遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『特等添乗員αの難事件 Ⅲ』 松岡 圭祐  角川文庫

2014-11-08 09:42:20 | レビュー
 この作品もいくつかのエピソードを交えながらストーリーが展開するのはいつも通りである。そのエピソードが何某か本流に関わりを持っているのであるが。
 さて冒頭は、ユネスコ登録の世界遺産、トルコのパムッカレでの観光案内シーンから始まって行く。特等添乗員シリーズは、観光を底流にできるため国内外自由自在というところがおもしろい。それも通り一遍の観光シーンでない描写となるのがこのシリーズの持ち味だろう。
 パムッカレは大手旅行会社JTW(ジャパン・トラベル・ウェイ)の一行とJTBの一行が早朝に現地で鉢合わせするところから始まる。なぜ早朝に現地入りするのかでの展開がミソである。JTWは添乗員が28歳の清藤遙香がご一行を率いていて、この中には添乗業務査察のために同行した旅行部添乗課の弓削治朗課長が加わっている。清藤にとっては腕の見せ所なのだ。一方、JTWの商売敵のJTBは特等添乗員α浅倉絢奈が率いるご一行なのだ。「JTBじゃねえか。商売敵だ。先を越されたな」などとつぶやき、清藤にプレッシャーをかけるという次第。絢奈と遙香のガイドには一勝一敗的なガイドとなり、ガイド豆知識が織り交ぜられておもしろい。
 添乗員の清藤には、トルコでの業務の他に、1枚の絵葉書に絡んだ人捜しの目的を持っていた。ホテルで目にとまり清藤に近づいて挨拶した絢奈が遙香の手にする絵葉書を目に留めたことで、あることに気がつく。これが別のエピソードに繋がって行く。また、絢奈のガイド状況を見た弓削は、帰国後に絢奈を添乗員派遣会社クオンタムから正式にスカウトしようという行動に出る。それは絢奈にとって壱条那沖絡みでの移籍問題であり、絢奈にとっては自分の仕事についての一波乱となる。泉谷社長がスカウトに合意するのだから・・・・。これがどうなるか? ストーリーの本筋と微妙に関わっていく。

 さて、トルコからの絢奈帰国後に本筋の難事件が始まることになる。それは明日発売の週刊誌記事についてのテレビ報道から始まるのだ。「壱条凌真元官房長官の妻で、自身も長年にわたり都議会議員を務めてきました。その真尋さんが1987年当時、タイのバンコクに渡り、現地の男性と関係を持っていた」「週刊誌によれば・・・息子の壱条那沖さんは、バンコクのこの男性と真尋さんのあいだにできた子供の可能性が高い・・・」と。絢奈にとっては、まさに青天の霹靂である。自宅でテレビを見ていた絢奈は脱兎の如く飛び出して、白金高輪の壱条家に向かって行く。マスコミ関係者が群れをなす壱条家に近寄ることすらできない。壱条家では、事実無根を証明するために、父凌真と息子那沖のDNAサンプルを採取し、DNA鑑定をするという手段をとることになる。だが、なぜか予期せぬ結果が発表される。鑑定結果は真実なのか?
 一方、マスコミでは、那沖の母の過去の行動事実がリークされていく。バンコク市内で真尋がDNA鑑定を受けていたこと、弁護士にかつて離婚手続きのことを相談していたことという断片的事実が明るみに出るのだ・・・・。

 母真尋は黙して語らず、体調を崩していく。父凌真は落ち込んでいく一方、別荘・象山荘の書庫に保管されている過去の記録を調査させるという打開策を取ろうとする。だが、それは政治家である壱条凌真を陥れる罠になるかもしれないのだ。

 絢奈は能登先生に言う。「壱条凌真さんと那沖さんは実の親子です。」「根拠なんかありません。わたしがそう信じているだけです」と。能登廈人は壱条家がいま何者かの卑劣な策謀の犠牲になっていると見ている。そして絢奈に告げる。「那沖さんは壱条家の跡継ぎです。その那沖さんと共に歩んでいく覚悟がおありでしょう。ならばこそ、これからは浅倉さんが壱条家を守るのです」
 
 絢奈は中央合同庁舎3号館の三階、観光産業課でデスクワーク中の壱条那沖のところに乗り込んでいく。そして那沖に催行人数1名の申し込みによるツアーに出かけようと勧誘する。行き先は「真実」だと。その瞬間から、絢奈と那沖の真実へのツアーが始まる。
 週刊誌に壱条家の醜聞記事を書いたフリーライター槇島龍生についての情報を提供する形で、『週刊角川』の記者小笠原悠斗が若干の協力をする。ロジカル・シンキングの凜田莉子はソウルでの出張鑑定に出かけており、絢奈は彼女に頼れない。絢奈と那沖は、小笠原から得たフリーライターの住所に出かけてみることから真実捜しのツアーをスタートさせるのだ。そして、壱条凌真が象山荘の書庫の保管記録を調査に入るよりも先回りで現地に入り、凌真を陥れるための謀略がなされていないかの調査を始める。この壱条家に降りかかった難事件を解決するために、絢奈と那沖は、関連する日本国内の現地を踏査するが、真実はそこから見え始めていくというストーリー展開となる。

 このシリーズで面白いのは、添乗員という絢奈の職業柄、観光情報が織り込まれていることである。冒頭はトルコの世界遺産観光話。そしてこの真実行きツアーのプロセスで象山荘に現地入りする途中、象山荘のある近くとして岡山県北部の湯原温泉郷の観光情報が少し織り込まれている。
 そして、象山荘では、添乗員の必需品、ブラックライトとブラックライト用詰め替えインクがこの難事件解決に一役買うことになる。このあたり巧妙な筋立てになっている。
 
 この難事件の山場は2カ所ある。壱条家の別荘象山荘での事件の謎解きと、成田空港での絢奈と槇島龍生の対決である。特等添乗員α・絢奈の知識情報が威力を発揮する。槇島との対決のために絢奈が試みるバーチャルツアーもおもしろい。それは第二の山場への切り込み口だったのだ。

 別の観点からこのストーリー展開で興味深いのは、壱条家のそれぞれの人間関係が掘り下げられていく局面である。父凌真と息子那沖の関わり方、母真尋の黙して語らずに徹した姿勢と息子那沖の関わり方、凌真と真尋の心情、そして、母真尋が隠し続けてきた真実が明らかになる。さらに長い間壱条家に勤めてきた能登廈人の壱条家との関わり方。勿論、絢奈の那沖に対する心情、絢奈と那沖の関わり方の深まりが読みどころでもある。
 
 本作品は壱条家にとっての予期せぬスキャンダル、一大危機の出現であり、絢奈にとっても青天の霹靂をテーマにしているのが読者を惹きつけることだろう。

 能登先生が絢奈にぴしゃりと言った言葉が実によい。
 「落ち着きなさい!」「前へ進みたいのなら、まずは今ありがままを受け入れなさい」 「信念が揺るぎないものであるなら、あとはそれを真実と証明するだけでよい。」

 ご一読ありがとうございます。

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本作品と関連する事項で、関心を抱いた語句をネット検索してみた。
一覧にしておきたい。

ヒエラポリス-パムッカレ :ウィキペディア
パムッカレの石灰棚とヒエラポリス遺跡 (Pamukkale & Hierapolis)
  :「トルコ旅行記 世界遺産を巡る10日間ツアー」
コーヒーの原産地について :「珈琲倶楽部」
コーヒーの歴史 「コーヒーの基礎知識」:「ATJ」
チューリップ :ウィキペディア
世界最古のコイン → エレクトロン貨 :ウィキペディア
ハタイ・聖ペトロ教会  :「WORLD HERITAGE」
トルコの信仰ツーリズムと巡礼地  :「H.I.S トルコ支店」
ガイド イスタンブール 地域の概要・特色 :「トルコ共和国大使館 文化広報参事官室」
アヤソフィア :ウィキペディア

飛騨大鍾乳洞 :「飛騨大鍾乳洞&大橋コレクション館」
湯原温泉郷  公式ホームページ

DNA型鑑定 :ウィキペディア
DNA鑑定  :「法科学鑑定研究所」

プロジェクトA  :ウィキペディア
プロジェクトA 主題歌  東方的威風 :YouTube
プロジェクトA2 史上最大の標的  :ウィキペディア
Jackie Chan Project A2 FULL Japan outtakes  :YouTube

パスポート  :ウィキペディア
  パスポートの申請から受領まで  :「外務省」
  IC旅券リーフレット :「外務省」
  IC旅券イメージ   :「外務省」


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特等添乗員αに関して、読み進めてきたものは次の作品です。
 こちらもお読みいただけると、うれしいです。

『特等添乗員αの難事件 Ⅰ』
『特等添乗員αの難事件 Ⅱ』

万能鑑定士Qに関して、読み進めてきたシリーズは次の作品です。
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『万能鑑定士Qの攻略本』 角川文庫編集部/編 松岡圭祐事務所/監修

『万能鑑定士Qの探偵譚』

☆短編集シリーズ
『万能鑑定士Qの短編集 Ⅰ』
『万能鑑定士Qの短編集 Ⅱ』

☆推理劇シリーズ
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅰ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅱ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅲ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅳ』 

☆事件簿シリーズは全作品分の印象記を掲載しています。
『万能鑑定士Q』(単行本) ← 文庫本ではⅠとⅡに分冊された。
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅲ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅳ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅴ』 
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅵ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅶ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅷ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅸ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅹ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅠ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅡ』



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