「本当の店の名は……です」
詳細欄に本当の店名を載せてくれていた。助かるよ。名前のない店を見つけるのは大変なのだ。ピンが目の前に立っていても、確信のあるものがないと僕は迷ってしまう。CDショップの駐輪場に自転車を置いて、お店に向かった。あった、あった! 鰻に尖った顔を見せつつも、本当は広くお酒を振る舞うお店なのだった。
「ありがとうございます」
特上の鰻丼を受け取って配達先へ向かう。
遊歩道周りの車道を突っ切って、玉造筋を下っていく。JRの駅を抜けて細い商店街まで順調に進んでいたが、目的地に迫ったところからおかしくなった。商店街から小道に入るとピンはそこに近づく。けれども、入り口は見えないのだ。もっと向こうに回らなければならないのか。そこかと思えば行き止まり。その先の道を回る。ピンはすぐそこなのに。たどり着けそうでたどり着けない。ガンダーラ、ガンダーラ……。
ぐるぐるぐる。
もどかしく細い道を迷いながら、商店街へと戻ってくる。
目的地はすぐ目の前だ。だけど、正しい入り口を見つけることは容易ではない。家というものは、いつも表通りに面して建ってはいないのだ。
商店街から入った新しい小道で、僕は自転車を停めた。
「あのー、この辺りにマンションはありますか」
おじいさんの周りには5匹の猫がいて、それぞれの器に首を突っ込んで食事中だった。
「その先を少し行ったところに1つある」
えっ?
少し見た感じは行き止まりのように思えた。
「あそこ通れるのですか?」
おじいさんは頷いた。
「名前まではわからんがな」
「ありがとうございます!」
急に目の前が明るくなった。
部外者の接近に驚いて、黒猫が逃げて行く。
教えられた通りに行くと細い道の向こうに鉄の扉が見えた。オートロック? 部屋番号を押すが壊れているのかまるで反応しない。
ギィーーーーーーーーー♪
赤い扉は押すと簡単に開いた。直接部屋まで行けるかもしれない。駐車場を越えて進もうとするが、そこにはもう1つ鉄の扉があった。今度の奴は押しても引いても動かない。困り果てた僕は、お客様に連絡を入れることにした。
「入り口まで来たのですが(赤い扉を抜けて)2番目の扉が閉ざされていて……」
「あー、そこは逆なんですよ!」
彼女は驚いたように言った。
「逆?」
ようやくたどり着いた入り口がまさか逆だったなんて!
「そこで待っていてください。今下りて行きますから」
迷った先のお客さんが、親切な人で助かった。
「お待たせいたしました。ありがとうございます!」
「ご苦労様です」
正しい入り口は、猫たちのいる方とは反対の少し開けた道の方にあった。そうか、こっちか……。
☆300円♪
ささやかな報酬を豊かな暮らしに近づけていく道は遠い。時給500円はリアルな話だ。40キロも走ると少し疲れてしまう。だけど、今日はもっと酷い道に迷い込む恐れもあった。やさしい人たちに支えられて、僕は生きていることができる。