尾上町をゆく(55) (お話)松林で迷った話
『郷土のお話と歌』(加古川市教育委員会)に次のような話があります。
浜ノ宮の松林は、不気味なほど深い森であったようです。
・・・・明治の中ごろのことでした。別府村のある人が、加古川まで買いものに出かけました。
その当時は、まだ「多木道」がなかったので、新野辺から斜めに浜ノ宮神杜の参道を通って宮の前へ出て、それから鶴林寺の方へ出るのが普通の近道でした。
加古川で所用をすませ、子どものみやげにと思って、饅頭を買って帰っていました。
季節は秋ごろでした。
あたりが暗くなったので、ちょうちんに灯をつけて浜ノ宮まで帰ってきたところ、空模様も悪くて、ポツリ・ポツリと雨が、ろうそくの灯にかかったのか、ちょうちんの灯が消えてしまいました。
あたりはまっ暗になりました。
でも、お宮の前にある神主さんの家のそばにあった桑の木や井戸も、つるべがあるのまでハッキリわかるのでした。
拝殿にはいり鈴を鳴らしてみたら、ガラガラと鳴ります。
なんでもないと思いながらお宮を出て帰途についたのですが、どう歩いても松林から出られませんでした。
そうこうするうちに、いっぺんにパッと明るく朝になりました。
そして、新野辺のおばさんから、「あんた、別府の人やが、朝早うからどこへ行ってでしてん?」といわれて、初めて気がつきました。
この人は夜どおし浜ノ宮の松林の中を歩いていたのです。
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