マジカル・ミスってるツアー

MMT社
猫と水どうとするめイカ面達との非常識の中の常識的日常

エレベーター

2008-06-10 10:58:31 | 小林賢太郎・(有)大吟醸
「ご利用階数をお知らせ下さい」エレベーターボーイが言った。

「本公演」私は行き先を告げた。

「お客様、申し訳ございません。KKP止まりでございます」

「弱ったなあ、どうしても行きたいのに・・」

「申し訳ございません」



「それじゃあ、ボクと処へおいでよ。本公演は無いけれど、過去モノならきちんと揃っているよ」

誘われるままに、背の高い男の後について行った。



「内装工事したばかりで、ちょっとまだ、クロスの接着剤のニオイが気になるけど・・」

「いいや、そんな事ないよ。素敵だ。ちょっしたクロニクル図書館だね」


彼の部屋は、まるで一生変わる事ない地平線の様な、K氏の完璧なシャツインウエストラインのようであった。

シンプルで、無駄が無く、属・目・科ごと、到着順に並んでいて、それ以外の事は、極力排除されている。

「この部屋にいると自分も、デューイ10進分類法に組み込まれたみたいな錯覚に陥るね」

「気に入ってもらえたかなあ?」

「素晴らしい!」

「それは、何より」

「物事はねえ、計算・設計・予測・発想を縦糸で、連結・統計・記憶・整理を横糸で組み合わせて行うものだよ」

「その中に、感情による迷いや不安は無いの?」

「今のボクには感情表現は不要だ・・としておこう。だけど、これだけは言える。一年先五年先、十年先の計画は充分検討し組み込む事が可能だ。しかし、感情は・・?喜怒哀楽の未来の事など、このボクでも到底予測は不可能だよ」

「このボクにでも・・かぁ」

私は、飼い猫の耳の後ろを丁寧になでる様に、彼の言葉を重複した。


「ねえ、あの扉の向こうは、何?  ゴメン、とても気になって・・」

「ああ・・あの部屋か。まだ一年がかりの特注のモノが届いていないんだよ」

「一年?それは、凄い!!」

「8月には、入荷予定なんだ。是非、又、見にきてよ」

「是非、寄らせてもらうよ。但しこのビルに又、忍び込めたらね」

「セキュリティーが事のほか、厳しいからね。まあ、頑張って」

そう言いながら、彼は軽く手を上げた。



私は、運よく、また、このビルに侵入することが出来るだろうか・・?

一抹の不安を胸に、明日、第一関門スタートの合図が鳴る。








コメント (2)
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