熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

C・P・キンドルバーガー著「経済大国興亡史 1500-1990」(3)オランダの盛衰ー1

2017年03月18日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   この本で、経済的覇権を確立した個別の国家の成長と衰退が、時系列で論じられていて、低地諸国の章で、すなわち、ベルギーとオランダについて記述されている。
   私自身、オランダに4年間在住して、多少なりとも、この国について知見があるので、本来なら、国際経済をリードする経済覇権など望みえないような小国が、どうして、世界の歴史において、燦然と輝く偉業を刻み込めたのか、非常に興味津々のトピックスなので、キンドルバーガーの見解を反芻したいと思った。

   1590年から1620年まで続いたオランダの急成長は、経済的な奇跡と呼ばれたとして、その有利に働いた諸要因について列挙している。
   まず、地理的に、太平洋、北海、バルト海へのアクセスが簡単であって、豊かな後背地があり、そこから一連の幅の広い川が幾筋も注ぎ込んでいること。
   構造的な要因として、強力な封建貴族がいなかったこと、強力な教会がなかったことも重要な要因で、それに、教育が広く普及していたこと。

   幸い、スペインのアルマダ艦隊が、イギリスに駆逐されるなど、ヨーロッパをリードする国が、弱くなって、ネーデルランド連邦共和国が、徐々に先頭に出る余地が生まれたと言う偶然も幸いしている。
   スペインとイギリスの海軍の弱体化とは逆に、オランダの海運業の発展に道を開き、当時、ニシンがバルト海から北海に移動してことも幸いして、オランダの漁師はハンザの漁師を凌駕して優位に立ち、その後の投資に必要な資本の本源的蓄積が提供され、アムステルダムは、ニシンの屋台骨を土台として建設されたと言う。
   それに加えて、才能ある人物や資本が流入して、新しい経済生活を創出する起動因となったと言う偶然も働いた。

   一方、アルフレッド・マーシャルは、オランダ人はイギリス人と比べて、発明においては遅鈍であったと言っているのだが、キンドルバーガーは反論して、
   排水と土地改良、船舶の設計と建造、穀物の製粉や造船用材を挽くための風車の利用などの組織的な手法、トレックファールトの発明、オランダ東会社の創設、小型の商戦隊を効率的に護衛するシステムの創設、他sh多様な金融手段の開発、その他多くの技術革新等々を列挙している。

   貿易立国を目指したオランダにとって、有利に働いたのは、外国商品の集積地として機能したことに加えて、政府が国内産の商品の規格を定めて、それが厳守されるよう目を光らせたことだと言う。
   この世界貿易首位の座を、オランダは、1585年から1740年まで、1半世紀維持したと言うのであるから驚くべき快挙である。
   ところが、この世界貿易の集積地としての中継貿易が、必然的に一時的なものであって、1700年代後半には、直接貿易の方がより経済的で有利となり、オランダ優位を蚕食したのである。

   貿易の衰退は、かなり早く来たようだが、オランダの優位は、金融に移って行った。
   オランダの諸州が、マーチャントバンカーからの借り入れを止めて、富裕な人々に長期国債を直接売りだすことに切り替えたと言う、いわば、財政革命は、政府債権発行の先鞭をつけた。
   アントワープの難を逃れてアムステルダムなどに移り住んだマーチャント・バンカーたちが、貿易のブームに触発されて、高度な金融技術を駆使して、膨大な貯蓄のプールをこしらえたと言う。
   しかし、興味深いのは、貿易から金融への転換の原因は、投機への精神が芽生えたために、そしてそれと同程度に、怠惰がはびこるようになったために、オランダ人の心性に変化が生じたと言うことで、オランダの凋落を暗示していることである。

   もう一つ面白いのは、スペイン領ネーデルランドから金融技術を借用すると同時に、ギャンブル好きを受け継いだと言うことである。
   謹厳実直、ダッチアカウントに見られるように金銭に厳しい筈のオランダ人の特質からは、正に、これらの変則、矛盾、逆説こそが、1636年のチューリップ投機狂騒曲を現出させた。
   ところが、この月謝を支払ったおかげか、オランダの投資家は、かなり機転が利く連中で、フランスのミシシッピ会社の倒産やイギリスの南海泡沫事件では、ひどい打撃を被ると言うことはなかったと言うから興味深い。
   
   スペインやポルトガルから追放されたユダヤ人は、とりわけ革新的であり、先物取引やオプションに精通しており、これらの取引は、実物商品見ることなしの取引なので、「風の取引」と呼ばれたようだが、このような純粋な金融投機は、17世紀の前半の早いうちに始まって、世紀後半に外国貿易よりも選好されるようになったと言う。

   キンドルバーガーは、」「低地諸国」の前に、時系列順に、イタリア、ポルトガル、スペインを取り扱い、その後、フランス、イギリス、ドイツ、アメリカ、日本の盛衰について語っていて、夫々の推移が非常に興味深い。
   特に、イギリス以前については、大航海時代の幕開け以降のヨーロッパの経済的覇権の歴史を紐解きながら、文明史を語っていて、楽しませてくれる。

   今回は、主に、オランダの発展について書いたが、次には、その衰退と凋落について考えてみたい。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 国立劇場の花・・・歌舞伎「... | トップ | 国立劇場・・・3月歌舞伎「... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

書評(ブックレビュー)・読書」カテゴリの最新記事