眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

【折句】夏空散歩 和歌、短歌、いかがでしょうか

2020-10-23 05:58:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
お歌などもうたくさんだ手を引いて
夏に冷たい白浜の水

(折句「おもてなし」短歌)



箱庭に夏の課題をみつめずに
滑れはあとがきまで音速

(折句「ハナミズキ」短歌)



お留守番もぬけの殻の底流に
夏が伸び行く詩情階段

(折句「おもてなし」短歌)



ハルをつれ夏空散歩道遥か
頭上には箒星の軌跡

(折句「ハナミズキ」短歌)




春は行き夏は続いた三月ほど
過ぎてみえない君らしき秋

(折句「ハナミズキ」短歌)

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ポプラの詩(ポエトリー・ポメラ)

2020-10-23 05:33:00 | 忘れものがかり
詩人さん、私を打て
打ち始めれば生まれるものがある
私たちはそういう関係だ

不安と不安定から道はなる

今日が逃げ切ってしまう前に
言葉を口実にして
私を打て

寝たらおしまいだ
寝たら消えちまう

詩人さん、私を打て
ためらいの向こうには
晴れ間がみえる

触れて離れての繰り返し
それが私たちの関係

「そんなの虚しいだけだよ」

「いいえ。君の詩は麦茶なの。
国中のコンビニに流通して、
街街を流れて行く。
人人を潤して行ける」

「そんなキャッチーなものかね」

「ポップでなきゃ生きられないのよ」

「とけすぎてわからない飲み物になった。
冷やしたいだけで薄めたいわけじゃなかったのに」

「君が早く飲まないから」

「ゆっくりじゃないと意味がないよ」

「氷がとけてもう秋になるわ」

詩人さん、私を打て
1、2、3、
その先で終わってしまうことを
恐れないで

打ち始めれば奏でられる
台本にいない君を
偶然が運んでくれるから

寝たらおしまいだ
寝たらさよならだ

詩人さん、私を打て
考えるよりも速く
君の思う先に行くために

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業務日誌「ヤモリ」

2020-10-23 00:38:00 | 幻日記
「さっき食堂の隅にヤモリが出ましてね」
「ヤモリ? それでどう対処しました?」
「……」
「まさかそのまま放置したのでは」
「ヤモリと言っても本当にヤモリかどうか。まるで動かなかったし、影のようでもあったし」
「いやいやいや」

チャカチャンチャンチャン♪

「いやずるいよ。ヤモリが出たのでしょう?」
「ヤモリに似ていたかも」
「言いましたよね、ヤモリが出たって。事実をねじ曲げるのはなしでしょう」
「事実というか主観ですから」

チャカチャンチャンチャン♪

「主観といういうのは信用が置けません。特に私の業務上のは」
「それで撃退もしなかった。見逃したのですね」

チャカチャンチャンチャン♪

「そうです。確信がなかったからです」
「確信ね」
「撃退するかわりと言っては何ですが」
「ん?」

チャカチャンチャンチャン♪

「ヤモリの似顔絵を描いてきました」
「暇か」
「これが私の見たヤモリです」
「これはわしじゃないか!」

チャカチャンチャンチャン♪

「まさかそんなことが」
「そろそろ森へ帰る時がきたようじゃ」
「店長、おつかれさまでした!」
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あー、なんだ、そんな手か

2020-10-22 02:21:00 | 将棋の時間
「……すぎてみえない手」

 例えばそれは素朴すぎてみえない。当たり前すぎてみえない。間近にあるけれど、みることができない。みえない手を読むことはできない。
 そういう時には一定期間、目を離してみることだ。
 穴があくほどに睨みつけたからといって詰み筋は湧いてこない。時には振り出しに戻る勇気を持ちたい。
(問題が間違っているのでは?)
 一見単純な図形で行き詰まったら、問題を疑う場面も出てくるだろう。そんなケースがないとは言えない。しかし、確率的には低い。
 調子の悪い時には、単純な一手がみえないのだ。


「詰将棋慣れした人の死角」

・取る、取り返す、俗手

 詰将棋が上達するにつれて捨て駒の手筋をたくさん吸収する。鮮やかな捨て駒の醍醐味! それにばかり慣れすぎると、逆に普通の手がみえなくなってしまうことがある。
(詰将棋は捨て駒ばかりではない)
 それを理解しておかないと読者の心理を逆手に取った問題に苦しんだり、実戦でも無駄に捨て駒をしすぎて寄せを誤ることがある。
~正確な寄せとは、捨て駒(軽手)と取る手(俗手)との正しい組み合わせである。~

・合駒請求(合駒を打たせて取る手)

 実戦では当たり前に現れる合駒請求。大駒や香で王手をかけて「さあ、合駒はどうしますか」という手だが、詰将棋となると妙に泥臭く感じられる。(あるいは面倒くさい)特に実戦型の場合、意外にみえにくくなるのではないだろうか。しかし、これも詰将棋を攻略していく上で、決して避けて通れない筋である。

~合駒請求の効果…持ち駒を変える、増やす、玉位置を変える~
 合駒請求ができるのは大駒と香のみ。それが持ち駒にある場合は、視野に置こう。「もしももう1枚何かがあったら、持ち駒がある駒に変わったら……」そうしたIFを描くことも大切な姿勢となる。

~狙え! 伸びた歩の背後~
 これは実戦での応用範囲も広いが、一番安い歩の合駒が使えないということは、守備側にとって致命的弱点になる場合も多い。
 守備の歩の後ろのスペース、または底歩が打ってある筋などは特に狙い目なので常に意識しておきたい。


「手順の死角」 人間的思考の癖・弱点

 人間の思考(感覚)には癖がある。(これは個人差も大きい)
 感覚を磨くことによって、あらゆる手の中から考えなくていい手を最初から除外することができる。その働きのおかげで時間や体力を節約できるし、上級者ならばその感覚は80%以上正しい。
 しかし問題は残りの20%だ。
 基本を超えたところに正解がある場合、普段の効率的な思考にストップをかけなければならない。一連の流れの中に疑問を挟まなければならない。(優れた感覚は、厄介な先入観になり得る)

~実は一手前に好手があった~
 1つのブロックを必然の手順として、その局面が不詰めだったとする。通常はそれで読みを打ち切ってしまう。しかし、その一手前に好手があって詰むとしたら……。必然を壊す発想がないと、その一手にたどり着くことは難しい。それには「ひょっとしたら……」というIFの閃きも必要かもしれない。

~捨てた次は取り返したい、捨てた次は押さえたい~

 捨て駒は寄せを絞る手段/手筋である。しかし、駒を捨てるというのは、拠点を失うという側面がある。有効だと知っているからできるものの、捨てることに不安はつきまとう。捨てることは、どこかで取り返すこととセットになっている。拠点を手放した次には押さえたくなるのが自然な感覚(心の働き)ではないだろうか。
 捨てて、捨てて、(ここも捨てるのか!)
 捨てて、捨てて、取り返さず、(逆サイドから王手か!)
 常識的なリズム、(自分の中の)スタンダードなリズムからちょっとずれたところにある好手/妙手順というのは、なかなか発見しにくい。
 そうした意外性のある筋にも対応できるようになってくると、詰将棋のレベルは数段アップする。変化のなさそうなところにIFの目を光らせることも大事である。


「親しい仲にも礼儀あり」

 上達することは慣れることだ。
 慣れることは色々なことを飛ばすこと。一つ一つ考えていたこと、まっさらな気持ちで当たっていたことを、無意識の内にやってのけることだ。しかし、自然にできることと疎かにすることを混同してはならない。
 初めて駒に触れた時はどんなだった?
(はじめの道はどんな風に歩いた)
 どんな時も初心者の心を忘れたくないものだ。
 そして、謙虚な姿勢で盤面をみつめてはみませんか。

「お願いします」
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君はロックを聴かないのだろうか

2020-10-21 03:25:00 | 幻日記
 猫が横切った残像に気を取られながら入ったタウンの通路で、ポケットティッシュをもらいそうだった。普段なら避けて通り抜けるところ、何となく受け取ってしまった。手に収まった瞬間、女はもの凄い勢いで話しかけてきた。しかし、僕はイヤホンをしていた。イヤホンをさしてロックを聴いていたのだ。だから歩を止めず歩き続けた。2、3歩行ったところで、彼女はあきらめた。受け取っておきながら、僕は聞かなかった。約束はしていない。

 ロックを聴いていた。恋をしていた

 もしもイヤホンなどしていなかったら、立ち止まって話を聞いただろう。だが、その時はティッシュを受け取ることもないだろうから、話が始まる理由もないのだ。彼女はイヤホンをした者にまで、どうして話しかけてきたのだろう。気配や勢いで足を止められると思ったのだろうか。きっと彼女は想像しなかったのだ。

 僕がまさかロックを聴いているなんて!
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短歌の季節

2020-10-21 00:34:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
 近頃はどうも眠りが浅い。まだ起きる時間ではない時に、何度も目が覚めてしまう。最もよく眠れるのは、絶対に起きねばならないという理由はないが起きたいと思い、思いながらもなかなか起き切ることはできず、結局また眠ってしまったという時だ。そういう時の眠りは、少し深いように思う。そして、醒めたとしてもまたすぐに眠れそうで、ずっとずっと眠れそうに思える。しかし、その時は起きていたい時間でもあるのだ。眠るべきという時に上手く眠れず、起きていたいという時に眠れる波が訪れている。これでは理想と反対だ。

 ぼんやりと目覚めている時、小話を浮かべたくなる。
 眠ろうとして眠れない時間が続くと、話ではなく短歌や折句が作りたくなることがある。1つ浮かぶと少し救われる。そして、もう1つ作りたいと思う。その時は、短歌があってよかったと思う。(ああ、短歌の季節がきたなと思う)
 昨日は久しぶりにクリスマスの折句を作った。


編むことも気怠くなった時にただ
歌う絹豆腐の口当たり
(折句「揚げ豆腐」短歌)
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黄金のゴールを求めて

2020-10-20 14:58:00 | 【創作note】
共感を求めるな
反応を求めるな
称賛を求めるな
脚光を求めるな
教訓を求めるな
感動を求めるな

これが終わったらチャーハンを食べよう
チャーハン、チャーハン、チャーハン

ただ純粋にチャーハンを求めて
言葉と向き合うことができれば

六角形の器の中に
黄金のゴールがみえる

さあ 行こう!

ショートショートを
落とせなくても

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十月の旅人

2020-10-19 14:56:00 | ナノノベル
 包まれたいのか、解かれたいのか、どちらなのか。昨日とは違う今日の中をずっと歩いていた。夕べとは違う朝の中に戸惑い、昼間とは違う夜の中をさまよった。他の人はどう? 丈の長いものを纏う者、まだ広く肌を晒している者。じっと様子をうかがう者、どこまでもしがみつこうとする者。指を絡ませ合っている者、独り立つ者。あの人は? 道行く人の姿が気になる時ほど、自分の心が定まっていないのだ。わからない。何もかも自分でもわからないのだ。定着しない十月の風の中を、私は歩いていた。

(今だけだ)

 きっとすぐに明らかな季節の中に取り込まれるだろう。
 今、私の手の中には突然に湧いたクーポンがある。
 日付が変わるまでに使い切ってしまわなければ、木の葉同然になってしまう。しかし、いったいどこで。この街のいったいどこで……。

「この街あたりじゃ使えないわ」
 郵便局の前で魔女が教えてくれた。
「共通して使えないようにしたんだから」
「えっ? どういうこと?」
「どうにもならないこともあるわ」
 電車はなく、隣の街までバスで行くしかないと言う。

「今日のバスはもう行ってしまったわ」
「そんな……」
 化かされてしまったか。
 あきらめかけたその時、どこからともなくドラムを叩くような音が聞こえてきた。音はだんだん激しさを増しながら近づいてきた。ハードロックだ。金属のようなボーカル、月夜のようなギターの音色に続いて、馬車が現れた。音楽が止み、馬車は私の前に止まった。

「お乗りください」
 大きな帽子が馬上から言った。地域の有志が走らせる馬車で、クーポンを手にしていれば誰でも乗れるという。
 チョコ、キャンディー、クッキー、ビスケット。たくさんお菓子を買って、みんな投げ与えるように、魔女がアドバイスをくれた。

「使えるのはお菓子だけなんだからね」
「では、さようなら」
 元々なかったものと思えば、お菓子でも何でもいい。手に入ると同時に消えて行くようなものでも、いい。
 十月の馬車に揺られながら、私はどこかお祭り気分だった。
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詰将棋イマジン(邪魔駒消去)

2020-10-18 10:49:00 | 将棋の時間
「IFを大切に」

 第一感の手がどうも上手く行かない。
 一通り考えてみても詰む形がみえてこない。
 困ったものだと局面を眺めているとふと、
「もしもこの香がなかったら……」
 何かが変わりそうなのだけどな……。
 問題に行き詰まった時には、そのような発想がとても重要になる。現局面から少しだけ何かを変えた局面。IF的発想を働かせて、今はない形を想像することによって、道が開ける。
「もしも……だったら、……なのにな」
 それがすぐに解答につながらなくても構わない。
 このような形になれば詰むかもしれないと閃くということは、1つのストーリーをみつけたということである。(詰将棋を解くことは物語をみつけること)


「攻め駒は多いほどよいとは限らない」

 これはサッカーなどにも言えることだが、戦力というのは数の他に効率を重視しなければならない。味方同士が重なってシュートが打てない、ドリブルのスペースを潰してしまったということはよくある。他のどんな競技、仕事においても同様だ。人数をかけたから上手く行くということはない。意思の疎通に手間取ったり、ポジションが重なって渋滞してしまっては、かえって効率が悪くなる。指し将棋で言えば相談将棋などがいい例だ。チームを組んだから強くなるか、100人が相談したから強くなるかと言えば、そうはならない。長所だけを融合できれば上手く行くかもしれないが、実際には方針が分裂し、ちぐはぐになってむしろ弱くなる可能性さえある。
 詰将棋の中で効率の重要性を理解する機会になるのが「邪魔駒」の存在である。

「邪魔駒消去の手筋」~攻め駒がスペースを潰している
 ここに攻め駒の香がなければ、桂を打てるのにな……。
 発見したIF/ストーリーを実現させる道を探る。
 (なかったら)と言っても、実際にはあるのだから、それはどうしようもないようにみえる。しかし、詰将棋には捨て駒の手筋がある。

「捨てる捨て駒/取らせる捨て駒」
 盤上の駒を捨てる(消す)には2種類の方法がある。
 1つは捨てたい駒を動かして捨てる方法。(基本の方法)
 配置上自らは王手として動けない駒にはもう1つの方法を使う。他の攻め駒と相手の玉の力を借りて、流れの中で玉に取ってもらうのだ。
(邪魔駒が消えたらもう一度玉を呼び戻す)
 捨てる捨て駒と取らせる捨て駒の手順を組み合わせることによって、IF発想の形(邪魔駒を消去した局面)を作り出すことができる。
「もしもこの香がなかったら……」
 という局面を実現させて、香がいた場所に桂を打つスペースを生み出す。
 これが詰将棋の邪魔駒消去の物語である。


「IFの発見(狙い)が先に必要」

 1つの香を消し去るためだけに、多くの犠牲が払われた。
 それはおよそ合理的ではない。
 無意味にさえ思える手順にたどり着けるには、先に狙いをみつけていなければならない。IFの閃きがあってこそ、複雑な手順を発見することができるようになるのだ。
 詰将棋は捨て駒が活躍するパズルである。
 しかし、ただ捨てるのではなく、捨てる先にビジョンが描けていなければならない。


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遠いゴール/名前をつけて

2020-10-17 10:57:00 | 忘れものがかり
 つかまえようと手を伸ばしたが、イメージは指の間をすり抜けて行く。見えているようで、あるのかどうか怪しい。夕べは特別な何かが感じられたはずが、ひと時過ぎれば確かな根拠を思い出すことができない。微かなイメージを頼りに、かためて、つなげて、共有できる形に起こしたとしても、愛しいものとはかけ離れたところに行くばかり。上手くやろうとすればするほど、迷路の中に迷い込むようだ。どこで間違えてしまったのか……。飛ばし方を忘れたロケットの前で、まだ星を想うことがある。

 いつの間にか筆は手から離れて指先で硝子を撫でていた。ずっと描かれていたはず。夜通し談笑の外にいながら、世間と自身の間にキャンバスを立てて。それは強固な盾として頼られた。イメージは夜の間をすり抜けて行く。形にならぬ。絵にも物語にもならない。これまでのところは何だったのか。形容し難いものがつかえる苦しい朝に、誰か名前をつけてくれないか。飛ばし方を忘れたロケットの上に、まだ星が瞬いて見える。

 影のように隠れ、縮み、潜み、光のように弾ける。加速する。もう一度、今度はもっと加速する。緩急をつけて密集から抜け出す。その時、お前は完全な自由の中にいる。自信を宿らせて敵を欺く。ドリブルは意識を利用したトリックなのだ。

 ごまかして、やり過ごした。耐えて、踏みとどまって、乗り越えてきた。ようやくここまでたどり着いたが、ここはどこなのか。
「ここはどこ?」
 自分が動いたり、風景が動いたように思えたりした。動いたのは時の方ではなかったか。
「よくきたね」
 ここは生きたものだけがたどり着ける。
「これからの場所だよ」
 ああ、やっぱりね。僕も今ちょうど同じことを考えていたんだ。ここはそんなところだ。前にもきたような気がするよ。



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秋の栞

2020-10-16 11:37:00 | 幻日記
「あ、あちー」
 地獄のような熱さだった。つけた足を引っ込めて服を着た。まだ踏み込むのが早すぎた。部屋に引き上げて時を待つことにした。その時が来たら、また改めて湯船に向かおう。
「お食べ」
 ばあちゃんがたこ焼きを持ってきてくれた。楊枝に刺して口に運ぼうとしたが、唇に触れた瞬間、身の危険を感じて引き離した。それは大変な熱さだった。とても今すぐ口に入れることはできない。その時を待って、僕はたこ焼きを食べることにした。
 それから僕は本を開いた。開いた瞬間、挟まっていた尻尾が抜けて猫が逃げて行った。猫の夢のあとに物語は広がっている。今こそ本を読む時なのだろう。時折、開けっ放しの窓から風が入ってくる。もう、秋である。



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夏の残像

2020-10-16 04:41:00 | ナノノベル
 麦藁帽が並んでいた商品棚は、今はもうかぼちゃのオブジェであふれていた。熱狂の蝉たちはもういない。替わって到着した虫たちが秋のクラシックを奏でている。十月の旅人が、クーポンを握りしめて街をさまよい歩いている。
 素麺の包装がキッチンの隅で泣いていた。買い溜めした蒟蒻ゼリーも、まだたくさん余っている。「もっと夏は続くもの…」(夏は暑く長いもの)と思っていたが、気づいたら終わっている。何度終わりを経験しても、学習することができない。

 扇風機を片づけに倉庫に行くと、出損ねたお化けたちが膝を抱えるようにして座っていた。思いの外、出番がなかったらしい。
「もっと冷やしたかったのに……」
 女のお化けが怨めしそうに言った。彼女たちも学習の途中かもしれない。家の周りが湿っぽい空気で満ちていた。

「ハロウィンがあるよ!」
 この街のハロウィンはカオスの中にある。何者でも入り込むことができるのだ。
「本当?」
 お化けたちが、興奮したように浮き上がった。思った以上に大勢いる。そのまま出れば問題ないことを伝えたところ、ひゅーひゅーと喜んだ。
「土曜の夜にね」



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雨と素麺

2020-10-15 23:01:00 | 夢追い
 夢の中では酷い雨だった。その少し前には布団の中で激しい雨音を聞いた。それも含めて夢だったかどうかはどうも不確かだ。
「雨だから早く出るのか」
 父が訊いてきた。
 素麺には絹と木綿とがあるがやっぱり絹だと言う。
「茹でといたぞ」
 得意げに言いながら植物図鑑を広げている。

「冷やすのは自分でやってくれ」
 台所に行くとパレットの上で素麺が水に打たれていた。
 5、6束分はあるように見えた。
 茹でたと言うには硬すぎる。
「こんなに食えるか」
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アディショナル・フォーメーション

2020-10-14 06:09:00 | ナノノベル
 長い間、僕たちは何もすることができなかった。相手の戦術が優れていたという面は否定できない。だが、本質はもっと内に潜んでいる。
「長いようで短かった90分」
「きりんの首」
「象さんの鼻」
「夏休み」
「先輩のお説教」
「12月」
「午前1時の待機」
 自分の居場所によってすべては伸び縮みする。長い短いと言ったところでみんな一時の感情にすぎないじゃないか。
「長いようで短かった90分」
「時間があっても点は入らない」
「そうだ。時間なんて関係ないんだ」
「俺たちのスキルだろ」
 問題は僕らの中にある。


 主審が目の色を変えながらアディショナル・タイムを教えてくれた。
「君たちの時間はあと5分だよ」

 それはたったの5分だろうか。
 何もできない短すぎる時間だろうか。
 いや、そうではない!
 ここにあるのはできないという不安、思い込み、後悔、負い目、自責の念、あきらめの誘惑……。
 できないのではない。できないという先入観から抜け出すことができないだけだ。

 チャントが『蛍の光』に変わった。あわてることはない。
 僕らはフォーメーションを背水の陣に切り替えた。

「長い眠りのようだった90分」

 今までの時間は長いふりに過ぎなかった。
 本当の幸運/ゴールは、ほんの一瞬の中に生まれるものだ。
 一瞬の裏にはどれだけの時間が隠されているだろう。
 僕らは多くのことに耐えてきた。
 すべてはこれから巡り会う幸運と喜びのために。

「さあ、チャンスは今だ!」
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バルーンの復活

2020-10-13 10:35:00 | 夢追い
 父が大声を出すと乗り遅れたバスが戻ってきた。父の呼んだバスには乗りたくなかった。僕が選んだバスじゃない。どこへ向かうか知らないが、みんなお化けじゃないか。

「今乗らなければ次は来ないぞ」
 一生ステップを踏むことはできないぞ。脅すように言うので父の口を封じた。

 家の周りには複数の警官が張り込んでいるのが見えた。僕がゴミを捨てに行くのを待ちかまえているのだ。何も悟っていないように前を向いて歩いた。靴を脱ぎ、父を背負ったまま木に登る。下を見るな。そう教えられた通りに、上に上に登るのだ。奴らがあきらめるか、僕の存在を忘れるくらいまで、高く高く登るのだ。無防備な背中を取ろうと大鴉が迫ってくる。来るな。何もない。何もないから。
 枝から伸びた滑り台を伝って密かに家に戻った。
 もう駄目だろうか。取り出した父はすっかり風船になっていた。鼻歌のような息を吹き込んでいる内に、微かに動いた。

(動いた!)

 耳を近づけると確かに父の息づかいが聞こえてきた。
 父は、今から生まれようとしているのだ。
 よかった。みんなこれからだ。

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