遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅵ』  松岡 圭祐  角川文庫

2014-09-10 21:43:43 | レビュー
 順序として先に読み終えた第9巻や第12巻で、服役中の雨森華蓮という女性が出てくる。万能鑑定士Qという店を経営する凜田莉子が事件に関わることにより、捕まってしまい刑務所に入った詐欺師であり万能贋作者である。その華蓮に凜田莉子が助言を求めたり、レプリカの作製を依頼したりしている。華蓮がどんな事件で莉子との関わりができたのか? 事件簿の逆順読みをしたために、一層関心を抱いていた。雨森華蓮が主犯となる事件がこの第6巻(Ⅵ)だった。

 雨森華蓮はこの作品では常にパンク・ファッションに身を包んで登場する。「髑髏の刺繍が入ったレザー、ゴスなミニブーツに網タイツ、華奢な脚に異様に太くみえるブーツ。ライブハウスでロックバンドでも率いていそうだ」という姿である。年齢は26歳、冷静沈着なな態度。ストレートのショートヘアを明るく染め、瞳は大きく、透き通るような色白の端正な美人顔であり、意外にもメイクは薄い。雰囲気は清純さを残しているという感じなのだ。
 その華蓮がスケールの大きな詐欺を企画実行する。大胆な詐欺行為をプロデュースするという方が適切と言える事件の主犯となるのだ。彼女の存在は、海外からも万能贋作者として要注意人物としてマークされているのだ。
 
 事件の序章は、東京湾埋立地、芝浦埠頭の倉庫街での取引話から始まる。雨森花蓮が20億近い負債を抱え、休業状態にある服飾縫製工場の八木沢社長に新規商品を大量発注する話を持ちかけるのだ。華蓮が埼玉のある工場に発注した商品が、明日からH&Mの各店で販売される。それを見たら信用できるはずだと。納入後に陳列予定のワンピースを見せ、そのフリルに切り取りを入れさせ、華蓮は八木沢にその品が陳列されているのを実見させるという。八木沢は、半信半疑でその手段に乗ってみる。そして翌日、H&Mの店で華蓮の話は本当だと信じるのだ。その結果、華蓮側が提案する商品をコンセプト通りに自己資金で製造して仕上げ、華蓮の指示通りに納入するという条件を応諾してしまう。つまり、完成品は華蓮に詐取されてしまう。冒頭のこの事件の騙しのテクニックもまずおもしろい。
 莉子は以前にラプラドール飯田橋ヒルズ店の事件を解決している。その店長・星合結衣の助言を受けた八木沢社長の秘書・片貝咲良が莉子とコンタクトした結果、莉子がこの工場を訪れることになる。その時点で、八木沢は雲隠れしていた。
 工場事務所で華蓮の発注した製品の型紙を見るなり、莉子はそれがイタリアのニコレッタの新商品の偽ブランド品製造だったことをカンパし、ネット検索で証明する。
 それは莉子が八木沢社長の捜索から始め、事件に足を踏み入れる契機となっていく。

 八木沢社長に同行し、警察署に被害届を出しに行った莉子は、本庁捜査二課の宇賀神警部から、雨森華蓮がICPOで要注意人物とされ、万能贋作者と記録され、詐欺師としてマークされている事実を知る。日本の警察も華蓮の動きを監視し、偽ブランド品の販売を現行犯逮捕したいと考えていたのだった。華蓮はMNC74に取りかかったと発信している事実を見聞する。74番目の新たな偽物づくりの発動宣言である。

 雨森華蓮が万能鑑定士Qの店に現れ、莉子に鎌倉での一泊がてらの鑑定依頼という仕事を依頼しに来る。莉子がこの出張鑑定を引き受けるところから、本格的に事件のステップが展開していくことになる。
 出張鑑定する場所は、手入れの行き届いた広大な英国式風景庭園のある風格のある石造りの三階建て豪邸だった。そこには、着飾った金持ちの婦人たちが数多くいた。招待されていたのは百人前後だった。そして、莉子とは別に2人の男性鑑定士も来ていたのである。慶応大卒の美術鑑定家として名高い折橋智哉と地方の骨とう商・須磨康平である。鑑定士たちは、それぞれ個別に分離され、華蓮の指示依頼に応じて、次々に鑑定をやっていくことになる。莉子は一種の鑑定パフォーマンスの場に引き出されたのだ。
 勿論、莉子は婦人たちを観察しつつ、華蓮の意図を推測し、他の鑑定士の行動にも気をくばる。この豪邸でどんな詐欺行為が始まっているのか、情報収集と論理的思考を重ねていく。しかし、ピンとくるものが得られない。
 華蓮の構想では、この豪邸での鑑定士たちによる出張鑑定は、スケールの大きい企画のための前座であり伏線に過ぎなかったのだ。
 この豪邸での出張鑑定のパフォーマンスにも莉子と華蓮の知恵比べ的な要素がふんだんに盛り込まれている。ストーリーのヒントが伏線的に張り巡らされているステージとして、なかなかおもしろい展開である。ここは、結局華蓮の仕掛けづくりのパフォーマンスの場だったのだ。どこが仕掛けなのか。その狙いは何か。一方、この豪邸で莉子は何に気づいたのか。それが事件解決にどう結びつくのか。この作品を読み楽しんで戴くとよい。
 華蓮は鑑定アイテムとして、次々に興味深い課題を提示し、莉子に蘊蓄を披露させていく。ある意味でこれは華蓮の莉子に対する挑戦であるだろう。この作品の読ませどころはやはりこの豪邸での出張鑑定だろう。

 そして、本格的な詐欺行為の場、つまり「即売会」へと飛躍展開していく。この場への展開に著者はおもしろい経緯をからませている。
 勿論、その場で華蓮が捕まるわけはない。華蓮の構想は用意周到である。

 華蓮逮捕の一幕も、華蓮が手下を欺くという仕掛けづくりがなされた凝った舞台である。勿論、莉子はその仕掛けもあっさりと解明していくのだ。さすが万能鑑定士Qというエンディングである。
 万能鑑定士と万能贋作者、23歳と26歳の博識の女の対決というストーリー。おもしろい作品に仕上がっている。


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こちらもお読みいただけると、うれしいです。

『万能鑑定士Q』(単行本) ← 文庫本ではⅠとⅡに分冊された。
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅲ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅸ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅠ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅡ』




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