「お父さんは何処にいらつしやるのだ?」彼はだしぬけにさう叫んだ。さて、次の間へ飛び込んで行つてみると、そこにはゼペツトがちやんとゐた。ゼペツトは病気が治つて元気になつて、おまけにすつかり若返つて、最初にピノチオを彫刻にかかつた時と同様に生々してゐる。
「いつたい、これはみんな、どうしたんです、お父さん?」と、ピノチオは尋いた。
「それはねお前、お前はこれから、この立派な家に釣合ふやうに立派な行ひをしなくちやならない、といふことなのさ。」と、ゼペツトは言つた。
「ええ、僕、やつてみますとも。」と、ピノチオは言つた。「でも、お父さんまでがそんなに元気になつて、若々しくおなりになつたのは、いつたいどうしてなの?」
「いけない子がよくなると、おかげで何もかもすつかり善くなつてゆくさ。家内中のものがみんな仕合せになれるんだよ。」
「そしてもとのピノチオは?――あれは何処へ行つちやつたの?」
「そこにあるよ。」とゼペツトは答へた。そして、彼は、そこの椅子にもたらせかけた木の操人形を指したが、其奴が首をがつくりさせ、両手をぐんなりして、さて両足を組み違へてゐる態たらくときては、そもそもこんな代物が立上つたといふことからして既に奇蹟のやうに思はれるのだつた。
ピノチオは振返つてもとの自分を眺めやつた。さてしばらくの間しげしげと見守つてから、彼はさも満足げにかう言つた。――「僕が操人形だつた時分はまあ何といふやくざだつたんだらう!そして今こそ本当の男の子になれて、まあ何といふ仕合せだらう!」
(「ピノチオ」 コロディ 佐藤春夫譯)