時計屋は大通りを抜けて、猫の昼寝小道の中ほどにあった。
とても古臭く重い頑丈な扉には、世界一の器用な人間でも解けない位大量の蔦が絡まっていた。
扉の取っ手には、[営業中]という札がやる気なさそうにぶら下がっている。
しかし、どんな年代モノの部品がないアンティークな時計も、時計屋にかかれば、必ず直るという時計屋職人の間では、有名な店でもある。
ちなみに、ここに訪れる客は少なく、おもに、全国各地から壊れた修理希望の時計が郵送されてくる事がほとんど。
「ごめん下さい。すみません。腕時計を修理して頂きたいのですが・・・」
鼻から少々ずれている老眼鏡の上から、大きな目を光らせて、店主が私の声に反応した。
「どちらの時計ですか?」
「はい、コレなんですが。振っても二時間位で止まってしまいます。」
私が右腕にしている自動巻きオメガシーマスターを差し出すと、
「上着を脱いで、いつもの様に、腕を振ってごらん」
「はい、こんな感じでゼンマイを巻き上げるかなぁ・・。だいたい10秒間位」
「ふむふむふむふ」
店主は私の右手首からゆっくり上に向って肩までじっくり観察し、肩甲骨の後ろを触った。
「君、もっと肩の奥の筋肉を意識して手を振らなきゃダメだよ」
「はぁ・・・」
「そんな振り方じゃあ、この時計のローターは回転しないよ」
「私の振り方が原因ですか?」
「止まるという事は、中の部品の損傷は確かだろうがね。でも、振り方も注意しないと、時計が可哀想だ。仕上がりは二ヵ月後」
「二ヶ月かぁ・・。宜しくお願いします」
「で、一日の設定時間は何時間にするかね?」
「はい?質問の意味が分らないのですが?」
「一日24時間が一般的だが、プラス5時間までは可能だよ」
プラス5時間・・・。それだけあったら自分の自由な時間が増える。映画を観たり、観劇に行ったり、猫と昼寝したり、よしよし。
「プラス5時間で宜しくお願いします」
二ヶ月後、腕時計は完璧に直って帰ってきた。
しかし、当初のもくろみは外れて、私は29時間雑用に追われる羽目になった。
「また、時計屋に行って、直しに出さなきゃなあ・・」
とても古臭く重い頑丈な扉には、世界一の器用な人間でも解けない位大量の蔦が絡まっていた。
扉の取っ手には、[営業中]という札がやる気なさそうにぶら下がっている。
しかし、どんな年代モノの部品がないアンティークな時計も、時計屋にかかれば、必ず直るという時計屋職人の間では、有名な店でもある。
ちなみに、ここに訪れる客は少なく、おもに、全国各地から壊れた修理希望の時計が郵送されてくる事がほとんど。
「ごめん下さい。すみません。腕時計を修理して頂きたいのですが・・・」
鼻から少々ずれている老眼鏡の上から、大きな目を光らせて、店主が私の声に反応した。
「どちらの時計ですか?」
「はい、コレなんですが。振っても二時間位で止まってしまいます。」
私が右腕にしている自動巻きオメガシーマスターを差し出すと、
「上着を脱いで、いつもの様に、腕を振ってごらん」
「はい、こんな感じでゼンマイを巻き上げるかなぁ・・。だいたい10秒間位」
「ふむふむふむふ」
店主は私の右手首からゆっくり上に向って肩までじっくり観察し、肩甲骨の後ろを触った。
「君、もっと肩の奥の筋肉を意識して手を振らなきゃダメだよ」
「はぁ・・・」
「そんな振り方じゃあ、この時計のローターは回転しないよ」
「私の振り方が原因ですか?」
「止まるという事は、中の部品の損傷は確かだろうがね。でも、振り方も注意しないと、時計が可哀想だ。仕上がりは二ヵ月後」
「二ヶ月かぁ・・。宜しくお願いします」
「で、一日の設定時間は何時間にするかね?」
「はい?質問の意味が分らないのですが?」
「一日24時間が一般的だが、プラス5時間までは可能だよ」
プラス5時間・・・。それだけあったら自分の自由な時間が増える。映画を観たり、観劇に行ったり、猫と昼寝したり、よしよし。
「プラス5時間で宜しくお願いします」
二ヶ月後、腕時計は完璧に直って帰ってきた。
しかし、当初のもくろみは外れて、私は29時間雑用に追われる羽目になった。
「また、時計屋に行って、直しに出さなきゃなあ・・」