遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『万能鑑定士Qの攻略本』 角川文庫編集部/編 松岡圭祐事務所/監修 角川文庫

2014-10-01 09:33:56 | レビュー
 本書は平成24年8月25日に初版が発行されている。2014年9月の現時点で本書を読むと、増補改訂版がそろそろ出版される方が良いのではないかというのがまず感想である。
 なぜか? 本書の第4章で「Q&αシリーズ全作品紹介~莉子と絢奈の歩んだ道のり」と題して、見開き2ページで1つの作品が紹介されている。とはいっても、右ページには文庫本表紙にキャプションを重ね、左ページに作品内容の解説文というスタイルである。そして、作品は「万能鑑定士Qの事件簿」シリーズ全12作、「万能鑑定士Qの推理劇」シリーズ2作、「特等添乗員αの難事件」シリーズ2作と、2012年6月発行までの作品の網羅になっている。つまり、その後の作品群がこの本では攻略できないことになるからだ。
 この攻略本以降、既に推理劇シリーズの第3、第4作及び『万能鑑定士Qの短編集』シリーズとして2作品、『万能鑑定士Qの探偵譚』、『万能鑑定士Qの謎解き』及び「特等添乗員αの難事件」シリーズの第3、第4、第5作が出版されている。
 ということで、この種の紹介本を発行するなら、バージョンアップが必須である。

 さりながら、万能鑑定士Q、特等添乗員αの大凡を手っ取り早く知りたい人向きには導入本としてまずは読みやすいだろう。上記のように現時点では「全体像」を俯瞰するとはいえないまでも、括弧付きでおおよそ全体を俯瞰できるのは事実である。

 本書の構成をご紹介し、少し印象論を書き加えておきたい。
 冒頭に、「口絵」として凜田莉子と浅倉絢奈のカラーイラストが15枚、「清原紘カバーイラストギャラリー」として掲載され、後で紹介する第3章の為の飯田橋MAPが付けられている。そして以下の構成である。

序 「人の死なないミステリ」とは?
 ミステリ小説でありながら、1回の殺人も起きない、「人の死なないミステリ」としての新機軸、その斬新さとシリーズ作品の発行テンポの驚異的な速さを強調している「序」である。言われてみるとそうだな・・・・と感じる次第。まさに推理小説の枠を広げた一作品群だと思う。

Chapter 1 Q&αシリーズキャラクター紹介
 主な登場人物がイラスト1ページ+解説文5ページ程度で紹介されている。個別の作品を読みながら、少しずつ登場人物の情報が増え、人物像の肉付けができていくところが、一気にダイジェスト的に知るという効率の良さが長所である。一方、作品を読み継ぎながら、ああ過去にこういうことがあったのか、この人には・・・という風に、徐々に深く知っていくという楽しみは消えてしまうので、その点が短所だ。個別に作品を読み継ぐとき、この攻略本を最初に読むと、人物像のとらえ方と読み方が少し変わるかもしれない。
 登場人物の全体像を俯瞰するのには便利である。全作品の途中で本書を読むと、頭を整理してみるのに役立つ。
 ここで取り上げられているキャラクター名を列挙しておこう。
 凜田莉子、小笠原悠斗、雨森華蓮、浅倉絢奈、壱条那沖、能登廈人、葉山翔太、浅倉乃愛、瀬戸内陸、氷室拓真である。

Chapter 2 Qシリーズ舞台案内 ~莉子と彼女を取り巻く人々
 万能鑑定士Qの店舗、角川書店(角川第三本社ビル)、牛込警察署という舞台環境について、作品群に記述されている内容を編集する形で状況説明されている。作品では断片的情報として描写されえいるに過ぎないので、全体イメージを持つには便利なまとめである。

Chapter 3 疑似体験小説『全能鑑定士Rの事件簿』~贋作者は誰?
 全能鑑定士Rになって、口絵にある飯田橋MAPを使いながら、ゲーム感覚で贋作者を推理していくという設定の小説。読者が判断をしながら先に進む形なので、推理する疑似体験ができる。どのように推理しているかを読むのではない。全能鑑定士Rになりきって、推理しなければならないのだ。ふんだんに惑わせる情報が加えれているので、ゲーム性が高められている。

Chapter 4 Q&αシリーズ全作品紹介
 冒頭に内容と印象を記したとおりである。

Chapter 5 Q&αシリーズ人物・用語辞典
 あいうえお順で、人物用語が第1章との重複を避けた形で辞典として網羅的に解説されている。勿論、その解説はこの作品群でどのように記述されているかを辞典として編集しているものと言える。どこにでてきたことだったか、という作品への逆引きにも利用できるまとめかたになっていて、作品群の相互関連を見てみたい場合などにも便利そうである。
 上記 Chapter 1 に登場する人物は項目名だけであるので、実質的に「泡浪(あわなみ)」から始まり、「ンザンビ(んざんび)」まで、59ページに及ぶ。
 そして、コミック版の紹介が加わっている。2012年の冬から「ヤングエース」にコミック版が連載を始めるという紹介である。その結果、現在コミック版が出版されるに至っているという経緯になる。この辺りも、攻略本としては少し改訂して紹介した方が良くなってきていると思う。

Chapter 6 疑似体験小説『全能鑑定士Rの事件簿』~贋作者は誰? 解答編
 そのものズバリである。解答へのプロセス、手法を含めて、解答解説が6ページでまとめられている。

 とまあ、こんな内容である。この1冊で2012年6月までに出版された作品群をダイジェスト版として読んだ気になれる本である。
 いわば、『源氏物語』の本文あるいは翻訳本を全巻読まずに、解説本を読むことで、源氏物語の大凡がつかめるというように・・・・。いわば、本書を読むこと自体が疑似体験であるといえる。

 ご一読ありがとうございます。


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万能鑑定士Qに関心を向け、読み進めてきた作品は次のものです。
事件簿シリーズは全12作分の印象記を書き込んでいます。
こちらもお読みいただけると、うれしいです。

『万能鑑定士Q』(単行本) ← 文庫本ではⅠとⅡに分冊された。
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅲ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅳ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅴ』 
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅵ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅶ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅷ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅸ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅹ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅠ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅡ』



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