中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

最近の小職セミナー資料より⑥

2018年07月06日 | 情報

前項の続きです。
前項は、企業にとっては「表向き」の議論なのです。
実態はどうなのでしょうか。精神疾患の主な原因は、①長時間労働 ②ハラスメント(人間関係)
③異動・転勤による不適合④昇進・昇格等々で、殆どが労災に該当するものと推測しています。
多くは、私傷病が原因と主張するのであれば、なぜ企業が費用負担して、
ストレスチェックをしなければならないのか、考えてみてください。

しかし、まず、精神疾患の場合には、労災か私傷病かを判別することは、とても難しい議論なのです。
一見、労災ではないかと考えられる事案でも、私傷病の理由が重なる場合もありますし、
当事者の個体要因が主要な要因である場合も考えられるからです。
企業・事業場は、この「環境」を利用して、企業側にとって都合がいい、私傷病として事務処理してしまうのです。
後から当該労働者から反論されて、例え労災であると認定されても、労災か私傷病かを俄かに判定できませんから、
会社側は所謂「労災隠し」(安衛則第97条違反)をしたとは認定されないのです。

会社は、原則「私傷病で、事務処理をしたい」のです。その理由は明快です。
〇労災事案は、マスコミで報じられますので、会社のイメージダウンになる。
〇労災保険料が上昇して、経営を圧迫する。
〇当該労働者を退職させることができない。
〇労災認定さてると、当該労働者から民事損害賠償責任を追及される。

一方で、当該労働者が精神疾患をり患しても、
・労働者には、そもそも労災という認識がない。
・労働者には、労災申請のための証拠集めが難しい。
・労働者には、労災申請の方法が分からない
・加えて、会社側が、労働者の労災申請を思い止まらせる。
等々の理由で、精神疾患による労災申請が少ないのです。

さて、理由の最後に、「会社側が、労働者の労災申請を思い止まらせる。」と記しました。
上述したように、会社側にとっては、労災事案を極小化するメリットはたくさんあります。
ですから、会社は、当該労働者に「労災申請」を思い止まるように説得するのです。
その代わり、定年まで会社に在籍させると条件を提示するのです。
労働側にとってみれば、司法で争って、例え勝訴しても数百万円単位の賠償金を得るのが精々ですから、
会社側の条件提示は「渡りに船」なのです。

前項でも例に取り上げた、東芝(うつ病・解雇)事件(最二小平26.3.24)ですが、はじめ会社側は私傷病として処理しました。
しかし、逆転敗訴しても、会社側が所謂「労災隠し」(安衛則第97条違反)をしたとはされないのです。
こうして、年間100万人単位(厚労省患者調査)で、うつ病り患者が出ても、
精神疾患で労災認定される事案は、数百件に止まっているのです。

この連載は、取りあえず今回で終了です。
様子を見ながら、追加も検討します。


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