熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

三月大歌舞伎・・・「新薄雪物語」

2020年04月23日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   3月から、歌舞伎座公演は、休演となっているのだが、松竹チャンネルが、無観客の歌舞伎座で録画した三月大歌舞伎を、Youtubeで、配信している。
   その中でも、最も注目すべきは、通し狂言「新薄雪物語」花見 詮議 広間 合腹で、素晴らしい舞台を見せてくれている。
   主な配役は次の通りで、望み得る最高のキャスティングであろうと思う。
幸崎伊賀守 吉右衛門
葛城民部 梅玉
秋月大膳 歌六
腰元籬 扇雀
奴妻平 芝翫
薄雪姫 孝太郎
園部左衛門 幸四郎
清水寺住職 錦吾
刎川兵蔵 錦之助
団九郎 又五郎
松ヶ枝 雀右衛門
梅の方 魁春
園部兵衛 仁左衛門

   今回の新薄雪物語は、ほぼ、次の通り、
   春爛漫の京都の清水寺に、花見に訪れた幸崎伊賀守の息女薄雪姫と、刀を奉納に来た園部兵衛の子息左衛門が、一目惚れして、薄雪姫の腰元籬と、左衛門の奴妻平の仲立ちで言い交わす仲となる。一方、天下を狙う秋月大膳は正宗の子団九郎に命じて、左衛門が奉納した刀に国家調伏のやすり目を入れさせ、それを見とがめた左衛門に付き従っていた来国行を、通りかかった大膳が小柄を投げて殺す。左衛門が置き忘れた薄雪姫の艶書を拾った大膳は、この書を証拠として、左衛門と薄雪姫に謀反の疑いをかけて幸崎、園部両家を陥れようと謀る。
   
   
   
   

   謀反の罪に問われた左衛門と薄雪姫の詮議のため、葛城民部と大膳が幸崎邸を訪れ、詮議する途中に、来国行の死体が運び込まれ、小柄の傷を見て秋月大膳の陰謀であると察知し、民部は、伊賀守と兵衛の願いを聞き入れて、それぞれ互いの子を預かって詮議するようにと、温情ある捌きをみせて、若い二人に手を握らせる。
   
   
   
   薄雪姫を預かる兵衛は、姫の身を案じて館から落ち延びさせる。伊賀守の使者兵蔵がやって来て、左衛門は自らの罪を認めたので、伊賀守が清水寺に奉納した刀でその首を打った旨を伝え、姫の首も同じ刀で打つようにと告げる。切っ先の血を見た兵衛は、首を討った刀なら有る筈の血糊がないので切腹刀だと察し、まもなく、首桶を携えた伊賀守が来訪したので、出迎えを妻梅の方に任せて引っ込む。姫の首を打ったと応えた兵衛も、首桶を手に伊賀守を迎える。二人が首桶を開けると、そのなかにあったのは、二人を逃がした罪を受けての切腹の嘆願書。肩の荷を下ろした清々しさに、梅の方をも巻き込んで、腹を切って苦痛に耐えながら、三人で笑い飛ばそうとする。
   この三人笑いは、この歌舞伎の最後の感動的なシーンだが、蔭腹を切った親たちの実に悲しい笑うに笑えない笑いで、笑えと言われて、顔をくちゃくちゃにして笑おうとする魁春の表情が切ない。
   
   
   
   
   
   
   

   若い男女が、悪逆非道の大膳の陰謀に巻き込まれたことを知りながら、命を懸けて、子どもたちを守り通そうとする父親の姿が共感を呼ぶ。
   この後の巻で、団九郎は父正宗の秘法を盗もうとして片腕を切落されて、悔悟して大膳の悪事を自白することになっていて、目出度しで終わるようである。

   若い恋人同士を演じているのは、もう、押しも押されもしない歌舞伎界のホープの幸四郎と孝太郎だが、熟練したベテランの芸を内に秘めながら、しっとりとした初々しさと一途の恋心を見せる芸の深さには脱帽である。
   流石に、人間国宝吉右衛門と仁左衛門の重厚で風格のある舞台が見物で、これだけの威厳のある舞台を見せられると文句なしに感動的であるし、それに、二人を支える妻の雀右衛門と魁春の情感豊かな温かみのある芸が光っていて、質の高い芝居の醍醐味を楽しむ喜びを感じる。
   梅玉の執権葛城民部の実に凜々しくて折り目正しい姿は、おそらく、この舞台では、最も人を得た役柄であろう。このような役を務めると梅玉の右に出る者はいないと思える適役である。

   寛保元年(1741)竹本座での浄瑠璃だが、非常にモダンな感じで、上の巻「清水」での、二人の一目惚れや、腰元籬に唆されて薄雪が自害すると結婚を迫るシーンや、腰元籬と奴妻平の恋の取持など、全く違和感がないし、桜咲き誇る極彩色の清水の寺殿をバックにして展開される華麗な舞台は、実に美しく、幸四郎と孝太郎のはつらつとした芸が素晴らしい。
   興味深かったのは、風格と威厳のある善人を演じることの多い歌六が、骨太の大悪大膳を感動的に演じていたことで、弟又五郎のコミカルタッチの団九郞と息の合った演技が秀逸。
   腰元籬の扇雀の恋の手ほどきよろしく、奴の芝翫との掛け合いが面白い。
    それに、この舞台の最後を飾る妻平の立廻りが、結構迫力のある歌舞伎の様式美を見せていて、芝翫がただの脇役でないことを示していて興味深い。
   
   放映された舞台なので、適当に舞台写真を使わせて貰ったが、久しぶりに、質の高い素晴らしい舞台を見せて貰った。








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