熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ヌリエル・ルービニ「MEGATHREATS(メガスレット)」移民の是非について

2024年01月06日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   破滅は目前だ。平和と繁栄の好循環は終わった――世界経済を破滅させる10の巨大な脅威 が人類社会を窮地に追い込もうとしてる。
   2008年の世界金融危機を予見して「破滅博士」と揶揄されたルービニ教授が、更なる世界大混乱を警告する警世の書が本書である。

   興味深いのは、「人口の時限爆弾」の章で、移民問題に触れていて、まず、日本の経済成長の頓挫、今世紀大半にわたっての生産性の伸び悩みは、高齢化による潜在成長率への下押し圧力であり、労働人口が減れば、生産資本への新たな投資が減って、長い間には生産性の伸びが止まる。先進国で最も高齢化の進んでいる日本の減少は何の不思議もない。と説く。
   どうやって潜在成長率を押し上げるのか、解決策の一つは、若い移民を呼び込むことである。
   経済が堅調に成長し雇用が豊富にあると言う前提だが、給与を貰い社会補償税を支払う若年の労働者が増えれば、年金と医療費の財源に貢献することになり、また、消費者として需要を拡大させ、GDPを押し上げるので、現在および潜在的な債務負担の軽減にも繋がる。

   ルービニ自身も移民なので、アメリカの反移民感情の高まりに対して、門戸を閉ざすことに断固反対である。
   ダニ・ロドリックも、先進国は移民を積極的に受け入れるべきだと主張している。
   実際、移民と高い経済成長率の間には相関関係が認められる。スキルを持つ労働者は、経済成長著しい高賃金国を目指し、ヤル気のある移民は新しい事業を起し、利益率の高いハイテク産業では特に顕著である。移民は本国へ送金するので、出身国の経済の安定にも貢献するのみならず、移民の自由な往来が、世界のGDPの拡大にプラス効果をもたらしてきた。

   しかし、理屈はそうであっても、世界中で渦巻く強力な反移民運動の高まり。先進国の有権者に移民を支持するよう説得するのは至難の業である。
   高度なスキルを持っていない労働者(ブルーカラー労働者とサービス業従事者)の賃金の停滞が移民の流入で更に押し下げられ、職が奪われ、移民は、学校、住宅、医療などの公共サービスを圧迫し、馴染みのない文化圏から来て外国語を話し、社会に軋みを引き起こす。

   ところが、時代の潮流の変化は著しく、今や、現地労働者と移民労働者との仕事争奪戦は、過去のものとなりつつあり、競争相手は、アルゴリズムとなり、AIが、水も漏らさぬ現代の移民障壁になった。と言う。
   工場やオフィスでロボットが人間に置き換わり、高度な資格を持つ人まで仕事を奪われるようになるにつれ、スキルを持つ移民さえ職に就けなくなる。減る一方の仕事を奪い合う事態になって、移民は歓迎されなくなる。先進国の企業は、高齢化による労働人口の減少への対策として、ロボットとAIに頼るようになっている。
   平均的な労働者の年齢が、先進国の中で最も高い日本では、高齢化に対する答えは、移民ではない。日本の雇用主は、ロボットの導入と自動化を進めている。他国も早晩同じ道を選び、人間の代わりにアルゴリズムに仕事をさせるようになる。こうして、技術的失業が増えるにつれて、社会は移民に対する反感を一段と募らせて行く。現にバイデン政権の移民政策も、中南米からの政治的・経済的・気候難民の大量流入に直面した結果、結局は、移民排斥論者だったトランプ政権の政策と射して変らなくなった。

   しかし、世界情勢は、気候変動の激化、失敗国家の増加、身体的安全の不安、開発の停滞、貧困の急増などが進むにつれて、貧しい国から豊かな国への移民流れは、今後数年間でどっと勢いを増すと考えられる。そうなれば、日本のみならず、アメリカもヨーロッパも門戸を閉ざさざるを得なくなる。どうするのか。

   さて、以上がルービニ教授の指摘だが、注目すべき視点は、仕事争奪戦が、先進国労働者と移民労働者との闘いではなく、現地労働者とアルゴリズムとの闘いとなって、殆ど仕事が、アルゴリズム、すなわち、ロボットとAIに取って代わられる。その結果、多くの失業者を排出するので、移民排斥、人々の自由移動をストップせざるを得なくなると言うことである。当然、トランプのラストベルト労働者への救済根拠が吹っ飛んでしまい、ロボットとAIとの闘いとなる。
   アメリカの移民政策で唯一残った選択肢は、世界的頭脳の糾合、すなわち、高度な技能知識を備えて起業意欲の強いイノベーターの導入のみとなって、その他の移民は、国民生活を圧迫するだけなので、ブロックすべきと言うことであろうか。

   日本でのアルゴリズムへの転換が、どの程度進行しているのか私には分からないが、ルービニ説が正しければ、早晩、日本政府の移民政策が時代に即応できなくなり、職業構造の根本的変化に直面して、成長戦略に破綻を来すような気がしている。
   しかし、今の日本の雇用状態を見ている限り、アメリカ市場で排斥されている高度なスキルを持っていない労働者(ブルーカラー労働者とサービス業従事者)については、外国人の活用は必須であろう。工事現場を見れば労働者の多くは外国人であり、先日宿泊したホテルのメイドなどかなりはアジア系の女性であったし、地方の農場や中小工場では外国人労働者が多い。

   ところで、アメリカで言及したハイクラスの高度な技能知識を備えた世界の頭脳と言うべき起業意欲の強いイノベーターの導入については、日本政府も期待しているが、日本の雇用システムや経済社会体制が対応できるのか国際競争力から言っても問題がありそうである。日本のソフトパワー対応の分野なら可能かも知れないが、マッチングが難しい。
   いずれにしろ、この失われた30年のように、世界規模、グローバルベースで時代の潮流に乗り遅れてしまうと、益々後れを取る。

   いつも思う。日本の政治経済社会をリードしていると思っている政治家や経営者が、このルービニの本レベルの本を、どれだけ読んでいるのか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする