「山」旅の途中

40代後半になって始めた山歩き。自分はどこから来てどこに行くのか。光、空気、花々の記憶を留めたい。

2013年 山book (2) 『父を葬る』

2013-01-12 20:41:59 | 登山BOOK

 

■「父を葬る」 (ちちをおくる)高山文彦 幻戯書房 1900円 [小説]  

 【山域】 高千穂・二上山

まさに出合い頭だった。ブックオフの書棚で、そのタイトルに吸い寄せられた。

息子が父を看取り、炎に包み、葬る。そのとき、世の息子たちの心中に通底する疼痛はいかほどか。

作者の私小説。

 

花の匂いや鳥や虫の羽音までが聞こえてくる。

山深い高千穂の里で、父親が亡くなるまでの四季の一巡が繊細だ。

都会で暮らす「私」(作家・主人公)の生地や血脈に対する反発や嫌悪の気持ちが起伏する。

そして死にゆく父親の姿や表情を眼前に、してあげられなかったこと、してはならなかったことへの後悔。

それはかつての嫌悪を超越し、体の奥底から込み上げてくる深い感謝と愛情の証だった。

「父とは不思議な現象だ。死というのも、不思議な現象だ。どちにも唯一無二なのに遠くにある」。

そして肉体は去り、魂は山へ還る。見えなくても彼は存在し、父と子はつながっているのだ。

 

高千穂の霊峰・二上山。父親は春に山肌を赤く染め上げる満開のアケボノツツジを愛した。

かつて父子が登ったという山頂から里の家々を見下ろし、遺灰が舞うとき、あふれる光を感じた。

「死は怖くない。死んだら故郷の山に還るだけだ」。

血と骨の物語は、山と人が呼吸している土俗の世界を感じさせる一冊だった。 

インターネットで検索したアケボノツツジで赤く染まる二上山。

その穏やかな光景に心の救済を見た。    (1月9日読了)

 ※写真はイメージです。アケボノツツジは本州・九州の高山に自生し、ツツジとしてはかなり高木。

この写真は04年6月に徳舜瞥山で撮影したムラサキヤシオ。

 

 


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