永田町には緑の旗、サウジアラビアの国旗がたなびいていた。さて、旅の話の続きです。
朝食は、濃いコーヒーと黒パン、そしてソーセージ。この食事が毎日になると考えると嫌になる。
「おはよう」教授とAがレストランにやってきた。
「おはようございます」源太郎は立ち上がって挨拶した。
「早いな」
「ええ、早めに行動しないと、時間がもったないですからね」
「あいかわず貧乏性だなぁ。写真撮影してきたのか」
「いいえ、あまり綺麗な街並みじゃないし、散歩だけですよ」
「そうか」
教授のお皿には数種類のソーセージが盛られている。「そんなに食べるんですか」「ああ、お腹が空いたんだよ」それにしても量が多すぎると思いながら、その食欲に驚かされる。
旧市街を抜けてイーザル川を目指せば、大きな中洲に出るはずだ。
「おい、この川は運河みたいだな」
「ちゃいますよ。この川はドナウ川の支川ですよ。オーストリアから流れてくるんですからやっぱり大陸の川はでかいですよね」
「そうか、ドナウ川かぁ。おい、あの建物か」
「そうですね」
「学校みたいな建物だなぁ。ドイツの建物はセンスないよな」
「確かに、戦争で破壊尽くされたからじゃないんですか」
「違うよ。ドイツ人は合理主義だから無駄なもんや形はいらんのさ」
「そうですか」自信を持って話す教授。妙に説得力がある。
「間違いないですね。ここです。入り口にDeutsches Museumと書いてありますよ」
「この橋もセンスないな。親柱も味気ないし、パリのような派手さもない。えっ、どこに」
「ほら、ピロティみたいな入り口の上に、金文字があるでしょ」
「ドイツ博物館かぁ」
「さすが教授、さっと読めますね。ここが第1級の博物館ですよ」
「お前、俺をバカにしてるだろ」
「わかりますか。じゃ堪能なドイツ語を駆使してチケット買ってきてくださいよ」
「無料じゃないのか。大英博物館は無料だったろ」
「違いますよ。確か1500円くらいじゃないかなぁ」
「お前行って来い」「はいはい」
「さて、博物館に入りますか。ここは農業機械から、鉱業機械、そして飛行機そしてお目当のV1やV2が見れますよ。しかもレプリカじゃなくて全部本物ですよ」
「本当か。俺は兵器には興味がない」
「そう言わずに、見るだけ見てくださいよ。よそじゃ見ることできませんよ。ドイツは資源がなかったから、技術で国を活性化したんですよ。日本に似ているなぁ」
「お前、嬉しそうだなぁ」
「ほら、あれがV1ですよ。パルスジェットのシンプルな推進エンジンですが、今の巡行ミサイルの原型ですよ」教授は興味を示さない。
「で、これがV2」
「結構でかいな」
「そうですよ、この技術は米国もソ連もどこも持っていなかったんですね。すごい国ですよ。この時代に、液体燃料エンジンを制御し、慣性誘導できたんだから。フォンブラウンは天才ですよね」
「その名前聞いたことがあるぞ」
「でしょ。あのアポロを打ち上げたサターンロケットの開発者ですよ。アメリカもソ連もこの計画に携わった技術者の奪い合ってフォンブラウンはアメリカへ、ヘルムートはソ連に渡ったんです」
「ほんと、お前はタイムトラベラーだな。さぁ、そろそろ時間だし、ホテルに戻ろう。腹も減った」
ここにあと二日いればじっくり見れるんだけど、仕方ないか。さてガルミシュに出発しますか(続く)