熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

今日の一日:国立演芸場、神保町、国立能楽堂

2017年08月03日 | 今日の日記
   今日は、忙しい一日であった。
   朝、早く鎌倉を出て、二か月ごとに通っている山王病院に行き、定期検診を受けた。
   もう、何十年も前からの持病と言うか、高血圧症のチェックと薬剤の取得が目的なのだが、ホームドクターのような感じで、色々とお世話になっているので、助かっている。
   有名病院なので、待ち時間が長いので、時間が縛られるのだが、私の場合には、その間、本を読んでさえおれば良いので、別に気にならない。

   その後、メトロで一駅、永田町から歩いて国立演芸場。
   上席で、トリは、落語協会会長の柳亭市場。
   「妾馬」と言うお殿様とがらっぱちの長屋の住人八五郎との愉快な会話が主体で、別題「八五郎出世」と言うのだが、落差の激しい頓珍漢の対話が面白い。

   長屋の前を通りがかった大名・赤井御門守が、行列の駕籠から長屋口で八五郎の妹お鶴を見初めて側室にし、世継ぎが生まれたので、八五郎を呼び出す。
   大家は八五郎に、着物や履物を貸し与え、御前へ出たら言葉を丁寧にとアドバイスをして送り出したが、側用人の三太夫につつかれながら話すが一向に通じず、無礼講だから朋友に語るごとく話せと言われて、振舞われた酒肴に酔っぱらった勢いもあって、一気にべらんめえ調となって思いのタケをぶちまける。
   八五郎は、殿の傍にいる立派になったお鶴に気が付いて、母がお鶴を見れば喜んで泣きゃあがると感極まって涙をこぼし、御門守に、母を一度呼んで初孫を見せてやって欲しい、お鶴を末永くかわいがってくれと頼んで、景気直しに都々逸を唸る。
   そんな八五郎を気に入った御門守は彼を侍に取り立てる。と言う話である。

   この話は、長屋の住人と大名と言う、殆ど接点のない二人が対話する面白さもそうだが、八五郎が、庶民にかえって、お鶴に向かって、兄と妹に戻って労りの言葉をかけ、殿様に、老母の喜びと孫でありながら見ることさえままならない苦衷を訴えて一目戸の隙間からでもよいから見せてやってくれ、お鶴をかわいがってやってくれと言う、しんみりとした人情を語りかけていて、泣かせるところが良い。

 市場のまくらは、師匠小さんが、天皇陛下の前に呼ばれたとき、
   「最近、落語はどうですか」と聞かれて、上がってしまったのか何を考えていたのか、「大分、良くなりました。」と応えたと話し、
   昔も今も身分の違いの対面の機会はないのだが、士農工商、身分違いの殿様と庶民の対話が実現するのは、有難くも落語の世界、と、一気に、本題を語り始めた。
   30分弱の高座、
   八五郎の都都逸「しめたはかたのおびがなく・・・」と得意の名調子を、ひとくさり披露して観客を喜ばせていた。

   五明樓玉の輔の色っぽい「宮戸川」が面白かった。
   柳家小のぶの「風呂敷」と古今亭菊太郎の「変わり目」は、酔っ払いの噺。
   柳家さん助が語った「七度狐」は、上方落語だが、江戸前に調子を変えており、二人の旅人が、誤って狐に悪さをした罰に、七度騙されると言う話で、初めて聞いた。
   「牛ほめ」の柳家市江は、二つ目で市場の弟子。
   

   落語がはねた後、何時もの調子で、時間があれば、お濠を越えて神保町の古書店へ。
   この日は、三省堂で時間を過ごしたが、特に、食指を動かすような本は見つからなかった。
   「神保町セレクション」と言うコーナーがあって、
   ”現在、毎日200冊もの新刊がでています。年間にすると約7万冊。どの本を読んでいいのか、分からない読者に贈る「今、読んでおきたい本」を分野別に紹介します。”との能書きで、本が、半分以上はビジネス関連だが、5段にわたって整理されている。
   以前にも同じような感想を持って、このブログにも書いたのだが、何をもって「今読んでおきたい本」であって、誰がどのような価値基準で選んでいるのかと言うことである。
   私の独善と偏見だが、ビジネスの棚で、「LIFE SIFT」だとか、クリステンセンの「ジョブズ理論」とか数冊を除いて、ほかの殆どは、読みたいとは思わなかったし、役に立つとは思えなかった。

   田宮書店の店頭で、二十年以上も前に出版されたダンテの「神曲」を見つけて買った。
   膨大な大冊の本だが、平川祐弘教授の解説を読むだけでも、値打があると思った。
   

   国立能楽堂は、「働く貴方に贈る」と銘打った「企画公演」。
   対談 古川日出男×松原隆一郎
   狂言和泉流「雁礫」 佐藤友彦
   能喜多流「鵺」 大友定

   二人の対談は、鵺の舞台など神戸における平家物語の世界に会話が弾んだ。

   狂言は、シテ大名の佐藤友彦が、中々頑固で偉丈夫な大名を演じていて面白かった。

   「鵺」は、「平家物語」の頼政の鵺退治から題材を取っているようだが、頼政ではなく、成敗されて流された敗者の鵺の立場から、その苦悩と悲哀を描いているのが興味深い。
  シテの大友定の舞も秀逸だが、囃子と地謡も上手く調和して感動的な舞台であった。
   世阿弥作と言うが、シテは、頼政の鵺退治や褒賞シーンを舞うものの、暗い舞台で、杓を背首に当てて、流れゆく鵺の姿が切ない。  

   これだけ、一日の予定を詰めると、分刻みの移動もあって、能がはねた後、北参道に急いで、急行に駆け込み、最終バスで、帰宅したのは11時半。
   好きなことをしているので、文句は言えない。
   
   
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