「パレイドリア pareidolia」という単語を本書で初めて知った。本書の表紙でその単語のスペルを知って、手許の『リーダーズ英和辞典』(初版・研究社)を引くと載っていない。インターネットの「英辞郎 on the WEB」で単語検索すると、「<<医>>パレイドリア」と載っている。医学用語で英語で使われているようだが意味不明。
そこで、ネット検索結果を引用してみると、『世界大百科事典 第2版』に、「精神医学の用語。空の雲が大入道の顔にみえたり,古壁のしみが動物に見えたりするように,対象が実際とは違って知覚されることをいう。意識が明瞭ないしはほとんど障害されていない状態で起きるもので,批判力は保たれ,それが本当は雲であり,しみであるとわかっている。熱性疾患のときにしばしば体験されるが,ほかに譫妄(せんもう),LSDなどの薬物酩酊時にも出現する。[小見山 実]」と説明されている。
本書を読み始めると、79ページにパレイドリアについて、会話の中でこんな説明が出てくる。「パレイドリアだ。より狭義にはシミュラクラともいう。雲や壁のしみが、目と鼻と口を連想させる配列というだけで、顔面と感じる心の作用。心霊写真のからくりとして、よく説明される」と。
なぜ、こんなタイトルが出てくるのか。それは栃木県北部、福島との県境に近い猜ヶ宇郡(あべがうぐん)、猪狩(いかり)村という寒村にある斧研(おのとぎ)山に突然エアーズロックのような巨大な塚が出現したことによる。この村の森林組合の職員として働く尾崎正嗣(まさつぐ)はこの斧研山担当であり、その現場に射守矢(いもりや)山を担当する同僚の筒井稔が仕事を終えて立ち寄りしばらく話し合っているとき、大きな地震が起こったのだ。その後山頂を見た二人が巨大な塚の出現を見て仰天する。森林組合が管理する7つの山に定点カメラが設置されているのだが、地震発生後、釜研山の3つの定点カメラが倒れていた。カメラのポールは地中深く刺さっていて、イノシシがぶつかってもびくともしないはずなのに、である。この山を担当する尾崎は地震以前に山を巡回していてもこんな塚をみなかったし、定点カメラの映像記録にもなかったはずという。
ますは森林組合の本部に戻り、信じがたい現象を報告すると、村長が空からの状況を確認してもらう決断をした。
栃木県防災航空隊に属する派遣消防職員がヘリで偵察に山の上空に向かう。そして、眼下を見て鳥肌が立つ思いをした。直径50m、木々のない円形の一帯がドーム状に盛り上がり、苦悶にお思える表情の巨大な人面を山肌に発見したのである。
一躍、この寒村に出現した特異現象にマスコミが食いついてくる。「人面塚」出現と報道し、その出現の謎を喧伝する。
収入源の乏しい寒村。人々の生活維持策をはかり、平和な村を運営したいと努力してきた村長。そこへ突然の人面塚の出現。斧研山の所有者である紀伊は、この「人面塚」報道利用し、これを観光資源にして儲けようと動き出す。不可思議さ・神秘性を維持するために、人面塚への立入調査を全面拒否する。一方、好奇心旺盛な人々が人面塚見たさに殺到してくる。
人面塚の出現は地震との関連で起こった自然現象なのか? それともそこには人為的な作為がある人工物なのか?
地質遺産の観光化を考えるなら、公の原因調査がなされて、自然現象による地質遺産だと認められないと意味がないという問題が浮上する。人工物なら、誰が何のために造ったのか? 人工物なら、釜研山を担当する森林組合職員やその近辺を通って担当する山に向かう職員がいるにもかかわらず、発見されなかったことになる。それはなぜか?
この小説には2つの大きな筋がある。一つがこの「人面塚」騒動である。
しかし、ストーリーの本筋は猪狩村の隣の笛吹村にある。
茨城大学や国立極地研究所が千葉での地磁気逆転の存在が報告されていた。その少し後に、75万年前の地層から磁極逆転の証拠となる鉱石が新潟と鹿児島で発見されたと安詮院大学の久保忠幸教授のグループ調査結果を発表したのである。そして、猪狩村で「人面塚」が話題になった最中に、久保忠幸教授のグループが笛吹村で、地磁気逆転に関する新たな調査を開始し、地磁気逆転の証拠が認められるという。そこに作為性が感じられるが、捏造につきものの杜撰なデータは見あたらない状況のようなのだ。久保教授が立て続けに3ヵ所目に取り組んでいるこれらの調査は厳然たる科学的事実なのか捏造なのか?
なぜ、それを早急な問題とするのか? 文科省がそこに絡んでいるからである。
このストーリーの主な登場人物として、廣瀬秀洋(ひでひろ)と水鏡瑞希(みかがみみずき)が登場する。
廣瀬は文科省勤務、27歳で静岡大卒の総合職試験合格組、いわゆるキャリアの一人である。東大卒ではない。大臣官房の国際課に居たが、数部署を経て、大臣官房政策課評価室の傘下にある「研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」に移されることとなる。人事評価調整官の宇賀からは、このタスクフォースに所属する事務官の水鏡瑞希を指導する立場になること、有り体に言えば監視役となるよう指示される。水鏡瑞希が同期の事務官とくらべて、始末書の提出回数がずば抜けて多い、すぐになにかをやらかす要注意人物とみなされているのである。
この小説の冒頭は、映画007シリーズの冒頭エピソードの如くに、ある問題処理に関連し、水鏡瑞希がカミングアウトしてくるエピソードから始まる。このショートストーリーそのものがまずおもしろい。そして、このエピソードが、廣瀬をタスクフォースに移すという懲罰人事の原因ともなった。
水鏡瑞希は廣瀬が異動辞令を受けたタスクフォースに所属する事務官で、二十代のヒラ職員。立箕(りっき)大学経済学部卒である。周りの男性事務官からは、事務官という立場をわきまえないお荷物とみなされている。
タスクフォースに移った廣瀬は、笛吹村での久保教授グループによる地磁気逆転に関する調査の現場に赴き、その調査が捏造ではないかを調べてくるように指示される。必然的に事務官である水鏡を連れていくことになる。
なぜ早急になのか? 大臣の諮問機関である教科用図書検定調査審議会から、申請中の教科書の記述についうて、専門的かつ学術的な判断を要請されていることが直接要因としてあるからなのだ。最後に発生した地磁気逆転の時期についての記述がかかわってくるのである。そこに、久保教授のグループが調査結果として発表した時期が絡んでくるのだ。 文科省には、2000年に発覚した旧石器発掘捏造問題という不祥の悪夢がある。それと同種の捏造問題の再来を恐れているのである。
だが、問題はそれだけではなく、他省庁に絡む政治的案件も背後に絡んでいたのだ。勿論その次元は、文科省のトップクラスの官僚の胸中に留まることではあったが。
この小説には、文科省が直接には関与しない「人面塚」発生原因究明にかかわる側面と、文科省主管事項になる笛吹村での地磁気逆転の証拠となる鉱石調査における捏造の可能性究明という側面が、織り交ぜられながら展開していく。そして、2つの別次元の問題が交点を持つようになる。その意外な展開の中で、水鏡瑞希の推理が事態の進展を加速化していくと言う点がおもしろい読ませどころである。
地磁気逆転という事象を扱う故に、会話の中でかなり専門的な内容に深く入り込んでいる箇所が頻繁に出てくる。この領域の科学知識を持つ人々と門外漢では、会話に出てくるやりとりの理解と楽しみ方はたぶん、異なるだろう。門外漢の私にはその知識内容・説明が理解できたとは思えない。ただし、その会話の文脈は理解できるので、その小説の展開を楽しむ分には、専門分野の知的会話は一種のフレーバーを味わう感じだった。
この小説にはいくつかのテーマが交錯しながら進展していく。
主軸は、地磁気逆転という事象についての調査内容が捏造であるかどうかの究明プロセスを描くという点にある。そして、そのテーマの中で、旧石器発掘捏造問題という実際に発生した考古学研究領域での汚点の実態を点描する。そこから生まれる対比視点もおもしろい。
副軸は、「人面塚」問題である。ここにも秩父原人騒動がアナロジーとして重ねられている。マスコミの動きや人々の好奇心、そこに商機を見る人間の行動などが、リアルに書き込まれ、「人面塚」の究明ストーリーが意外な方向に展開するおもしろさがある。
釜研山の所有者紀伊の商魂を描くが、その裏に別の意図が潜んでいるという興味深さ。さり気なく描き出されているが、そこには現代社会の未解決事象である重要問題に繋がっている。さらりと社会問題批評の視点を絡ませている。
ストーリーの底流には、文科省をモデルとして、キャリア官僚の実態を社会批判的視点から描くというテーマが潜んでいる。キーワードをいくつか要約してピックアップしてみる、事務次官をめざす出世レース、圧倒的多数の東大卒と差別を受ける他大学卒、終始見下すような態度、面倒事は一般職に押し付ける、抜け目なくたちまわる、幹部にとって官僚や事務官は盤上の駒、己に失点を残さない、責任を押し付ける相手を決めておく・・・・。誇張し、極端化し、一般化している面もあるだろうが、なるほどと感じるところも多い。
水鏡推理は既にシリーズ化している。水鏡瑞希、興味深いキャラクターが新たに創造された。楽しみに読み継いでいきたい。廣瀬と水鏡の関係は、今後どうなるのかも、ちょっと楽しみである。
ご一読ありがとうございます。
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本書に出てくる事項で関心を抱いたものをネット検索してみた。一覧にしておきたい。
ウルル ← エアーズロック :ウィキペディア
旧石器捏造事件 :ウィキペディア
埋蔵文化財|旧石器発掘ねつ造問題について :「宮城県」
旧石器捏造・誰も書かなかった真相 奥野正男氏 :「邪馬台国の会」
火山灰編年学からみた前期旧石器発掘ねつ造事件 早川由起夫氏
--夢かうつつか“秩父原人”-- 上 冨安京子氏:「夕刊フジ特捜班(追跡)」
--夢かうつつか“秩父原人”-- 下
原人まつりの歴史 :「明石原人まつり」
地磁気逆転 :ウィキペディア
地球電磁気のQ&A :「気象庁 地磁気観測所」
地球の地磁気逆転の手がかりとなる古代の住居が発見される(米研究):「カラパイア」
地磁気50のなぜ 制作 名古屋大学太陽地球環境研究所他 pdfファイル
大いなる磁石、地球 デビット P. スターン
地磁気の逆転と大陸移動
中間貯蔵施設とは :「中間貯蔵施設情報サイト 環境省」
中間貯蔵施設に係わるこれまでの動き
中間貯蔵施設に関するトピックス :「朝日新聞DIGITAL」
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これまでに読み継いできた作品のリストです。こちらもお読みいただけるとうれしいです。
松岡圭祐 読後印象記掲載リスト ver.1 2016.7.22
そこで、ネット検索結果を引用してみると、『世界大百科事典 第2版』に、「精神医学の用語。空の雲が大入道の顔にみえたり,古壁のしみが動物に見えたりするように,対象が実際とは違って知覚されることをいう。意識が明瞭ないしはほとんど障害されていない状態で起きるもので,批判力は保たれ,それが本当は雲であり,しみであるとわかっている。熱性疾患のときにしばしば体験されるが,ほかに譫妄(せんもう),LSDなどの薬物酩酊時にも出現する。[小見山 実]」と説明されている。
本書を読み始めると、79ページにパレイドリアについて、会話の中でこんな説明が出てくる。「パレイドリアだ。より狭義にはシミュラクラともいう。雲や壁のしみが、目と鼻と口を連想させる配列というだけで、顔面と感じる心の作用。心霊写真のからくりとして、よく説明される」と。
なぜ、こんなタイトルが出てくるのか。それは栃木県北部、福島との県境に近い猜ヶ宇郡(あべがうぐん)、猪狩(いかり)村という寒村にある斧研(おのとぎ)山に突然エアーズロックのような巨大な塚が出現したことによる。この村の森林組合の職員として働く尾崎正嗣(まさつぐ)はこの斧研山担当であり、その現場に射守矢(いもりや)山を担当する同僚の筒井稔が仕事を終えて立ち寄りしばらく話し合っているとき、大きな地震が起こったのだ。その後山頂を見た二人が巨大な塚の出現を見て仰天する。森林組合が管理する7つの山に定点カメラが設置されているのだが、地震発生後、釜研山の3つの定点カメラが倒れていた。カメラのポールは地中深く刺さっていて、イノシシがぶつかってもびくともしないはずなのに、である。この山を担当する尾崎は地震以前に山を巡回していてもこんな塚をみなかったし、定点カメラの映像記録にもなかったはずという。
ますは森林組合の本部に戻り、信じがたい現象を報告すると、村長が空からの状況を確認してもらう決断をした。
栃木県防災航空隊に属する派遣消防職員がヘリで偵察に山の上空に向かう。そして、眼下を見て鳥肌が立つ思いをした。直径50m、木々のない円形の一帯がドーム状に盛り上がり、苦悶にお思える表情の巨大な人面を山肌に発見したのである。
一躍、この寒村に出現した特異現象にマスコミが食いついてくる。「人面塚」出現と報道し、その出現の謎を喧伝する。
収入源の乏しい寒村。人々の生活維持策をはかり、平和な村を運営したいと努力してきた村長。そこへ突然の人面塚の出現。斧研山の所有者である紀伊は、この「人面塚」報道利用し、これを観光資源にして儲けようと動き出す。不可思議さ・神秘性を維持するために、人面塚への立入調査を全面拒否する。一方、好奇心旺盛な人々が人面塚見たさに殺到してくる。
人面塚の出現は地震との関連で起こった自然現象なのか? それともそこには人為的な作為がある人工物なのか?
地質遺産の観光化を考えるなら、公の原因調査がなされて、自然現象による地質遺産だと認められないと意味がないという問題が浮上する。人工物なら、誰が何のために造ったのか? 人工物なら、釜研山を担当する森林組合職員やその近辺を通って担当する山に向かう職員がいるにもかかわらず、発見されなかったことになる。それはなぜか?
この小説には2つの大きな筋がある。一つがこの「人面塚」騒動である。
しかし、ストーリーの本筋は猪狩村の隣の笛吹村にある。
茨城大学や国立極地研究所が千葉での地磁気逆転の存在が報告されていた。その少し後に、75万年前の地層から磁極逆転の証拠となる鉱石が新潟と鹿児島で発見されたと安詮院大学の久保忠幸教授のグループ調査結果を発表したのである。そして、猪狩村で「人面塚」が話題になった最中に、久保忠幸教授のグループが笛吹村で、地磁気逆転に関する新たな調査を開始し、地磁気逆転の証拠が認められるという。そこに作為性が感じられるが、捏造につきものの杜撰なデータは見あたらない状況のようなのだ。久保教授が立て続けに3ヵ所目に取り組んでいるこれらの調査は厳然たる科学的事実なのか捏造なのか?
なぜ、それを早急な問題とするのか? 文科省がそこに絡んでいるからである。
このストーリーの主な登場人物として、廣瀬秀洋(ひでひろ)と水鏡瑞希(みかがみみずき)が登場する。
廣瀬は文科省勤務、27歳で静岡大卒の総合職試験合格組、いわゆるキャリアの一人である。東大卒ではない。大臣官房の国際課に居たが、数部署を経て、大臣官房政策課評価室の傘下にある「研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」に移されることとなる。人事評価調整官の宇賀からは、このタスクフォースに所属する事務官の水鏡瑞希を指導する立場になること、有り体に言えば監視役となるよう指示される。水鏡瑞希が同期の事務官とくらべて、始末書の提出回数がずば抜けて多い、すぐになにかをやらかす要注意人物とみなされているのである。
この小説の冒頭は、映画007シリーズの冒頭エピソードの如くに、ある問題処理に関連し、水鏡瑞希がカミングアウトしてくるエピソードから始まる。このショートストーリーそのものがまずおもしろい。そして、このエピソードが、廣瀬をタスクフォースに移すという懲罰人事の原因ともなった。
水鏡瑞希は廣瀬が異動辞令を受けたタスクフォースに所属する事務官で、二十代のヒラ職員。立箕(りっき)大学経済学部卒である。周りの男性事務官からは、事務官という立場をわきまえないお荷物とみなされている。
タスクフォースに移った廣瀬は、笛吹村での久保教授グループによる地磁気逆転に関する調査の現場に赴き、その調査が捏造ではないかを調べてくるように指示される。必然的に事務官である水鏡を連れていくことになる。
なぜ早急になのか? 大臣の諮問機関である教科用図書検定調査審議会から、申請中の教科書の記述についうて、専門的かつ学術的な判断を要請されていることが直接要因としてあるからなのだ。最後に発生した地磁気逆転の時期についての記述がかかわってくるのである。そこに、久保教授のグループが調査結果として発表した時期が絡んでくるのだ。 文科省には、2000年に発覚した旧石器発掘捏造問題という不祥の悪夢がある。それと同種の捏造問題の再来を恐れているのである。
だが、問題はそれだけではなく、他省庁に絡む政治的案件も背後に絡んでいたのだ。勿論その次元は、文科省のトップクラスの官僚の胸中に留まることではあったが。
この小説には、文科省が直接には関与しない「人面塚」発生原因究明にかかわる側面と、文科省主管事項になる笛吹村での地磁気逆転の証拠となる鉱石調査における捏造の可能性究明という側面が、織り交ぜられながら展開していく。そして、2つの別次元の問題が交点を持つようになる。その意外な展開の中で、水鏡瑞希の推理が事態の進展を加速化していくと言う点がおもしろい読ませどころである。
地磁気逆転という事象を扱う故に、会話の中でかなり専門的な内容に深く入り込んでいる箇所が頻繁に出てくる。この領域の科学知識を持つ人々と門外漢では、会話に出てくるやりとりの理解と楽しみ方はたぶん、異なるだろう。門外漢の私にはその知識内容・説明が理解できたとは思えない。ただし、その会話の文脈は理解できるので、その小説の展開を楽しむ分には、専門分野の知的会話は一種のフレーバーを味わう感じだった。
この小説にはいくつかのテーマが交錯しながら進展していく。
主軸は、地磁気逆転という事象についての調査内容が捏造であるかどうかの究明プロセスを描くという点にある。そして、そのテーマの中で、旧石器発掘捏造問題という実際に発生した考古学研究領域での汚点の実態を点描する。そこから生まれる対比視点もおもしろい。
副軸は、「人面塚」問題である。ここにも秩父原人騒動がアナロジーとして重ねられている。マスコミの動きや人々の好奇心、そこに商機を見る人間の行動などが、リアルに書き込まれ、「人面塚」の究明ストーリーが意外な方向に展開するおもしろさがある。
釜研山の所有者紀伊の商魂を描くが、その裏に別の意図が潜んでいるという興味深さ。さり気なく描き出されているが、そこには現代社会の未解決事象である重要問題に繋がっている。さらりと社会問題批評の視点を絡ませている。
ストーリーの底流には、文科省をモデルとして、キャリア官僚の実態を社会批判的視点から描くというテーマが潜んでいる。キーワードをいくつか要約してピックアップしてみる、事務次官をめざす出世レース、圧倒的多数の東大卒と差別を受ける他大学卒、終始見下すような態度、面倒事は一般職に押し付ける、抜け目なくたちまわる、幹部にとって官僚や事務官は盤上の駒、己に失点を残さない、責任を押し付ける相手を決めておく・・・・。誇張し、極端化し、一般化している面もあるだろうが、なるほどと感じるところも多い。
水鏡推理は既にシリーズ化している。水鏡瑞希、興味深いキャラクターが新たに創造された。楽しみに読み継いでいきたい。廣瀬と水鏡の関係は、今後どうなるのかも、ちょっと楽しみである。
ご一読ありがとうございます。
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ウルル ← エアーズロック :ウィキペディア
旧石器捏造事件 :ウィキペディア
埋蔵文化財|旧石器発掘ねつ造問題について :「宮城県」
旧石器捏造・誰も書かなかった真相 奥野正男氏 :「邪馬台国の会」
火山灰編年学からみた前期旧石器発掘ねつ造事件 早川由起夫氏
--夢かうつつか“秩父原人”-- 上 冨安京子氏:「夕刊フジ特捜班(追跡)」
--夢かうつつか“秩父原人”-- 下
原人まつりの歴史 :「明石原人まつり」
地磁気逆転 :ウィキペディア
地球電磁気のQ&A :「気象庁 地磁気観測所」
地球の地磁気逆転の手がかりとなる古代の住居が発見される(米研究):「カラパイア」
地磁気50のなぜ 制作 名古屋大学太陽地球環境研究所他 pdfファイル
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その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
これまでに読み継いできた作品のリストです。こちらもお読みいただけるとうれしいです。
松岡圭祐 読後印象記掲載リスト ver.1 2016.7.22