「神さまどうか僕をよい方向に導きください」
ポケットの奥にある方位磁石がお守りだった。
土地勘に乏しい町で、最初の一歩をどちらに向けて踏み出して行けばいいのか、それが何より大きな不安だった。少しでも不安を小さくするために、毎晩のように地図を抱えて眠りに落ちた。
目的地に近づくことさえできれば、あとは大丈夫だろう。アプリに刺さった赤いピンにどんどん近づいていく。もう少しのところだ。ここまでくれば何とかなるだろう。事前不安が強すぎただけのことだ。
もう目の前だと思ったところに落とし穴が待っていた。最後の曲がり角がわからないのだ。
この道は……
行き止まりだ!
反対側か? そんなはずはない
この先だ ここなのだ
今まで親切だったアプリが、急にうそつきのように思える。
小道の真ん中でメジャーを伸ばし測量している2人。まさか、この人たちに訊ねられるわけもないし。
わからない、わからない、わからない……
僕は取り乱しながら自転車を漕いだ。近づいて、行きすぎて、また戻る。目的地は確かにすぐそこなのに、どうしてもたどり着くことができない。呪われた道に迷い込んでしまったのかもしれない。
警告
「速やかに配達を完了させてください。せっかくのうどんが伸びてしまいます!」
何度も何度もふりだしに戻る間に、温かだったうどんは今どのくらいだろう。最初の一歩より大きな問題があるなんて知らなかった。道という奴は、どうしてこんなに入り組んでるんだ。
わからない、わからない、わからない……
僕は破れかぶれになりながらハンドルを切った。
「あー、すみません」
男たちの伸ばしていたメジャーが縮んだ。
「どうも、すみません」
作業を止めさせてまでも進むべき道なのか。
だけど、そうではなかった。
行き止まりと思ったのが誤りだったのだ。
小道の先まで行くと突然に視界が開け、4部屋ほどのマンションが現れた。
「お待たせいたしました!」
部屋が現れたことがうれしくて、僕はどの部屋かもわからないまま叫んだ。詳細欄をよくみると部屋番号があり、玄関先に置くと書いてあった。レインコートがかけてあったのでその下にうどんを置いて写真を撮った。(もっとドアの近くに置く方が親切だった)
配達完了!
アプリの下をスワイプして最初の配達が終わる。