片貝孝夫の IT最前線 (Biz/Browserの普及をめざして)

Biz/Browserの黎明期からかかわって来ました。Bizを通じて日常を語ります。

電子カルテシステムを作るなら、医療事故を防ぐ仕組みも、なんとか組み込みたいものだ

2009年04月30日 | 私の正論
友人の杉浦和史さんからいただいたメールです。
ぜひお読みください。

ここから--------

使えない電子カルテが多いのは知る人ぞ知るところですが、それを払拭する電子カルテのグランドデザインを考えていた際に、使い勝手の他に何か問題はないのかを調べていたところ、引っ掛かった事例がありました。
解熱鎮痛剤の「サクシゾン」という薬剤を投与すべきところ、誤って筋弛緩剤のサクシン」を投与し、患者さんを死亡させた医療事故です。
原因は、医師が電子カルテを操作した際、投与する薬を『サクシ』と入力して検索したところ、『サクシン』だけが表示され、これを「サクシゾン」と思い込んでしまった医師がそのまま投与した結果、起きたものです。

□検索機能の機能不足
薬品名のどこかに「サクシ」を含むものを全て表示できなかった。この場合 「サクシゾン」、 「サクシン」の両方が表示されるべき。
且つ、危険な「サクシン」は赤字で表示するなどのきめ細かさが必要。
(どのメーカのものか分かりませんが、この検索機能のお粗末さはバグの範疇だと思います) 

□警告メッセージの不備
 筋弛緩剤など危険な薬が選択した場合には
 “選択されたサクシンは、筋弛緩剤です。確認願います”
       ~~~↑~~    ~~~~~↑~~
         薬品   用途、機能 

など、警告メッセージを表示する。
気の利いたメッセージは使い勝手を左右しますが、この場合は、生死を分けるメッセージです。
これがないシステムを作った設計者のセンス(というより常識)が問題だし、仕様を検討したはずの実務を知っているはずの病院関係者も問題です。
なお、電子カルテなら患者の症状がデジタル化されているはずなので、それらを総合的に判定し、この薬を処方しては危険ということで、選択できない(検索にヒットさせない)ようにすべきではなかったか?
どうしても必要という場合が想定されるなら(何でもありが病院のシステム)、明示的に薬品名をフルネームで入力させるなどの方法も危険防止には有効ではないかと思われます。 

□それでもすり抜けた場合
人間系で対応。
危険な薬を処方(指示)された場合には、看護師、薬剤師が再チェックするパスを設けておく。

今回の事件では、看護師が気が付き、サクシンで良いのかを確認したそうですが、サクシゾンと思い込んでいる医師は「20分で入れてくれ」と指示しただけだったとのことです。
看護師は単に「サクシンで良いですか」ではなく、「筋弛緩剤のサクシンですけど、いいですか」と言ったら結果は違っていたかもしれません。
もっとも、この医師は休みがほとんど取れずに働きづめだったそうで、気の毒ではあります。

人間の注意力の限界をシステムでカバーできることがあれば、そうすべきでしょうが、どれがそれに該当するかは、現場に入り込んで十分な調査をしなければ分からないことです。それが十分ではなかったということでしょう。

また、システムとは無関係ですが、問題だと思ったら、気後れせずに医師に質問できる雰囲気の醸成が必要になります。

-----------ここまで

以上です。
寺垣さんはいつも言っています。「人に向いた技術でなければ意味がない!」と。IT業界のエンジニアも肝に銘じておきたいことばです 

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (通り掛かり)
2009-04-30 23:29:50
たとえ同じ薬品でも処方量や投与方法によって危険になる場合もあるので、ITはあまり関係ないだろうと思う。必ずしも一対一ではないから難しく、専門職としてのトレーニングが必要なんです。

サクシンの事件の場合、この状況でサクシンなんかありえないのでドクターに確認するだけのこと。そんなに難しいことじゃないと思います。
ITの問題じゃないし、そんないちいち警告の出る画面は使いにくいし、警告はすぐに無視されるだけですよ。
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Unknown (nagoya)
2009-05-01 05:16:49
サクシンはあり得ないので、Drに確認というご意見がありましたが、
そのDrがそれで良いといったら終わりです。この場合は当該Drが
連続勤務で疲れていたということでしたが、システムは疲れること
はないし、注意力散漫になることもないので、冷静にダメと言える
のではないかと思います。
もっとも、この場合はあり得ない処方なので、選択できないように
するロジックにすべきだと思います。また、いちいち警告メッセージ
は慣れてくるに従って無視するだけなので用をなさなくなるのでは
ないかという危惧が指摘されていましたが、生命に拘わる作業
(操作)をしているという自覚が必要ではないかと思われます。
もちろん、“余りに”きめ細か過ぎて、しょちゅうピーピー鳴っていて
は重みがなくなりますが、生死を分ける今回のような場合は色、音、
字体、字の大きさ、表示位置をランダムに変えるなどの工夫して
注意を喚起すべきではないかと思います。
みずほ証券が、指し値と株数を間違えて誤発注して問題になった
事件がありましたが、これもピーピー鳴る状況が余りに多すぎ、
またか、ということで無視してしまった結果だと言われています。
注意の喚起の仕方に工夫をしていれば、ひょっとしたら防げた問題
かも知れません。もっとも、この場合、誤発注に気が付いた操作者
が取消しようとしてもできなかったという問題があります。いずれに
しても、最終的には人に依存することなので、その人がどうせ無視
されるので、警告メッセージは意味がないという認識の持ち主が
操作していては、どんな仕掛けも有効に働かないのではないかと
思います。
返信する
システムに魂を入れる (片貝孝夫)
2009-05-01 06:51:34
コメントありがとうございます。
コンピュータは高速でデータの出し入れをしている機械だという使い方では、使うほうは気が抜けません。コンピュータなんだから、このくらいのことは判断してよというのはあると思います。
システムを作る人は、利用者の立場を真剣に研究して、どんなエラーチェックを入れたらいいか徹底的に議論して機能を組み込むべきだと思います。そして、できれば学習機能もつけたいですね。
電子カルテの見える部分はほんの氷山の一角で、裏で膨大な知識ベースがドクターを支援しているというのが、これからの電子カルテのありかたではないでしょうか。
知識ベースは世界の最新の知識とリアルタイムに連携させることも可能ですし。
素人考えですみません。
返信する
Unknown (梁山泊)
2009-05-01 09:16:04
発生頻度、重要度に無関係に、微に入り細に亘ったエラーチェック処理から出されるアラートや確認メッセージが邪魔になるとは、使う側から出される苦情の多くを占めることは知る人ぞ知るところです。だから、慣れるに従って、「またか!」となり、メッセージの中身を確かめずにOKをだしてしまうことになります。ここで重要なのは、冒頭に述べた、発生頻度、重要度の吟味ではないかと思います。現場の作業実態を観察し、業務に携わっている担当者から実際に起こっていることを細大漏らさず聞き出し、どんな場合にどの様なアラート、メッセージを表示すれば良いのかを決めます。この過程で、慣れで操作してしまった場合に問題の起きそうな判断についても洗い出します。こうして整理した結果を、ヒアリングした現場の担当者
を交えて、問題がないかを注意深くレビューします。通り一遍のヒアリングや、おざなりのレビューでは、ウルサイとか、お節介とか言われてしまうアラート、メッセージになってしまいます。今回の生死に関わるメッセージですが、これはメッセージを出す以前に、選択出来ないようにすることができないかを検討すべきだと思います。検討結果をルールとして、片貝氏の言われる知識ベース(ルールベース)に蓄積し、判断の基準にするということです。

返信する
Unknown (Unknown)
2009-08-22 11:44:05
実際に電子カルテを使っている者です。朝から晩まで延々と電子カルテに向かい、入力をしています。パソコンを一日中みつめ、指先だけ動かしているだけでは、どうしても操作に疲れてきます。しかし、クリック一つ操作ミスをすると、誤った記録や指示が入ってしまいます。医師であろうとも常に正しい入力で完璧な仕事ができるわけではないので、確認や事故防止のための防止線を張るため、警告や確認メッセージは必ず必要になってきます。そのひとつの操作で、患者さんの命が左右されます。実際に現場にいて働く人間でなければ、その重みはわかりません。私なら自分の親や子供が、その操作で生命が脅かされ、健康が害されることもあると思えば、一つ一つの作業に確認されていることが当然のように思えます。何度も出てくる警告メッセージでも、無視するような医療関係者はいません。むしろ、警告メッセージ以上に確認をしています。それでも疲れて確認ミスが起きるのです。だから何度でも確認が必要になってきます。電子カルテに簡単に入力され、簡単に入力ミスが起き、医療事故につながる今の電子カルテの現状を何とかしてもらいたいです。そのためには杉浦さんのような機能が必要です。IT技術者はもっと考えて、もっと確実に機能するようなカルテを作るべきです。入力ミスで今でも人が死んでいくのです。
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姿勢を正されました (片貝孝夫)
2009-08-23 10:02:44
コメントありがとうございました。
お医者さんでいらっしゃいますね。
私どもシステムを作っている側にとってこういったご意見は最も貴重です。
何のためにシステムを作っているか、それはそのシステムを使う方のためです。
杉浦さんもきっと喜ぶと思います。
知らせてあげます。
ありがとうございました。
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この先生を支援するシステムを目指します。 (杉浦和史)
2009-08-23 21:23:39
杉浦でございます。片貝さんから連絡があり、拝見いたしました。

“常に正解を求められるDrを可能な限りサポートする機能が必要である”とのご意見、正に我が意を得たりです。

通常の企画・提案書作成では、顧客の状況を観察し、ヒアリングを行ってニーズを把握し、最適な提案をする
ための検討、衆知を集める時間的余裕があります。翻って電子カルテ(EMR)はどうでしょうか。患者さんを
前にして、即断・即決が求められ、時間的な余裕はなく、尚かつ、準公文書扱いのEMRは改変できないと
いう問題(前提)があります。これで常に正確を期待され、そうしなければ訴訟問題にもなる懸念があるのでは、
疲れとストレスが倍増するはずです。

そこで、できるだけ、手間が掛からず、ストレスを感じないUI(User Interface)、使い勝手が必要になります。
その一つの解決方法が、警告メッセージであり、間違えようがない選択抑止ではないかと思います。「安心して
間違ってください」という機能です。
もちろん、基本機能として、作業の因果関係を反映した、“相互に連携した操作感”が必要なのは言うまでもあり
ません。メッセージも、“どうしていけないのか”、“どうすれば良いのか”が瞬時に理解出来る簡潔な表現が必要
になります。過ぎたるは及ばざるがごとしの通りで、回りくどいメッセージが幾重にも表示され、「ウルサイ!」と
思われるようなことは、避けなければなりません。

紙カルテではパラパラとめくって分かる今日の体温が、EMRでは何回かクリックしたり、スクロールしたりしなけ
れば分からず、何倍、何十倍の手間を要するという記事を見たことがあります(2003年頃)。Drと作り手のやり
取りの中で、Drが「~できますか」と聞き、作り手が「できます」と答える際の前提条件の違いに、その原因が
あると思います。確かに“できる”のですが、その“できる”を得るためには、何回もの操作が必要であることが隠
れているわけです。それが使う場面になり、“使えない”、“面倒”、“疲れる”ということになって現れることになり
ます。お互いに“都合の良い理解をしがち”であることを念頭に、仕様を決め、確認し合わなければならないという
ことではないでしょうか。

モダンホスピタルショウで、ある会社の製品説明を聞いていたDrとおぼしき方が、「各社を回ってきたが、どこも
同じように見える。この製品は他社に比べて何が優れているのですか」と説明員に聞いていましたが、返答に窮
していました。ステレオタイプな仕様や、勝手な効果算定ではなく、また、無意味な多機能高機能化競争から脱
した、画面レイアウト、画面遷移、操作性など、センスと使い勝手の競争になって欲しいと思います。
それには、現場主導で作られた仕様が必要です。通り一遍のヒアリングや、管理層へのヒアリングでは出てこない
現場で行われていることへの、深くて広い観察と理解が必要になると思います。もちろん、現場業務はBPR済み
であることはいうまでもありません。
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Unknown (PACS)
2011-05-02 18:04:43
そうですね、何のためにシステムを入れますか?もちろん、利益の部分があります。でも、お金だけではありませんと思っています。日本、みんなの医療水準アップするためでしょう。
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