ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2013.4.16 優秀な免疫細胞に選び抜かれた筈だけれど・・・

2013-04-16 20:43:24 | 日記
 朝日新聞医療サイトのアピタルで先月から新しい連載が始まった。
 日本で医師免許を取得後、本格的にモデル活動を始め、現在ニューヨーク在住という異色の経歴を持つ陳佳奈さんのコラムだ。毎回、テーマに因む色どりも綺麗な達者なイラスト付き(今回も細胞さんたちの試験の様子がとても可愛らしかった。)。素人にも判り易く書かれた文章には毎回「なるほど」と頷かされて、楽しみにしている。それにしても“天は二物を与えず”どころか何物も与えてしまうのだな、と思う才色兼備の方である。
 下記に最新号を転載させて頂く。

※  ※  ※(転載開始)

モデル女医のカラダ雑学 06命がけの試験 陳佳奈(2013年4月13日)

いまだに話題に上ることも多い日本のゆとり教育。
どちらかというと批判の方が多い気がするけれど、そんなゆとり世代のカラダの中にも、およそゆとりとは言えない厳しい選別システムが存在している。
その厳しい選別の目的は、優秀な免疫細胞を選び抜くこと。
免疫細胞とは、細菌やウイルスなど外界の物質から自分自身を守る役割を持った細胞のこと。
そのためには、攻撃をしかける免疫細胞が自分自身の細胞と外から侵入して来たものをきちんと区別できなくてはいけない。
そのために試験を課し、選別するのだ。
免疫細胞には色々なタイプの細胞がいるのだけど、今日はT細胞についてお話しよう。彼らは時には指令塔、時には実行班となって活躍してくれるとても重要な細胞だ。
ちょうど胸の真ん中に、胸骨と呼ばれる大きな骨がある。
その骨の体内側に「胸腺」とよばれる器官があり、ここがT細胞選別のための試験会場となっている。
成熟したT細胞になるために、たくさんの未熟なT細胞見習い達がこの選抜試験を受けに胸腺にやってくる。
試験内容はとてもシンプル。
自分自身の細胞をきちんと「自分だ」と認識できるか。
もしも「これは自分自身の細胞だよ」というサインを見過ごしてしまったら?
不合格。死ぬ訳ではないが、次のステップには進めない。
自分自身の細胞だと気付いて、つい「これ!これです!これ自分の細胞です!見失わないようにガッチリつかまえておきます!!!」と意気込みすぎてしまったら?
「自分自身を攻撃するかもしれない危険細胞」とみなされ、不合格の上強制的に死へ追いやられる。
やる気がありすぎるのもダメなのだ。
ではどんな細胞が合格するんだろう?
それは「これは自分の細胞ですね」と冷静に認識できる細胞だけ。
反応が弱すぎても、強すぎてもいけない。
その感覚を理解できる細胞のみが、胸腺を去って全身を巡ることを許される。
合格率はたったの1~5%。
胸腺にたどりついたT細胞見習い達のうち、実に95%以上の細胞がここで脱落するんだ。
合格率1~5%って相当難しい試験だよね。
そして私たちの世界と違うのは不合格となれば死が待っているということ。
まさに命がけの、厳しい世界なんだよ。
でも、厳しい選別をくぐり抜けたT細胞達は一生涯に渡って私たちを外界の敵から守ってくれる。
私たちは、命がけの試験をくぐり抜けた超エリート達に守られているんだ。
不合格=死を意味する免疫の世界。それと比べたら、人間の世界なんてずっとましじゃないか。

(転載終了)※  ※   ※

 それにしても免疫というシステムは本当に凄いものだ(いつもながら語彙が貧困ですみません。)。こうして再発がん患者になってしまうと、こと免疫力アップとか、免疫活性細胞とか、キラー細胞とか、そういう類の単語にはやけにアンテナがビビッと反応し、知らず知らずのうちに目に飛び込んできたり、耳がキャッチするようになった。
 私なんぞ胸骨にもしっかり転移のある身だが、今回まさにその骨の内側に免疫細胞の実行班として活躍するT細胞の試験場があるということを知り、ちょっとがっかりしてしまった。そっか、もしかするともうちゃんとした免疫細胞も選抜できていないのかもしれないな、と。
 それにしてもこの選別、不合格は細胞にとって待ったなしの強制的な死を意味するというのだから、文字通り命がけだ。合格率の低いこと。一般的に選抜試験で合格率5%以下といえば、いわゆる最難関の試験に限られるだろう。
 けれど、このシンプルな選抜試験に、私はなぜか人生の何たるかを見たような思いがした。シンプルだからこそ、なのかもしれないけれど、何とも哲学的な香りがする。自分を自分としてきちんと認識出来ること。けれど決して意気込み過ぎず、主張し過ぎないこと。冷静に正確に我が身の丈を知り、強すぎず弱すぎずバランス良く反応出来る感覚を備えていること。それが出来れば脱落することなく自分の使命を果たして生きていける。そんなメッセージを受け取った気がする。

 とにもかくにもいじけないで、今の自分をきちんと認識しながら、自然体で冷静に生きていこう。
 そして、明日もまた通院日、である。
コメント (2)
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