ハチに刺される

朝。事務所の壁にアシナガバチが一匹とまっていた。

殺生をする気はなかった。

（ハエ・蚊・ゴキブリなら即座に成敗！であるが。）

ティッシュでくるんで捕まえて外へ放り出すつもりだった。

箱ティッシュから一枚を引き抜き、ハチの背後から覆いかぶせるように
つまんだ刹那！

ちくっ！

痛っ！！

右手中指の先端を刺された。

反射的に手を離す。ハチは飛び去る。ティッシュが舞い落ちる。

痛みとともに怒りが込み上げてきた。

てめえ、なにしやがる！
おれは殺すつもりはねえんだ、それがなんだ、ああ？恩をあだで返すようなことしやがって！

殺意が芽生えた。しかしハチはもういない。

今週は休み明けから連続、ずっと現場仕事だ。今日も明日もだ。
クロス工事は手を使う。水も使う。糊も付く。

どうしてくれるだ！仕事に支障があったら！大切な商売道具を！
指先が腫れてぼんぼこぼんになったらどうすんだ！おれの黄金の右手中指を！！

ハチにしてみれば本能的な防衛行動か。

対する無知な人間の、単なる 「親切心が　あだ」 か。

さいわい黄金の右手中指は腫れも痛みもなく、仕事に支障もきたさなかった。

だからハチに対する憎悪は、今は無い。

許してやることにする。