眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

クリスマスツリー(やまとなでしこ) 

2012-12-25 01:25:17 | アクロスティック・メルヘン
やかましい人も車も通らない。
町の外れにはまだそんな場所がありました。
時がそこだけ止まってしまったような場所に、
何匹もの猫たちが集まって暮らしていました。
手先の器用な猫、天狗のような猫、紳士的な猫、
種々様々な猫たちが集まって、
心地よく恵まれた暮らしをしていました。

やがて1つのたまり場ができました。
町の外れのそのまた外れの、
トカゲだけがこっそりと知っているような、
何とも心地よい場所でした。
天気のよい日などはみんなで集まっては、
死んだように眠ったり、鬼ごっこをしたり、
恋の話などをしていました。

「やっと見つけたね」
「待ちわびた甲斐があったね」
「ということだね」
「何はともあれよかったね」
「て言うかさあ、早くしようよ」
「しーっ、誰か来る」
「こっちに来るの?」

やって来た老人が袋から取り出して種を
蒔くと大地から木が伸びてきました。
時の経つのは早いものだから、
名前も知らない木の下で猫たちは、
天気のよい日などにはみんなで集まっては、
死んだように眠ったり、鬼ごっこをしたり、
恋の話などをしていました。

安らかな眠りの上で木はやがて、
まさかという方向に伸び始めて、
とんでもない感じで枝を伸ばし出しました。
「なんてこったい!」
手を伸ばして、みんなで支えなければなりません。
真剣な眼差しで支え、鬼のような形相で支え、
恋する者を想うように支えました。

安らかに眠ることも出来ず、
曲がり狂った木をみんなで支えながら、
時はすぎていきました。
「なんかもう、疲れたね」
天狗のような猫が言いました。
紳士的な猫がそれに続けて、
「こんなもの、もう切ってしまおう!」

「野郎! 何てこと言いやがる!」
「待って! みんな冷静に」
「トカゲを呼んでこい!」
「なんかもう嫌!」
「て言うかさあ、早くしようよ」
「静まれ! 静まれ!」
「この狂った木の下で頑張ってきたじゃない」

やがて老人が戻って来て、
まさかりを持って木を切り倒すとそれは、
トナカイの形になりました。
「なんてこったい!」
天空に向かってサンタとトナカイが旅立つ様子を、
紳士的な猫とその仲間たちが静かに見守っています。
粉雪が、音もなく舞っていました。


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