遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅰ』 松岡圭祐   角川文庫

2014-10-09 13:01:29 | レビュー
 このストーリーは、凜田莉子が波照間島から巣立ち、石垣島発羽田行の直行便で東京に出て行った「遡ること5年」の時点を点描することから始まる。莉子はその時の搭乗便でハイジャックまがいの事件に遭遇していたのだ。万能鑑定士の連作を読み継いでいくと、凜田莉子の経験した人生が少しずつ明瞭になり、莉子像が肉付けされていく。多面的に情報が累積されるというのは楽しいものである。
 莉子のいくところに事件ありというところ。ただし、この時点では莉子はまだ感受性は異常なほど強いが天然のままであり、事件発生にとまどってるばかりだった。ではなぜ5年前のこの旅客機での事件がでてくるのか? それはこの推理劇Ⅰの事件解決に関わるひとつの事実が伏線となっているからだ。何が伏線か? それは読んでのお楽しみ・・・。
 
 5年後の現在、竹富町の海水淡水化事件の報告の関係で莉子が那覇署を訪れた夜に、那覇市内のローソンの一店での強盗事件に協力することになる。偶然にも強盗に入った人物が5年前の旅客機の隣の席に乗り合わせた槌谷廉だったという次第。彼との再会は莉子がその後に事件を解決していくプロセスで関わりができる縁となる。連作ものでの将来の伏線が組み込まれていく。それはシリーズを読み続ける人の一つの楽しみでもある。
 
 さて、推理劇としての主なテーマは3つある。
 一つめは小笠原の勤め先に関連した部署の事件発生に、莉子が協力して推理を働かすもの。クリスマスイヴにメディア局編集部からRGBモード、フルカラーの連載原稿データを保管したHDDカートリッジが盗まれたのだ。この事件が解決されるや、「宝石鑑定」に絡んだ案件が莉子の前に現れてくる。推理劇Ⅰでは、この宝石鑑定のテーマにウエイトが大きくかけられている。
 大手の宝石商であるゴールデン・プログレス商会の浪滝琉聖は毎年宝石鑑定トーナメントを主催している。年に一度、大みそかに、1億円の賞金とそれ以上の宣伝費をかけて、宝石鑑定の優劣を決するイベントとしてトーナメントを開催しているのである。
 宝石鑑定士という国家資格はないので、このGP商会の宝石鑑定トーナメントの参加者は実質的に鑑定家として認められた証になるという。トーナメントの優勝者は、名実ともに日本一の鑑定眼の持ち主として認められ、業界で名が知れわたる。天皇皇后両陛下に献上される宝石鑑定もまかされるのが通例。さらにロンドンのバッキンガム宮殿で、エリザベス女王の前での「御前鑑定」に参加する名誉もあるという位置づけなのだ。昨年度の優勝者は蓮木愛美。父は資産家で母はピアニストという大富豪の令嬢なのだが、このトーナメントで優勝し急にスポットライトを浴び有名になった。彼女は今年もこのトーナメントに参加し二連覇を狙っているようなのだ。
 今年、このトーナメントを目前にして凜田莉子のところにトーナメント参加への招待状が届いたのである。
 莉子には参加する意志がなかったようなのだが、牛込署知能犯捜査係、葉山警部補から頼み込まれて、招待状を受けてこのトーナメントに参加せざるを得なくなるのだ。葉山警部補は、宝石がらみで闇社会に台頭してきたのが浪滝琉聖で、今年のトーナメントでは蓮木愛美の二連覇を阻止し、彼女の権威を失墜させようというたくらみのために巨額の金が動いているというのだ。GP商会の外観の華やかさに対し、その経営内情は破綻に近いようなのだ。闇の事業にとり、蓮木愛美の存在は邪魔なのだ。葉山警部補は浪滝琉聖の闇社会とのつながりの突破口を今年のトーナメントの経緯に見つけようとしているのである。 蓮木愛美の権威失と闇社会絡みの背景を葉山警部補から聞いた莉子はトーナメント参加に協力し、そこに仕組まれた謎の解明に突き進んでいく。
 
 この宝石鑑定トーナメントとその後の展開でおもしろい要素はいくつかある。
・蓮木愛美の意欲・欲望と行動の描写
・トーナメントのプロセスに仕組まれたカラクリを莉子が解明する論理思考
・浪滝琉聖が蓮木愛美の権威を失墜させようと企んだそのやりかた
・トーナメントの会場で置き忘れられた紙片が別の事件に絡んでいく伏線の作り方
・英国王室での御前鑑定で生じる憂慮のなりゆき
・凜田莉子と蓮木愛美の関係づくり

 これらの要素がどういう風に交錯してストーリーが展開していくかが読みどころ、楽しみどころである。

 浪滝琉聖の悪業の尻尾をつかむのに、もう一つの問題解決が必要となる。それがグレーの生地を買い占めである。アパレル業界における流行色と関係した事件なのだ。小笠原が気づいて手にした紙片がこの事件とかかわっていたのだ。その関わり方は本作品を読んでみてほしい。
 
 いつものことながら、莉子の鑑定にまつわるその理由説明の箇所は読んでいて、なるほど・・・と学ぶところが多い。この鑑定理由を読むのが私には楽しみの一つになっている。


 ご一読ありがとうございます。


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本書に関連する事項で、興味を抱いたものをいくつかネット検索してみた。一覧にしておきたい。

質量と重さ  :「物理のかぎしっぽ」
重さ  :ウィキペディア
幻の泡盛「泡波」  :「YUNTAKU」

宝石鑑定士について - 宝石鑑定士 GIA・GGになるには?
宝石  :ウィキペディア
ダイヤモンド  :ウィキペディア
有名なダイヤモンド一覧  :「Jewellery Houseki Mall」

枯草熱(こそうねつ)  :「a legal alien in London」
花粉症の始まりはイギリスの枯草熱!? 知られざる花粉症のルーツとは:「ビーカイブ」
花粉症  :ウィキペディア

  インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

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その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
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万能鑑定士Qに関心を向け、読み進めてきたシリーズは次のものです。
こちらもお読みいただけると、うれしいです。

『万能鑑定士Qの攻略本』 角川文庫編集部/編 松岡圭祐事務所/監修

☆推理劇シリーズ

『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅱ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅲ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅳ』 

☆事件簿シリーズは全作品分の印象記を掲載しています。

『万能鑑定士Q』(単行本) ← 文庫本ではⅠとⅡに分冊された。
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅲ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅳ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅴ』 
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅵ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅶ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅷ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅸ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅹ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅠ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅡ』



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