2012年に読んだ「山」の本を読了の順に一覧化した。
数は少ないものの、活字で山や森に浸る楽しみを知る。
生きている言葉に四季を感じたり、山に登る人の生き様にときめいたり。
■「羆撃ち」 (ノンフィクション) 久保俊治 小学館文庫 638円
山域:「小樽の朝里岳」周辺など
大学を出てプロの専業ハンターになったタフガイの自伝。山野と羆の習性を読み解き、命と命が対峙する。
人はどこまで野生に立ち返ることができのか。
血と肉を賭けた戦いから、自然への深い畏敬がのぞく。
■「雪のチングルマ」 (小説) 新田次郎 文春文庫 648円
山域:「北アルプス・穂高連峰」「富士山」「アラスカ」などなど
昭和40年代に書かれた六篇の短編集。筆者得意の人と人が葛藤を繰り広げる遭難小説。
遭難にまつわる幻影とか怪奇・・・人知や世知を超えた、山々に臨在する「精気」が伝わってきた。
■神去なあなあ日常 (小説) 三浦しをん 徳間文庫 619円
山域:三重県の架空の「神去」(かむさり)村
林業という山仕事を、清々しく描く。日本の美しい四季がそよ風のように語られ、
若者特有の甘酸っぱい青春グラフィテイにも、どきどきした。
山里に暮す人々の心やすらかな日常の脱力感。一方で、山仕事に対する徹底したプロ意識と、その技が素晴らしい。
生きていることにリズムを感じる楽しい一遍。
■「マークスの山」 (小説) 高村薫 講談社文庫 上下 ブックオフで各100円で。
山域:南アルプスの主峰・北岳
wowwowのドラマがずしんと来たので、原作を読んだ。
作者が直木賞を受章した推理サスペンス。
主人公の青年の精神に宿る黒々と翳る、壁のような山。
そして、連続殺人事件を経てたどり着いた北岳山頂。
一陣の風で霧が晴れ、広がる富士山の雄姿に魂は救われたか。
■「凍」 (ノンフィション) 沢木耕太郎 新潮文庫 590円
山域:ヒマラヤのギャチュンカン(7952m)
強い絆で結ばれた氷壁クライマー山野井泰史、妙子夫婦が挑んだ壮絶な戦いの記録。
高度7000mの絶壁でビパークし、両手両足の指を失い、また山を目指す。
人はなぜ命懸けで山に挑むのか。
それは生き方の表現であり、生きている自分の瞬間を感じることなのか。
■「還るべき場所」 (小説) 文春文庫 笹本稜平
山域:ヒマラヤのk2とブロードピーク
ヒマラヤの8000m峰に挑む、男たちの夢、野心、絶望、挑戦、そして再生をつづる本格的な山岳小説。
サスペンスもあり、企業小説でもあり、重層な展開。
公募登山の企業家が生命を燃焼させてたどりついた結論は、「自分が今ここに存在している意味を感じる」こと。
そして、主人公のクライマーは絶望の日々から「還るべき場所」に復活する。
命懸けで山に挑む心とは、「生きているこの世界への愛」という作者のメッセージが熱い。
息を突かせぬ、ハラハラドキドキの大展開のあと、体の底からじんわりと力が湧いてきた。