眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

旅立ちの木(やまとなでしこ)

2012-12-25 21:29:41 | アクロスティック・メルヘン
野鳥が寄り付くこともなかったのは、
魔女が植えた木だったからで、
時とともに伸びていった木には、
名前なんてものはなかったし、
天気のわるい日に雨に打たれていても、
知る人なんて誰もいなかったし、
孤独な古木といったところでした。

野鳥も寄り付くことがなかった木に、
まさかの訪問者が、
突然やって来て、
何1つ実らせていなかったことに対し、
鉄拳を食らわされたり、きつく
叱られたりしたものだから、
これではまずいと思ったのでした。

やってくるのなら、
前もって言ってくれなければ、
とても無理なんだよ
なぜなら何かが育つというのは
手をこまねいていても駄目で、
しっかりとした準備や、
根気というものがいるのだからね

野菜の1つでもつけなければ、
また酷い目にあってしまうので、
トマトを実らせることに決めて、
「なるようになれ!」
天に向かって叫ぶと
しばらくしてトマトが実りました。
これでよし!

野鳥も寄り付くことがなかった木に、
またもや訪問者が、
突然やって来て、
何やら話しかけてきたり、
手で触れて感触を確かめたり、
少女はなぜかわからないけど、
この場所が気に入っているようでした。

やがてまた管理人が戻ってきて、
目の当たりにしたものに怒り、
「とんでもないことだ!」
なぜかトマトが気に入らないようで、
手の中に何かを握り締めたと思ったら、
手裏剣を投げてトマトを落としました。
これではまずいと木は思います。

野菜の別の1つでもつけなければ、
また酷い目にあってしまうので、
豆腐を実らせることに決めて、
「なるようになれ!」
天に向かって叫ぶと
しばらくして豆腐が実りました。
これでよし!

野鳥も寄り付くことがなかった木に、
またあの少女がやってきて、
豆腐に触れて軟らかさを確かめたり、
何やら話しかけてきたり、
手をいっぱい伸ばしては、
手裏剣でついた傷跡を撫でました。
「これは何?」

やがてまた管理人が戻ってきて、
目の当たりにしたものに怒り、
「とんでもないことだ!」
なぜか豆腐が気に入らないようで、
手の中に何かを握り締めたと思ったら、
手裏剣を投げて豆腐を落としました。
これではまずいと木は思います。

野菜の別の1つでもつけなければ、
また酷い目にあってしまうので、
トカゲを実らせることに決めて、
「なるようになれ!」
天に向かって叫ぶと
しばらくしてトカゲが実りました。
これでよし!

野鳥も寄り付くことがなかった木に、
またあの少女がやってきて、
トカゲに恐る恐る触れて尾の長さを確かめたり、
何やら話しかけてきたり、
手をいっぱい伸ばしては、
手裏剣でついた傷跡を撫でました。
「これは何?」

やがてまた管理人が戻ってきて、
目の当たりにしたものに怒り、
「とんでもないことだ!」
なぜかトカゲが気に入らないようで、
手の中に何かを握り締めたと思ったら、
手裏剣を投げてトカゲを落としました。
これではまずいと木は思います。

野菜の何がいけなかったのか、
また酷い目にあうことを恐れながら、
トナカイを実らせることに決めて、
「なるようになれ!」
天に向かって叫んで、
しばらくしてもトナカイは実りませんでした。
こんなことがあっていいのか!

野鳥も寄り付くことがなかった木に、
またあの少女がやってきて、
トナカイを探しているようでした。
「なんだかお母さんみたい」
手をいっぱい伸ばして抱きしめます。
少女はなぜかわからないけど、
この場所が気に入っているようでした。

やがてまた管理人が戻ってきて、
目の当たりにしたものに怒り、
「とんでもないことだ!」
なぜかトナカイがいないことが気に入らないようで、
鉄球を投げつけてきては、
しばらく悪態をついているのでした。
「こんな木は切ってしまえ!」

「やい! このデタラメ!」
「まがいものめ!」
「とっとと切ってやるぞ!」
「名前もない木なんだから!」
「鉄球でもくらえ!」
「手裏剣でもくらえ!」
「こんな木は切ってしまえ!」

野鳥も寄り付くことがなかった木に、
またあの少女がやってきました。
所々に残る傷跡を撫でながら、
「なんだかお母さんみたい」
手をいっぱい伸ばして抱きしめます。
少女にそっと木は伝えます。
「今度、僕は切られることになったんだ」

野菜のせいで酷い目にあってしまった。
魔女が最初に教えてくれなかったせいだ。
トマトも、豆腐も、トカゲも……
「泣かないでお母さん」
手をいっぱい伸ばして抱きしめると、
少女はそっと木に伝えます。
「これから私と行くのよ」

約束とノコギリを手にあいつが戻ってくる前に、
魔女の土地から離れることができるなら、
「トナカイはあなた自身なのよ!」
なぜなら、元より根っこなどどこにもないのだから、
手を差し出した少女に向かって、木は、
信頼を預けて旅立つことを決めました。
「ここは誰にも忘れられた庭なのだから」


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