【経営コンサルタントのお勧め図書】 真実と未来はデータから 「プーチンショック後の世界と日本」
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経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
昨今の世の中はきな臭さがいっそう強くなっていて、核の懸念すら現実味を帯びるほどです。
この時期に、世の中をどの様に見たら良いのか、判断に迷っている方も多いのではないでしょうか。
今後の「民主国家」VS「強権国家」の新冷戦の向かう道や、日本のみ中央銀行が利下げしない理由、今後の中国経済の行方などについての著者の見解を、酒井先生が、いつものようにわかりやすく紹介してくださっています。
なかなか、TVや一般紙では見られない内容ですので、皆様も強い興味でもって読んでくださると信じています。もし、ご興味が湧きましたら、書店なり図書館なりで手に取ってみてはいかがでしょうか。
■ 今日のおすすめ
『「プーチンショック後の世界と日本」データから真実と未来を見抜け!』
(高橋 洋一著 徳間書店)
■ 激動の時代こそデータから真実と未来を見抜く(はじめに)
2022年2月に始まったウクライナ戦争は、世界の様々なリスクを浮かび上がらせたと言って良いでしょう。このような時代だからこそ、世界及び日本の情勢を、真実を把握したうえで判断し、意思決定をしていく必要があります。
それに示唆を与えてくれるのが紹介本です。未来を見抜くデータに基づく真実の幾つかを見てみましょう。
■ データに基づく真実から未来を見抜く
【米中対立の「新冷戦」構造はロシアの侵攻でより激化する】
ロシアのウクライナ侵攻に際し、国連安保理は機能せず、国連総会緊急特別会合が開催され、ロシアへの即時撤退決議が採択されました。この決議の採決に当たり、193か国のうち、賛成は141か国 、反対はロシアを始めとする5か国、棄権は中國・イラン・ベトナムなど35か国、不参加はエチオピア・ベネズエラ等12か国でした。
反対の5か国はすべて独裁国家、棄権・不参加の47国についてもインド、南アフリカ等の民主主義国を除けば、独裁国家あるいはロシアからの武器輸入国に加え、軍事力をロシアの民間軍事企業「ワグネル」に依存するアフリカ54か国の半数に当たる27か国です。
決議に反対・棄権・不参加の52か国を民主主義指数で見ると、『指数4未満の「独裁政治体制」』が47か国にのぼります(指数4以上は、インド・南アフリカなど7か国に止まります;筆者試算)。
民主主義指数(Democracy Index)は、英のエコノミスト・インテリジェンス・ユニット研究所が世界167の国を対象に毎年発表している、各国政治の民主主義レベルを満点10とする指数で評価します。「完全な民主主義(指数8以上)」「欠陥のある民主主義(指数6以上)」「混合政治体制(指数4以上)」「独裁政治体制(指数4未満)」の4つのレベルで評価します。
因みに、4つの各評価レベルにおける“国の数・人口数・人口比率”でみると次のようになります。「完全な民主主義」は“21か国・5億人・7%”、「欠陥のある民主主義」は“53か国・31億人・39%”、「混合政治体制」は“34か国・13億人・17%”、「独裁政治体制」は“59か国・29億人・37%”です。
国別の指数をみるとノルウェー(ベスト国)9.75、日本8.15、台湾8.99、韓国8.16、アメリカ7.85、ドイツ8.67,インド6.91、南アフリカ7.05、中国2.21、ロシア3.24、北朝鮮1.08、アフガニスタン(ワースト国)0.32です。
ロシアのウクライナ侵攻後の冷戦構造は中露の接近により、世界は「民主主義国家vs独裁国家」の対立が強まり、「経済安全保障」の視点がより重要になっています。
【消費者物価上昇のミスリードに惑わされるな】
インフレの動向を正しく把握するには、消費者物価指数を3つに分け、それぞれの持つ意味を理解しておく必要があります。3つとは、①総合指数(CPI)、②生鮮食品を除く総合指数(コアCPI)③生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数(コアコアCPI)です(総務省統計局が毎月発表)。海外では①と③を発表し、③をコアCPIと呼びます。
ここで大切なことは、CPI(①②)は「ミクロ価格」の要素が入っていることです。これに対しコアコアCPIは「マクロ物価・経済」を表しているのです。因みに日本の2022年7月のCPIは前年同月比+2.6%に対しコアコアCPIは+1.2%でした。
日銀のインフレ目標+2%(失業率を最低にする最小インフレ率)に対し、CPIは+2.6%と上回りましたが、コアコアCPIは+1.2%とまだ下回っています。コアコアCPIが+2%に達しない要因は、潜在GDPと実態GDPとのギャップが36兆円(GDP比率7%の存在です。
一方、アメリカの同時点でのCPIは+8.5%、コアCPI(日本のコアコアCPI)は+5.9%でした。アメリカはバイデン政権の大型財政出動で需要が押し上げられ、実質的インフレ状態にあり、急速な金融引き締めに入っているのです。
このような状況の中、日本の一部の報道・専門家は、コアコアCPIを採りあげず、CPIのみを採りあげ、円安状況を合わせ指摘し、金利の引き上げを主張しています。このような主張は、GDPギャップを無視した生かじり論と言わざるを得ません。
【日本経済は「脱中国化」が急務!】
紹介本は日本経済の「脱中国化」の必要性を二つのデータから主張しています。
一つ目は、輸入における中国への依存度偏重リスクです。一品目における中国への依存率が50%を超える品目数をドイツ・アメリカと比較してみましょう。日本は(2019年)、品目数では1133品目、輸入総額に占める比率は23.0%。アメリカは500品目・11.9%。ドイツは250品目・5.0%です。日本の依存率の異常な高さが分かります。
欧米においても経済安全保障の観点からサプライチェーンを重視し、独裁政治体制で法の支配を守らない中国との流通網の見直しを進めています。アメリカでは2021年2月、重要4品目(半導体、電気自動車向け高性能バッテリー、医薬品、レアアース)について、国産化や同盟国との関係強化による調達先多様化を進め、サプライチェーンの安定的を図る法制度を決め、具体的政策を推進しています。また、新疆ウイグル自治区が関与する製品の輸入を原則禁止する法律、ウイグル強制労働防止法が2022年6月から施行されています。
この様な環境下において、日本もこの問題を避けて通ることはできません。ウクライナ侵攻で顕在化したロシアリスクを他山の石として、日本における中国依存偏重の見直しが必要な時代が来たのではないでしょうか。
二つ目は、中国が「中所得国の罠」にはまり、今後10年以内に成長鈍化が顕在化するだろうとの指摘です。「中所得国の罠」とは、「民主主義指数6.0未満の国においては、一人当たりGDPが1万ドル近辺を超えることがない」という事実の統計上の相関(相関係数0.68)による説明です。因みに、中国の民主主義指数は2.21、一人当たりGDPは1万2551ドル(2021年)です。強権化の強まり、「国家情報法」などによる外国企業の進出リスクの高まり、急速な人口減少傾向や不動産企業の倒産を始めとする社会・経済の不安定化などを勘案すると「中所得国の罠」から脱出できる可能性は低いと思われます。
■ 「V・U・C・A」な世界・日本情勢に対峙する力を身に着けよう(むすび)
世界・日本の状況は、今やまさに、VUCAな時代に突入しています。今こそデータに基づく真実とは?の問いをし、未来を見抜いていきましょう。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm
http://sakai-gm.jp/
【 注 】 著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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