眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

困らせもの(スマート・キャット)

2022-03-15 01:28:00 | ナノノベル
 風に煽られて凧はコントロールを失った。絡まった糸をたどって木に登って行くと、猫は凧よりも高い所に取り残されて固まっていた。複雑な状況が私を困らせる。
「おいで!」
 猫は私の手から離れもっと上に行こうとしていたけれど、やがて観念したように私の胸に落ちた。

「モカ!」
 モカは狭い所、高い所が大好きだった。テレビの隙間、家具の隙間、鍋の中、長靴の中、どこでも入れる場所を見つけては潜り込んだ。そして突然顔を出しては私を驚かせた。本棚に空いたスペースがあればすぐに飛び込んだ。どんどん上まで行くと帰り道を見失って固まった。
 勝手に行って勝手に困る。
 出会った頃から何も成長しない、本当に困った猫だった。

「コラッ! 今日という今日はきつく怒りますよ!」
 モカは驚いたように目を丸くした。それからしばらく下を向いたまま反省していた。まあ、どうせ今だけだろうけど。

「モカー。もう今度はどこ行ったん?」
 どこどこ?
 全く懲りない奴だこと。
「モカー! モカよーい!」
 どこまで困らせれば気が済むのか。
「モカー! モカさーん!」
 いつもなら5分で見つかるのに。今日という日は、いつになっても尻尾を現さなかった。
「モカ」
(困るじゃないか)
「ちゃんと困らせてくれないと」
 まさか、私を置いて行ってしまったの……。
 考えられる場所はすべて見尽くした。
 私は途方に暮れて床に目を落としていた。

 タッタッタッタッタッタッタッ♪

 その時、どこからともなく耳慣れた足音が聞こえた。
 ここからだ!
 私は夢中でスマホの保護フィルムをめくった。
 モカは何事もなかったように私の胸に飛び込んできた。

「おかえり!」


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