眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

新手道場

2020-01-19 23:31:00 | 短い話、短い歌
 路線を乗り継いで新しい町まできた。
「歩いて来られるのですか?」
 店主は電話の向こうで顔を曇らせた。強くなるためには、あきらめるわけにはいかなかった。タクシーを拾う金はない。細くて暗いトンネルを抜けた。靴が泥で真っ黒になった。民家の畑の中を通り抜けた。他に道はない。鴉が警告するように頭上をかすめた。吠えたてる犬の声がだんだん小さくなって、僕は道場の中にいた。
 振り駒をすると歩がすべて立ち上がり、その次はすべてが裏返った。
 相手は振り飛車の使い手だった。今まで覚えた手ではどうしても抑え込むことが困難だった。
 飛車が、石田流よりも宙に浮いて見えた。レベルが高い!
 何度やってもさばかれてしまう。完敗だ。
「負けました」うんざりするほど僕は頭を下げた。
「またお願いします」
 しかし、今となっては駅名も思い出せないのだ。



雨粒が
毛玉にかかる
道場に
浮いて輝く
不思議な新手

(折句「揚げ豆腐」短歌)

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