楽しんでこそ人生!ー「たった一度の人生 ほんとうに生かさなかったら人間生まれてきた甲斐がないじゃないか」山本有三

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聴診器 (生きる 2)

2004年03月18日 08時32分00秒 | つれづれなるままに考えること
聴診器
 五年生になる医学生O嬢が勉強のため、
二週間だけ、患者としての私の担当になった。

彼女の成すべきことは、この二週間に
患者を診察し、病状を把握し、現在の治療方法、
患者との接し方、患者の心理状況etcをレポートに纏めることである。
一日目は、上位の先生に伴われて、紹介にとどまった。

翌日、聴診器を携え診察させて欲しいという。ベッドに横たわり、
胸を広げると、やおら聴診器を胸に当てた。
手つきがまだ医師らしくなく、恐る恐るという感じであるのが良く分かる。
さて、問題は次の瞬間であった。

「あら!聴こえないわ!」
「この聴診器壊れている。」である。

すぐにナース・ステーションに帰って聴診器を取り替えてきたが、
ボクはO嬢に次のように話をした。

 がん治療に際して、全身になるべく早く薬が満遍なく、
全身に回るように、心臓に近く比較的太い静脈に、抗がん剤を注入する。
そのために、胸に点滴用の注射針を差込みます。
その注射針は、直径2ミリ長さ20センチほどの
プラスチックで出来たものですから、
体に差し込む役目を持っていない。
そのため、この針は、ひと回り太く、先端に鋭い切れ込みのある、
刺しこむ役目を持った金属製の針に覆われている。

金属製の針に覆われたプラスチック製の針は、
静脈の中に入ったのを確かめたら、
本来のプラスチック製の針だけを静脈に残し、
金属製の針を抜き出す。抜き出す際に、
プラスチック製の針が一緒に抜けるのを避けるために、
金属製の針を体の中に刺したまま、
割り箸のように二つに割り、静かに一つ一つ抜き出す。
残った針は向こう四日間、抗がん剤を投入するため体に入ったままになる。
寝返りを打ったりして、針が抜けるのを避けるため、
三箇所で肌に縫いとめる。

こうして、抗がん剤が点滴で投与されるのだが、
問題点が一つある。
それは、点滴の液が心臓のほうに流れ込めばよいのであるが、
時に首から脳に流れることがある。
それは、刺しこまれた針の長さに関係し、
微妙な長さの差で、脳に流れたり、心臓に向かって流れたりする。
それを確認するために、胸部のレントゲンを撮る。
レントゲンで心臓に流れているのを確認できれば、
これでOKとなる。

私の場合、毎回(もう三回終わったが三回とも)
点滴の液が、脳の中に流れ込んでおり、
やり直しになった。
 
やり直しは、どうやら血液科の助教授S氏のところまで、
相談が持ち込まれる。

S助教授の指示、
「刺した針を五センチ抜きなさい」や
「四センチ抜けばよい」に従うことになる。
不思議というか、当然というか、指示に従えば、
点滴の液は、レントゲンで確認すると、
心臓のほうへ流れを変えている。

さて、この「五センチ抜く」であるが、
肌に縫いとめた糸を切り、針を五センチ抜き、
もう一度三箇所で肌に縫い留めることになる。
当然痛いから、麻酔もしなければならない。
再々やり直しということもある。

 第一クールのときは、H先生が自ら持っていたスケールを出して、
胸のところに当てて、
「よし!五センチだ!」と確認した。

 第二クールのときは、Y女医さんが抜くことになった。今回は、
「四センチ」の指示だそうだ。

三箇所の糸を切って、針を抜きにかかった。

「これで良いですね?」と
先輩医師に尋ねる。
「OK」と先輩。
スケール無しである。ボクは不安に思って、

「どうして四センチと分かるのですか?」と尋ねた。
「針に目盛りがついているのです。」と

Y女医が答える。

第三クールは、主治医のF医師である。
「今回は五センチ」の指示。
F先生も自らスケールを取り出し、五センチを確認する。
抜き出す針に目盛りがついているにもかかわらず。

 O嬢は黙って聞いている。
「ここで、貴女にお話したいことは、
針には、目盛りがついているのに、
二人の先生は自分が持っているスケールで確認したということ。
(科学者は、いつも何時も、確かであろうか?と確かめることが大切だ。)
ということを知ってもらいたいのです。

貴方は、聴診器を持ってくるときに、
役に立つ聴診器かどうか確かめてこなかった。
看護婦さんに渡されたから大丈夫と思った。
これでは医者である以前に、科学者として0点です。」

(消したつもりでは、火事になってしまい元も子もなくなるのです。
元も子もなくなるということは、医師としての信頼をなくすことです。
ひいてはT大学の医学生はすべてこんな程度かと、
信頼をなくすこと。 
さらに卒業生まで信頼をなくすことになるのですよ。
貴女一人の問題ではなくなるのです。)と
言いたかったが、
医学部の学生だからこれ位は、言わなくても理解してくれた(?)と思うし、
いくらなんでも、もし理解できていないようなら、
医師の国家試験を合格してもらっては困る。
読者の皆さん!いかがでしょうか?
        




 





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