眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

12月の濡れ衣

2012-12-25 20:30:40 | クリスマスソング


 まちびとの手からカブトムシが放たれた。







「そろそろクリスマスソングでもかけようか?」

「あなたが聴きたかったらかければいいんじゃない?」

「僕は自分の考えが信用できないんだ」

「担任が決めればいいんじゃない?」

「僕は副担任の意見を最大に尊重する教師なんだ」

「私に聴きたいと言って欲しいわけね」

「無理に言って欲しいわけではないんだ」

「何がそんなに心配なの?」

「心配がまるでないわけではないけどね」

「心配があふれているのかと思ったけど」

「心配してもきりがないからね。それに心配というのは、当番制なんだ」

「曜日でテーマが決まっているの?」

「時々で更新されるんだよ。より大きく新しい心配が生まれては、古びた心配が呑み込まれる」

「無限に増えていくよりは良さそうだけど」

「クリスマスソングのように?」

「クリスマスソングは無限なの?」

「減少していくように見えることがあるよ。それが少し心配なんだ」

「もう十分にあるからいいんじゃない?」

「十分? 君は12月が何日あると思っているんだ! 何分何秒あると思っているんだ!」

「数えたことはないけれど」

「数える必要があるものか!」

「クリスマスソングが足りないと?」

「このままいくとね。このままのペースでいくと足りなくなるかもしれない」

「誰かが新しく作ってくれるんじゃない?」

「誰かとは?」

「音楽家の誰かよ」







 12月の夜が明けたとしても、12月の人々はなかなか布団から出ることはできずにいる。ありきたりな目覚まし時計の音ではもう12月の人々は目覚めることなどできなくて、仮に少しは目覚めていたとしても、12月の寒空の下と暖かな布団の中とを比較してみれば、遥かに魅力的だったのは12月の後者の方だった。惹かれるままに、もう1度12月の夢の中に戻ろうとする時、不意にどこかで12月のコーヒーカップが12月の地面に落ちて割れてしまうと、それが最も効果家的な12月の目覚まし時計となるだろう。朝が訪れる度に、12月のあちらこちらでコーヒーカップが割れて、12月の人々はようやく足並を揃えて12月の朝の扉を開く。
 光を帯びた自転車が12月の犬と並んで旅の支度をする頃、果てしなく続く12月の商店街の天井には、バンザイをしてはしゃぐ12月の白熊が吊り下げられて、12月の人々に新しい時の訪れを警告している。



「アブラムシを増やしたな!」
 12月の捜査員がまちびとの仕業と決め付ける。
「調べはついてるんだぞ!」
 まちびとは12月のカレー屋での出来事を包み隠さず話し、すべては12月の誤解に違いありませんと話す。窓に映るあらゆる人々が12月の中にはいず、未だに10月の中を彷徨っていたり、遥か遅れた3月の中に留まっていたこと、船長との決闘の中で日々剣のさばきが向上していった過程などについて事細かく説明して、1つ1つ12月のもつれを解こうと努力した。結果的に、放してしまったのは、12月のカブトムシだった。
「連動して捜査が進んでいたんだぞ!」
 12月の捜査員の結論としては、とにかく早期解決して、12月の事件を結論付けなければならないということ。どう考えても犯人しか知りえない情報を知っているので、どう考えても、まちびとが犯人であるということだった。

犯人しか知りえない、子供の頃に飼っていた犬の名前。
犯人しか知りえない、好きなおでんの具。
犯人しか知りえない、最初に買ったCDのタイトル。
犯人しか知りえない、初恋の人の名前。
犯人しか知りえない、6年生の時の担任の名前。

「おまえがもしも犯人だったらな!」
「すべて濡れ衣です」
 1つの間違った前提が、12月の捜査を狂わせて、1つの間違った結論に通じていった。
「知っていることはすべて話しました」
 まちびとは最後に小さなうそを1つついた。12月の濡れ衣を脱ぎ捨てるために。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« クリスマスツリー(やまとなで... | トップ | 旅立ちの木(やまとなでしこ) »

コメントを投稿