お客様宅に上がらせていただく、ということ。

ふすまの張り替えをお預かりするため伺った木戸町のお宅。
ご主人はお茶とお華の先生だ。

「朝から暑いですね。どうぞ、まず一杯飲んでから仕事してください。」

おっと！私はその流派をまったく存じ上げない。一瞬緊張。

しかしご主人は茶席ではなくリビングのテーブルに私を招き、
ご自分はキッチンに立ってお茶をたててくださった。
緊張の糸がほぐれる。

お菓子の最中をいただき、お抹茶をいただき、会話を楽しみ、仕事に移る。
私の仕事のさまをずっと興味深げにご覧になる。
時折、いろんな質問をされる。

私は手を休めずに、それらの質問になるべくわかりやすくお応えしながら
（家に上がらせていただく仕事というのはこういう時間が非常に大切なのだな）
とあらためて思った。

手を止めてもだめ。しゃべり過ぎもだめ。無口、無愛想もだめ。
道具の扱い、所作にも気を配る。

お客様は期待している。

その期待や希望を絶対に裏切ってはいけない。

期待値を１００とすれば、私は１２０の仕事をしなければならない。

お客様宅に上がらせていただくということは

アーティストがステージに上がるようなものかもしれない。


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