。小さい頃から、竹根に「なんでー」と聞きながら知識や知恵をつけてきた翼である。
 五歳の子供にわかるわけではないのに、その言葉の意味をかほりが説明するが、翼は一向に納得しない。そのうちに、竹根に質問を向ける。
「おじいちゃん、じっと茶碗を観ていると穴が開くなんて、そんなことないよね」
 その言い方も二、三歳の頃と変わらない。竹根は、ただ笑って翼の頭を撫でるだけである。翼は、竹根にそうされると自分の主張が認められたと思って、黙ってしまう。
「お父さんは、なんで経営コンサルタントになったの?」
 かねてから、父親に聞いてみたいと思っていた由紗里の疑問である。
 お茶を飲むときには、口数の少ない竹根だが、由紗里に向かって、四五年ほど前の昔を振り返りながら思い出をポツリポツリと語り始めた。

  <続く>

 

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