熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

映画:シェイクスピア「恋の骨折り損」

2024年01月27日 | 映画
   WOWOWで録画していた「恋の骨折り損」を見た。久しぶりのシェイクスピアである。
   「ローレンス・オリヴィエの再来」と言われる最高のシェイクスピア俳優ケネス・ブラナーの監督・主演の映画であるから面白くないはずがない。
   これまで、何本かブラナーの映画を観ており、このブログでも、「シェイクスピアの庭」、「オリエント急行殺人事件」、「ダンケルク」をレビューしている。
   ブラナーのシェイクスピアの舞台は、ロンドンのバービカン劇場で、RSCの「ハムレット」を1度観ただけだが、その後、監督主演した映画を観て感激したのを覚えている。
   随分、RSCに通いつめていたので、この「恋の骨折り損」も観ていたかも知れないが記憶はない。

   さて、この映画は、舞台が第二次世界大戦直前の1939年に設定されていて、連合軍勝利で沸きかえる群衆の歓喜で終ると言う現代版で、ブロードウェイ調のソングとダンスををちりばめた華麗なミュージカル映画になっていて、普段の劇場でのシェイクスイアの戯曲鑑賞とは違った雰囲気だが、台詞などストーリーはオリジナルを踏襲しているようである。
   ブラナー演じるビローンの流麗な長台詞のシェイクスピア節が限りなく美しく感動的である。それに、ブラナーは、歌も踊りも実に上手く、コミカルタッチの抑揚豊かな演技が秀逸である。
   
   ナヴァール王国の若き国王フェルディナンドは、学業に専念すべく決心して、親友のビローン、ロンガヴィル、デュメーンと3年間、女人禁制や1日3時間しか寝ないとかの誓いを立てる。しかし、そんな時に、フランスから美しい王女が父の代理として債務返済交渉に臨むべく、ロザライン、マライア、キャサリンという魅力的な女性3人を伴ってナヴァールにやって来る。女人拒否なので城外で接見するが、たちまち彼女たちの美しさに魅了された男性たちは、なんとか誓いを破らないよう、無駄な抵抗を試みるが、次第に恋の魔力に取り憑かれる。Love's Labour's Lostである。
   男女4人ずつの華麗なペアダンスや群舞が、特筆もので、エロチックな凝ったダンスも舞台展開の進行を暗示するなど面白い。
   
   ところが、お互いの恋が実り始めた矢先に、フランス王逝去の訃報が入る。
   女王たちは、喪に服するために、男たちに、回答を1年後に延期したまま、それぞれ条件を付けて帰国して行く。
   この戯曲は、他のシェイクスピア戯曲のように、結婚と言うハッピーエンドで終っていなければ、悲劇的結末でもない。
   しかし、ラストシーンで、勝利を喜び合うペアを活写しているところを観ると、ブラナーは、ハッピーエンドを意図したのであろう。

   この映画も以上のような単純な話ではなく、面白いサブストーリーが何本か並行していて、田舎者の恋の鞘当て、ラブレターの取り違い、女家庭教師と神父の幕間演技、仮面を付けた男女たちの対面、劇中劇「九人の英雄伝」などの舞台展開が面白い。
   田舎娘に当てた手紙と勘違いして読んで欲しいと渡されて、ビローンが、ロザラインに当てたラブレターの詩を、家庭教師のホロファーニーズが朗詠するシーンなど、実に美しく感動的で、また、学のない田舎者を、学者気取りの二人が、くすりと見下すあたりの呼吸も面白い。

   この戯曲は、ナヴァール王とフランス王女とそれぞれの側近たちの貴族の恋物語である。
   貴族生活に縁のないシェイクスピアなので、イタリアの文筆家カステリオーネの著書「宮廷人の書」の英訳本が参考になったようである。
   読書家のシェイクスピアは、片っ端から参考文献を読み漁って勉強に励み、曲想を練っていたのであろう。
コメント
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