熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

企業の持続的な生産性上昇こそ大切

2024年03月22日 | 政治・経済・社会
   今日の日経の経済教室に、祝迫得夫・一橋大学教授の
   「個人消費、低迷脱却の条件 企業の生産性上昇こそ本筋」と言う論文が掲載された。
   ポイントは、
   ○恒常的な所得増加でないと消費は増えず
   ○企業より個人・家計に対する安全網強化
   ○持続的な賃上げの鍵は企業の生産性上昇
   これに加えて、ゾンビ企業を駆逐する企業の新陳代謝の促進

   色々な日本経済についての理論が展開されているが、この論旨が一番自分の考え方に近いので、持論を加えながら考えてみたい。

   さて、株価が急上昇し、インフレの進行と同時に大幅の賃上げが発表されるなど、鳴かず飛ばずであった日本経済がデフレ脱却模様で、好循環が始動し始めたと、世論も色めきだしてきた。
   ”しかし景気回復がすべての経済主体に恩恵だけをもたらすわけではない。「失われた20年」の間にあったゼロインフレ下での緩やかな景気回復と異なり、現在の景気回復は明確なインフレと賃上げを伴っていて、経済全体の価格・賃金水準が上昇する中で、相対価格や相対賃金も大きく変化するだろう。企業ごとの競争力の差が値上げや賃上げの余力の違いという形で明確化する結果、競争力のない企業は市場からの退出を余儀なくされつつある。このままインフレと景気回復が継続し、金利がゼロを持続的に上回るような状況に至れば、金融面からも企業の選別が始まるはずだ。”という。
   コロナ禍の下、政府による救済策で生き延びていたゾンビ企業が救済策の終了とともに倒産している現状を踏まえれば、競争により振り落とされる企業をすべて救済しようとしていた民間企業全体にセーフティーネット(安全網)を用意することが経済政策として非効率なのは明らかである。と言うのである。

   重要なのはこの一点、私は、これまでに何度も繰り返して論じてきたが、
   日本の経済政策の問題は、競争を喚起して積極的な企業の参入・退出を図らずに、特に、競争力をなくしたゾンビ企業を温存させる愚をおかしたこと、
   企業の新陳代謝を促してイノベイティブな新規参入を促進できなかったことが、日本の生産性上昇率の低迷や国際競争力の低下の最大の原因になっていた。
   民間企業への過度なセーフティーネットやサポートを取り外せば、ゾンビを駆逐できる。
   
   ”企業に対するセーフティーネットを今までより限定的なものにして、その代わりに個人・家計に対するセーフティーネットを強化すべきだ。”という。
   新しい技能の獲得(リスキリング=学び直し)による労働者個人の人的資本への投資と生産性の上昇を通じた就業支援に重点を置くべきであり、
   健康寿命が延び退職年齢が次第に上昇して労働者が人的資本をアップデートすることが必要となり、また、生成AI(人工知能)や自動運転に代表される現在進行中の技術革新により、企業内での技術の向上・改善よりは、もっと汎用性の高い技術の獲得・導入の方が、労働者にとっても企業にとっても重要になっている。労働者にスキルの取得と人的資本への投資を促すような、社会的な制度設計が重要になり、個人を対象とした社会的セーフティーネットを充実させる方が理にかなっている。と言う、至極尤もである。

   ところで、この論文のタイトル「企業の生産性上昇こそ本筋」と言うことだが、
   個人消費を向上させ経済を活性化させるためには、個人・家計が持続的だと思えるような所得、すなわち恒常所得の上昇が必要である。
   政府の実施する一時的な所得減税や給付金による景気浮揚政策や少額を経済全体に均等にばらまくような財政支出等は、極めて限定的で効果は薄い。
   企業が恒常的所得の上昇を維持するためには、持続的に賃上げを実施することであり、そのためには、その前提となる企業の生産性の上昇を持続させる必要がある。
   したがって、政策面からは、一時的な財政出動による需要刺激策ではなく、労働者個人の人的資本への投資を促すなど企業部門全体の生産性上昇を促すような施策が求められる。と説く。

   この生産性の上昇であるが、
   日本の労働生産性は、先進国で最下位であり目も当てられない位低い。
   経済成長要因は、「全要素生産性の上昇、労働の増加、資本の増加」の3要素なので、日本の場合、人口増は少子高齢化でマイナス要因であり、投資も低迷しているので、経済成長のためには、全要素生産性の上昇アップ、すなわち、技術革新・規模の経済性・経営革新・労働能力の伸長・生産効率改善など幅広い分野の技術進歩が必須である。
   特に、少子高齢化で、移民を活用しない限り、労働人口減が急速に進み経済成長の足を引っ張るので、全要素生産性上昇率と資本装備率の上昇で労働生産性を上げて国際競争力を涵養して経済の質を向上させることが重要である。
   問題は、日本の潜在的経済成長力がどの位あるのかにもよるが、人口減をカバーするのがやっとだとすれば、今まで眠っていたゾンビ企業主体の日本企業が、起死回生して創造的破壊に邁進してイノベーションを起して、前述のような全要素生産性上昇を策するとは考えにくい。
   そうなれば、持続的に生産性が上がらないので、恒常的な所得のアップなどは期待出来なくなり、今年の春闘景気は一時的な現象に終って、岸田内閣の言う成長と所得の好循環など実現不可能となろう。
   人口減という十字架を背負った日本経済、
   持続的な企業の生産性アップによって分配原資を確保し続ける以外に生きる道はない。

   歴史は韻を踏むとか、ネオリベラリズムへの回帰とは言わないまでも、ケインズ政策を少し脇に置いて、サプライサイド経済学に目を向けても良い時期ではないかと思っている。
コメント
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