熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

マーティン・ファクラー著「世界が認めた「普通でない国」日本」

2017年05月12日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   本書の帯に、「憲法9条は「ジャパニーズドリーム」、天皇は「日本の良心」だ」と大書されているように、変な外人(?)の日本への提言書である。
   ブルームバーグ、AP、WSJの日本駐在員、その後、NYTの東京支局長を務めた敏腕ジャーナリストの興味深い日本論だが、ファクラーの考え方には突っ込まずに、本書における印象記を記してみたいと思う。
 
   ファクラーが、日本が普通でない国だと言うのは、憲法第9条を護り抜いて、1945年終戦以降、一度も戦争をしてこなかった大国であり、ODAなど平和外交を展開して相手国の経済援助を促すなど、日本の貢献とその存在を世界の国が認めていると言うことで、この平和日本を日本の世界の中のアイデンティティとして維持して普通でない国を目指すべきだと提言しているのである。
   日本人は、先の戦争についても、十分に総括せず、近隣諸国との歴史的認識においても収束していない現状だが、世界が大きく変わりつつ、日本も転換期を迎えていることさえ十分に認識しておらず、現下の様な世界情勢の中で日本がどうあるべきかと言う国民的議論が全く足りていないので、今こそ、日本人が挙って、真剣に、日本が如何にあるべきか、国民的な議論を起こして考察すべきである、と言う。
   日本製品のガラパゴス化を逆手に取って、多くの先進国と全く違う道を歩いてきたガラパゴス・日本が、貴重な存在として脚光を浴びてきたので、他国と違う、オンリーワン、脱・普通の国こそ、日本の進むべき道である、と説いている。

   この本で、2章に亘って、日本の経済や経営やイノベーションなどについて議論を展開しているのだが、東大経済学修士なので、多少辛口の論評ながら、殆ど違和感なく納得できる。
   イノベーションや起業に対して、「日本版シリコンバレーを作れ」は、止めた方が良いと言うのが面白い。
   日本の強みは、シリコンバレーのように突然何か大きなアイデアをバーンと世に出すアメリカ的な短期的爆発的な想像力(創造力)ではなく、職人あるいは達人がこだわって時間をかけて、すごくいいものを世に出すと言う長期的で地味な想像力(創造力)であるからである、と言うのである。
   この問題は、政治経済社会システムなど、国のかたちを変えない限り難しい論点だと思っている。

   素晴らしい日本文化と言う章での文化談義については、私自身よりも現在の雑日本文化論については、詳しくて斬新なので、興味深く読んだ。
   今や、IT技術はシリコンバレーで、スマホはアップルが圧倒的で、日本のイメージは、ハイテク技術でも家電製品でもなく、デザインと食べ物だと言って、世界で活躍する日本の建築家、美術家、音楽家などから説き起こし、江戸時代以前の文化を蔵から取り出し始めた日本を論じていて興味深い。
   食については、ラーメン好きの著者故か、値段によって味が天地程違う欧米と比べて、どこで食べてもほどほどに美味しい日本の強みはB級グルメだと言って、日本人シェフが世界で認められる時代となり、日本食のイメージは、一挙に、フレンチやイタリアン並になったと言う。

   この本で、結構、迫力があるのは、「劣化する日本の政治家」と言う章である。
   前述の、今こそ日本のあるべき姿を国民的議論にすべし、と言う観点からすれば、今の国会や東京都議会に関する報道を見ていれば、如何に、箸にも棒にも掛からないお粗末極まりない議論に終始して空転しているかを考えれば、ファクナーに言われなくても分かっている。
   それに引き換え、象徴天皇を、高く評価しているのが興味深い。

   もう一つ、平和日本を支えてきた船のバラストの役割を果たしているのは、戦争を経験してきた老人たちであり、どんどん消えていくので、今後どの方向へ行くのか分からないと言う論点も面白い。
   「絶対戦争をしてはならない」と言う哲学と価値観の喪失とでも言うのであろうか。

   また、日本の民主主義は、ヨーロッパのように市民が犠牲を払って勝ち取ったものではないので、民主主義の基本的な価値観が、国民には浸透していない。とも言う。
   万機公論に決すべしとしながらも、徹底的な国民的議論を完遂せずに政治や国家運営を行っていると言うのがファクラーの見解であろうか。

   しかし、真の民主主義国である筈のアメリカの現下の政治の異常さ迷走ぶりは、どう考えればよいのか。
   一宿一飯の恩義があるので、アメリカを批判したくないが、今回の異常なトランプ現象が巻き起こす激烈な反民主主義的な嵐を生むアメリカの民主主義の土壌が、果たして、健全と言えるのかどうか分からないのである。
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