熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

スターバックスはイノベーションか?

2007年08月26日 | イノベーションと経営
   ピーター・ドラッカーは、晩年、iPodとスターバックスをイノベーションだと言っていた。
   クレアモントのキャンパスに、スターバックスが有ったのかどうかは分からないが、ドラッカーがスターバックスで、カフェラテを飲んでいたかと思うと愉快だが、
   ”スターバックスは、家と仕事の間に有って、息抜きの場となることを目指したのであり、提供したのはコーヒーではなく場であった。”と言っている。
   しかし、提供したのが場であって、それがイノベーションだと言うのなら、日本には、昔から喫茶店と言うものがあって、お茶を飲みながら、憩うことの出来る立派な場があり、イノベーションでも何でもない。

   確かに、アメリカにもイギリスにも、スターバックスが出現する以前には、喫茶だけと言うか喫茶主体の日本の喫茶店のような簡易な場所はなく、コーヒーを飲みたくなれば、ホテルのコーヒーショップか、マクドナルドなどに行くしかなかったような気がする。
   従って、ドラッカーの論理は、あくまで、アメリカやイギリスの論理に基づく「破壊的イノベーション」であって、シルクロード沿いのチャイなど、東洋には、古くから茶を飲みながら、憩い楽しむ社交の場はいくらでもあったのである。

   ところが、日本人の竹内弘高一橋教授なども、スターバックスは、第三の場所――ちょっとリラックスする空間を提供しているので、カテゴリー・イノベーションだと言っている。日本で講義するのなら、受け売り経営学であっても、もう少し良くシチュエーションを考えて理屈付けをすべきであろう。
   追い討ちをかけるなら、日本には、色々な状況において、「お茶でも・・・」と言って喫茶店に入ってひと時を過ごす素晴らしい潤滑油のような文化が育まれており、古くは、日本文化の華とも言うべき茶道文化をも生み出した。
   京都のイノダコーヒー店では、今でも、早朝に、京都の商人や職人たちが三々五々集まって朝の情報交換会を行っているが、保険業が生まれ出でたシティのロイズ・コーヒー店さながらである。

   とは言っても、イノベーションの視点が多少違うだけだが、私自身は、スターバックスは、立派なイノベーションだと思っている。
   T.フリードマンが、言っているが、店舗のメニューを組み合わせれば、19000種類ものコーヒー飲料を客の好みで作ることが出来る、すなわち、スターバックスは、客に店専属の飲料デザイナーになってもらって自分の好みに合った飲み物をカスタマイズする喜びを与えたことである。
   これは、A.トフラーの言う生産消費者の概念の発露であり、また、C.K.プラハラードが説く「顧客と企業との供創(Co-Creation)」であって、正に、新しいサービス業のあり方の体現である。

   供創経験のパーソナル化と言う視点でプラハラードは捉えている。
   ”店の立地、内装、照明、製品ラインナップ、BGMなどの相乗効果によって、来店者にくつろぐ、読書をする、友人とおしゃべりに興じる、楽しいひと時を過ごす、と言った環境を用意している。経験環境を通して多彩な状況を演出しているが、同時に、各人が自分なりの文脈を決めて、思い思いのスターバックス経験を楽しめる余地を設けている。・・・スターバックスは、商品、従業員、消費者コミュニティを工夫して組み合わせれば、各人にユニークな経験をもたらせる、と心得ているのだ。”

   私自身は、2年前に、ニューヨークのブロードウエイ、フィラデルフィアのシティホール側とペンシルヴェニア大学、ボストンのシティセンターなどのスターバックス店に入って御馴染みのカフェラテなどを楽しんだが、別に日本にあるスターバックス店と大差なく、喫茶文化に慣れている日本人の私には、プラハラードなどが感心するほどの感慨はなかった。

   段々、消えて行くのが残念だが、日本には、雰囲気のある喫茶店がまだ少しは残っている。
   地方の街の片隅に、ずらりと壁面に並んだジャズのレコードジャケットを背負いながら老夫婦が、静かにビーカーでコーヒーを点てている店があった。
   迷い込んで入った地方都市のビルの地下に、レトロ調の内装にガレ風の淡い照明が温かく燈っていて、ショパンのノクターンが優しい、そんな店でキリマンジャロをすすったこともあった。
   スターバックスで、若者達に混じって本を読みふけることも結構多くなったが、私には、そんな喫茶店の方が合っている。
   
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