熟年の文化徒然雑記帳

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PS:ジョセフ・ナイ「アメリカの偉大さと衰退 American Greatness and Decline」

2024年02月06日 | 政治・経済・社会時事評論
   プロジェクト・シンジケートのジョセフ・ナイ教授の「アメリカの偉大さと衰退 American Greatness and Decline」

   トランプが11月にホワイトハウスに返り咲けば、今年は米国の力にとって転換点となる可能性がある。 植民地時代以来アメリカ人を悩ませてきた衰退への恐怖は正当化されるであろう。
   ほとんどのアメリカ人が、アメリカは衰退していると信じているが、トランプは「アメリカを再び偉大にする」ことができると主張している。 しかし、トランプの前提はまったく間違っており、米国にとって最大の脅威となるのはトランプが提案する救済策だ。と言うのである。

   ナイ教授は、アメリカ人には衰退を心配してきた長い歴史がある。として、17 世紀にマサチューセッツ湾植民地が設立されて間もなく、一部の清教徒は以前の美徳が失われたことを嘆いたことから説き起こして、アメリカ人の衰退観の歴史を述べ、
   衰退という考え方は明らかにアメリカ政治の生々しい神経に触れており、党派政治にとって頼りになる材料となっている。 場合によっては、衰退への不安が、利益よりも害をもたらす保護主義的な政策につながることもある。 そして時々、傲慢な時期がイラク戦争のような行き過ぎた政策につながることもある。 アメリカの力を過小評価しても過大評価しても美徳はない。と言う。

   地政学に関しては、絶対的な衰退と相対的な衰退を区別することが重要である。 相対的な意味で言えば、アメリカは第二次世界大戦後ずっと衰退の一途をたどっている。 世界経済の半分を占め、核兵器(ソ連が1949年に取得)を独占することは二度とないであろう。 戦争により米国経済は強化されたが、他国の経済は弱体化した。 しかし、世界の他の国々が回復するにつれて、世界の GDP に占めるアメリカのシェアは 1970 年までに 3 分の 1 に低下した (おおよそ第二次世界大戦前夜のシェア)。ニクソン大統領はこれを衰退の兆しとみなし、ドルを金本位制から外した。 しかし、半世紀経った今でもドルの価値は非常に高く、世界の GDP に占めるアメリカのシェアは依然として約 4 分の 1 であり、また、アメリカの「衰退」が冷戦での勝利を妨げるものでもなかった。

   今日、中国の台頭は米国の衰退の証拠としてよく引用される。 米中力関係を厳密に見ると、確かに中国有利の変化があり、それは相対的な意味での米国の衰退として描写することができる。 しかし、絶対的な観点から言えば、米国は依然として強力であり、今後もそうである可能性が高い。 中国は強力な競合相手だが、大きな弱点もある。 全体的な力のバランスに関して言えば、米国には、中国に比べて、少なくとも 6 つの長期的な利点がある。

   第1は、地理で、米国は 2 つの海と 2 つの友好的な隣国に囲まれている一方、中国は 14 か国と国境を接しており、インドを含むいくつかの国と領土紛争を抱えている。
   第2は、中国が輸入に依存しているのに対し、アメリカは相対的なエネルギーの独立性を保持している。
   第3に、米国は大規模な多国籍金融機関とドルの国際的役割から権力を得ている。 信頼できる基軸通貨は自由に交換可能であり、深い資本市場と法の支配に根ざしていなければならないが、そのすべてが中国には欠けている。
    第 4 に、米国は、現在世界人口ランキングでその地位 (3 位) を維持すると予測されている唯一の主要先進国として、相対的な人口動態上の優位性を持っている。 世界の経済大国15カ国のうち7カ国では、今後10年間で労働力が減少するだろうが、米国の労働力は増加すると予想されており、中国の労働力は 2014 年にピークに達した。
   第5に、アメリカは長年にわたり主要技術(バイオ、ナノ、情報)において最前線に立ってきた。 中国は研究開発に多額の投資を行っており、現在では特許の点で優れた成績を収めているが、独自の基準によれば、中国の研究大学は依然として米国の研究機関に劣っている。
    最後に、国際世論調査では、ソフトな吸引力において米国が中国を上回っていることが示されている。

   全体として、米国は 21 世紀の大国競争において強力な地位を占めている。 しかし、米国人が中国の台頭に対するヒステリーに屈したり、中国の「ピーク」に対する自己満足に屈したりすれば、米国は、カードの使い方を誤る可能性がある。 強力な提携や国際機関への影響力など、価値の高いカードを破棄することは重大な間違いである。 アメリカを再び偉大にするどころか、大きく弱体化する可能性がある。
   アメリカ人は中国の台頭よりも、国内でのポピュリスト・ナショナリズムの台頭の方を恐れている。 ウクライナ支援の拒否やNATOからの脱退などのポピュリスト政策は、米国のソフトパワーに大きなダメージを与えるであろう。 トランプが11月に大統領選に勝利すれば、今年は米国の力にとって転換点となる可能性がある。 最後に、衰退感が正当化されるかもしれない。
   たとえ対外的な力が優勢なままであっても、国はその内なる美徳や他国にとっての魅力を失う可能性がある。 ローマ帝国は共和政形態を失った後も長く続いた。 ベンジャミン・フランクリンは、建国者たちが作り上げたアメリカ政府の形態について、「維持できれば共和制だ」と述べた。 アメリカの民主主義がより二極化して脆弱になっている限り、その発展こそがアメリカの衰退を引き起こす可能性がある。

   ナイ教授は、冒頭で、18世紀、建国の父たちは新しいアメリカ共和国をどのように維持するかを考える際にローマの歴史を研究した。 と書いている。
   トランプは、アメリカの建国の精神のみならず民主主さえ崩壊させようとしていると辛口の評論を続けているが、さらに、トランプの再登場だとすると、弱体化しつつあるアメリカが、更に衰退への道を加速するであろう、と言うのである。
   それも、アメリカの政治が修復不可能な状態にまで二極化に分断され、アメリカが営々と築き挙げてきた虎の子の文化文明の価値、そして、貴重なスマートパワーを葬り去ろうとするポピュリズムの波がアメリカを翻弄しているのであるから、 尚更である。
   中国との国力比較は、ナイ教授の持論で前にも紹介したが、いずれにしろ、まだ、一等国であり衰えてはいない、アメリカ人よ、自信を持て、と言いたいのであろう。
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