本蔵院 律良日記

熊本県にあるお寺“真言宗 本蔵院 律良のブログ”日々感じるままに活動のご報告や独り言などを書いた日記を公開しています。

利他主義と自利利他

2020-04-16 19:30:10 | 住職の活動日記

先日のテレビでの対談

このパンデミックで

大きく世界が変わろうとしている

そういうことについて

フランスのジャック・アタリ氏は

「利他主義」ということが

これからの世界では必要である

ということを唱えておられます。

 

なんとかファースト

ではないですが

自国さえよければいいという

時代はこれからは通用しない

のではないかと

他と共に共存することで

この世界は成り立っている

今こそ

利他主義(altruism)

を見直さなければならないと

警鐘を鳴らしておられます

 

「altruism」利他主義

聞きなれない言葉ですが

反対語は

「egoism」エゴイズム

この言葉は聞きなれた言葉です

翻訳の時、仏教語である利他を

内容から当てたということです。

 

この利他主義も古くは

オーギュスト・コントが唱えた

言葉のようですが

ジャックアタリという方も

この意味に立ち返らなければ

これからの世界は

成り立たないだろうと

言っておられます。

 

仏教では「自利利他」といい

最澄は「忘己利他」モウコリタ

(己を忘れ他を利するは

 慈悲の極みなり)

と説いておられます。

最近では

京セラの稲森さんが

「利他の心」ということを

主張しておられます。

「愛」とは

他人の喜びを自分の喜びとする心

「誠」とは

世のため人のためになることを

思う心、

「素直な心」とは

自分自身のいたらなさを認め

そこから努力するという

謙虚な姿勢、

という、

自分さえよければいいと

いうのではなく

他ということを大切にする

利他の心を主軸において

自分の生きる姿勢とされている

ようです。

 

東洋と西洋の利他ということ

ジャックアタリさんの話を

聞いていると、

利他主義といっても

合理的利他主義といっておられ

それは

他者のために生きるということは

ひいては自分の利益になる

合理的で最も自己主義という

回り回って自分に戻ってくる

という利他主義です。

 

このことも素晴らしいことです。

 

コロナという眼に見えない敵

意外なことで今までの価値観が

崩れていっているようです

目に見えた激しい相手でもなく

目にも見えず静かに浸透して

人間の社会を破壊していく

自粛という行動規制がかかると

ありとあらゆるところで

今までの

経済が止まってしまいます。

 

これから大きな価値の転換が

あるのではないでしょうか。

 

仏教での自利利他ということは

一つの象徴的な話として

聖徳太子が大切に思われた

施身聞偈セシンモンゲと

捨身施虎シャシンシコの説話があります

施身聞偈は

教えを聞くために

自分の身を投げ出す

という話です

これなら何とか分かります

ところが

捨身施虎という物語は

腹をすかした虎の母親が

あまりの空腹に

我が子を食べようとしている

そこで、修行者は自分の身を

虎に投げ出すという話です

 

教えのために我が身を捨てる

というのは何とか

本当の教えを得るということは

自分の命を捨てて求める

ということです

ところが

飢えた虎に自分の身を投げ出す

というのは理解できません

何の見返りもないのです

しかしそのことが

本当の利他行なのです。

 

稲森さんも述べておられます

飛行機時事故で一人の男性が

自ら助かるというその瞬間に

そばで力尽きそうな女性を

先に助け、自分は水の中に

消えていってしまったという

そういう

他のために尽くすという

心を本来持っていると

仰っておられます。

 

今の平時の考えでは

頭の中はソロバンしかありません

ものごとの基準は損得勘定です

しかし、心のどこかに

他のために尽くすという

本当の心を持っているのです。

 

六波羅蜜の布施の行でも

人に施しをすれば

その功徳が回り回って

自分に帰ってくる

だから布施の行を勧めている

のではないのです

自分の物惜しみの心を対治する

エゴの対治として

布施の行があるということです。

 

西洋東洋では

「利他」ということも

違いはあるかもしれませんが

これからの世界は

自分さえよければという

ファーストという考えは

通用しなくなり

利他ということが見直され

新たな価値観が生まれてくる

ような気がします。

 

 

 

 

 

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