呼びかけに答えないので無理に口を開いた。スプーンに入れた音符を流し入れたがそのままじっとしている。「口を動かさなければ歌えないよ!」3度ばかり口を動かしたが、最後はあくびとなって音符を吐き出してしまう。「もう歌わないの?」父の目は開いたままじっとこちらを見ている。#twnovel
歌が始まると間もなく人が立ち上がった。驚きを込めて私は人を見つめる。天国へと向かう緊張と期待に満ちた階段の途中で、次々と立ち上がる虚ろな顔の人々。みなが立ち上がり、失格の烙印が私の口を封じてしまう。「なぜ?」なぜ座っていてくれなかったのだろう。たった一人でも……。#twnovel
調べに乗って惑星は回っていた。全力というわけではなく、前の星にぶつかったり追い抜いたりしないように節度を保ちながら走っていた。そして突然音楽が止まった。「どうしてみんな立っているの?」惑星たちはその場で顔を見合わせている。「座りなさい。ゲームなのよ」先生が言った。#twnovel
「遠慮なんかしてる場合か」黒い服の男たちが、今にも強制力を持って動き出しそうに思えたのだ。「私が立つとえらいことになるんだけど」座っているとそうでもなかったが、彼が立ち上がると大気圏をも越えてしまった。『月が二つ現れる』新聞の大見出しには、彼を称える文句が踊った。#twnovel
「立て! 立つんだ!」立たなければ、もうこの世界からの引退を迫られることになる。「立て! 立つんだ!」それは命令であり、切なる祈りでもあった。不屈の意志に支えられて立ち上がる幻の肉体を見届けた時、すべては終わりを迎えた。太陽が昇って3分後、男はパンツ一丁で沈んだ。#twnovel