もう10年も前になる。あの頃の俺はまだ駆け出しの転売ヤーだった。人様の畑という畑を渡って気になるものを見つけては、狸のように引っこ抜いて回った。一言で言えば、俺は愚か者の名を欲しいままにした。いったい誰が……。
「すみません。うすしおくださーい!」
「はーい!」
チャカチャンチャンチャン♪
うすっぺらい愚か者。それが10年前の俺だった。狸のように人様の畑を回っては、気になる野菜を引っこ抜いた。茄子、大根、トマト、人参、じゃが芋、南瓜。畑という畑を越えて、貪欲だった俺は更に手を広げていった。メガネ、宝石、鞄、パソコン、洗濯機、プレイステーション。あの頃の俺ときたら、目に映る物すべてが俺の売り物であるかのように思い違いをしていた。一度引っこ抜いた物は、まるで桁違いの値段で店先に並べてみたものだ。大馬鹿者め。我ながら大馬鹿者以外の何者と呼ぶこともできない。いったい誰が……。
「すみません。コンソメパンチくださーい!」
「はーい!」
チャカチャンチャンチャン♪
もう10年前のことだ。しかし時が経ったからすべて許されるわけではない。あの頃の俺はまるで手に負えない荒々しい転売野郎だった。畑という畑を渡り歩いた。気になった物が高い囲いの中にあって、厚く守られ届かないとわかれば、無性に腹が立った。覚え立てのバーボンの中によろめきながら、必殺の左を持つと信じた。俺は風の中でパンチを繰り出した。すぐに反撃を食って逃げた。俺は弱かった。今度は壁に向かって拳を突き上げた。傷つくのは俺の方だった。この大馬鹿者めが。いったい何やってんだ。俺はいったい……。
「しあわせバターくださーい!」
「はーい!」
チャカチャンチャンチャン♪
それから俺は見事に立ち直った。最初から自然に立っている人に比べれば、俺の手の中のしあわせは少し増しているようだ。他の人よりもずっと愚かだったが故に、ひどく遠回りしてしまったが、俺は今ようやく理解することができる。しあわせとは与えることだろう。
さよなら、過去の愚か者よ。
「すみません。うすしおくださーい!」
「はーい!」
何だかんだ言っても、うすしおが今日も飛ぶように売れる。
冒険はそこそこ。慣れ親しんだ味ほどみんなに喜ばれるのだろう。
この小さな売店が、俺の見つけた居場所だ。
「ありがとうございまーす!」
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馬鈴薯のイノベーションがおかしみを
まるく広げるスナック・ライフ
(折句「バイオマス」短歌)
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