ジェフリー・サックス教授(Jeffrey D. Sachs)は、昨日、Project Synjicateに :「ステーツマンシップとギリシャ危機 Statesmanship and the Greek Crisis」を掲載した。
サックスは、3日前にも「ギリシャの離脱、A Way Out for Greece」を書いていて、IMFが、過酷な債務をいくらか減免しなければ、ギリシャの経済回復の維持など殆ど絶望的である(Without some reduction in the country’s staggering debt load, Greece has little hope of a sustained economic recovery.)と認めたと言うNYTの記事を引用して、ドイツは、ギリシャの債務を減免して、ギリシャはユーロから離脱すべきではないと言う提言を行っている。
勿論、今回の国民投票では、Noである。
さて、今回の論文では、ギリシャの危機を回避するためには、ドイツもギリシャも、ステーツマンシップを発揮して、解決する以外には道はないと説いている。
問題のステーツマンシップ(statesmanship)だが、「ブリタニカ」によると、
私利私欲にとらわれず,国家の十数年後の目標を考え,強い責任感・倫理感で行動する政治家精神のこと。単なる短期的な政治的目標を達成しようとする政治屋 politicianと区別して,政治家 statesmanと呼ぶが,その心のもち方をステーツマンシップと呼ぶ。 と言うことである。
国家債務の減免は、史上、何百、恐らく、何千回もあり、ドイツさえも受けている。
第1次世界大戦後に、ドイツは財政に困窮を極めたが、世界の債権者が顔を背けて資金繰りが上手く行かなかった故に、ヒットラーの登場を許してしまった。
しかし、第2次世界大戦後は、膨大な国家債務を抱えていたドイツが、アメリカ政府の寛大な措置によって、1953年に債務を減免されていて、経済復興に大いに役立ったのを、ドイツは忘れてしまっていて、この歴史の教訓を学んでさえいないと、サックスは指摘している。
ピケティも、別なところで、偉そうなことを言っているドイツもフランスも、第2次世界大戦後の国家債務を返済していないと暴露している。
ドイツのヴォルフガング・ショイブレ財務相は、公然と、ギリシャはユーロから離脱すべきだと画策しているようだが、経済不如意で困窮したメンバーを追放すれば良いと言うような簡単な問題ではなく、見方によっては、大恐慌、そして、第二次世界大戦以降の大危機の筈である。
スティグリッツは、”米CNBCに対し、ユーロが解体する可能性が生まれるとしたら、ギリシャよりドイツがユーロから離脱すべきだ”と語ったと報じられている。
今のような状態が続けば、EUの支援がなくなって梯子を外されれてしまえば、当然、ギリシャはデフォルトになって、IOUなり、新ドラクマを創出せざるを得なくなろう。
破産なので、借金は棒引きになるのかも知れないが、どん底からの経済再生であるから、想像を絶する苦難に直面する。
唯一の救いは、手足を呪縛されていた外為を、自由に操作して、自国経済を自力で立て直し得る可能性があると言うことであろうか。
最も望ましい解決策は、ギリシャの国家債務が、ギリシャ経済の立ち直りのために本当に必要な程度にまで、減額なり利子の低減なり期限の延長なりして減免措置に、両者が同意して、ギリシャがユーロ圏に存続すると言うことであろうか。
何故、ここまでEUやECBやIMFは、ギリシャを窮地に追い詰めてしまったのか、今回両者間に合意が成立して救済策が実施されても、恐らく不十分で、ギリシャの経済危機は継続し続けて、また、同じ問題を起こすと思われる。
幸いにも、ギリシャにとって最もサステイナブルな解決が図られたとしても、組織体制不備で欠陥だらけのズタズタになったユーロシステムを如何に修復して行くのか、ギリシャの経済が本当に復興するのか、難問山積であって、予断を許さないであろう。
どう、足掻いて見ても、徹底的に経済的に窮地に落ち込んでしまったギリシャの再生は、超法規による倫理的な見地からの救済以外に方法はなくなってしまっている。
第2次世界大戦の瓦礫の中から、ヨーロッパは、ステーツマンシップの精神の発露によって立ち上がって来た。
今や、常態になってしまった銀行家や政治家の虚栄心、腐敗、シニシズムによって、崩壊の縁に立たされてしまっている。
今こそ、ヨーロッパおよび世界の、今日および未来の世代の為に、ステーツマンシップを甦らせる時である。
と、サックスは、結論付けている。
( Europe rose from the rubble of World War II because of the vision of statesmen; now it has been brought to the verge of collapse by the everyday vanities, corruption, and cynicism of bankers and politicians. It is time for statesmanship to return – for the sake of current and future generations in Europe and the world. )
ところで、前述のIMFが、ギリシャ債務の減免措置の必要性を認めたと言う報道が、ギリシャの国民投票の前になされたと言うことは、IMFは、債権者側のトロイカの一員ではあるが、EU債権者への暗黙の圧力ではなかったかと言う気がしている。
しかし、昨日のメルケルとオランドの会談では、ギリシャからの「明確な提案」が必要だと更に強気に出ており、ECBも、ギリシャが求めていた資金供給の上限引き上げには応じないことを決めたと言うことであるから、ギリシャをデフォルトに追い込むつもりなのであろう。
ドイツのショイブレ財務相は、ギリシャのユーロ圏での比重は1.8%なので、ギリシャのユーロからの退出は、大した影響はないと考えて退出を迫っているようだが、逆に考えれば、弱いギリシャなどの南欧諸国を食い物にして富を蓄積してきたドイツにとっては、僅かな資金を投入してギリシャを救済するくらいは、東ドイツ統合時の苦労から考えれば、簡単な筈ではなかろうか。
先日、エマニュエル・トッドの”「ドイツ帝国」が世界を破壊させる”の書評で、ドイツ帝国の台頭の危険を論じたが、ドイツが、今回のギリシャ救済の手順を間違えば、ユーロのみならず、EUの崩壊の導火線に火をつけることになるかも知れない。
私は、ギリシャのデフォルトなり、経済の崩壊が、アルゼンチンなどのケースとは違って、EU域内の国であり、ユーロゾーンの国であることを考えれば、如何に深刻で重要な問題かを、ドイツが、理解していないのだと思っている。
私が最も恐れるのは、地政学的リスクである。
元々、加入要件を満たしていないと周知のギリシャをEU加入に導いたのは、民主主義の発祥地のみならず、地中海の要所を占めており、地政学的に、極めて重要な位置にあることがポイントであったが、今後のギリシャの帰趨によっては、バランス・オブ・パワーが大きく崩れるであろうことである。
この5年間のトロイカの締め付けによる経済悪化で、政治経済社会情勢が凋落の一途を辿って、ギリシャ国民は、今や、塗炭の苦しみに喘いでいる。
窮鼠猫を噛む状態に追いやられたギリシャは、救世主が、ロシアであろうと中国であろうとかまわないであろうし、まかり間違えば、イスラム国の格好のターゲットにさえなり得る。
パワー・ポリティックスの主戦場と化してしまったギリシャ、
超大国アメリカの凋落が悲しくなるのも、人類の最高の遺産ギリシャゆえである。
サックスは、3日前にも「ギリシャの離脱、A Way Out for Greece」を書いていて、IMFが、過酷な債務をいくらか減免しなければ、ギリシャの経済回復の維持など殆ど絶望的である(Without some reduction in the country’s staggering debt load, Greece has little hope of a sustained economic recovery.)と認めたと言うNYTの記事を引用して、ドイツは、ギリシャの債務を減免して、ギリシャはユーロから離脱すべきではないと言う提言を行っている。
勿論、今回の国民投票では、Noである。
さて、今回の論文では、ギリシャの危機を回避するためには、ドイツもギリシャも、ステーツマンシップを発揮して、解決する以外には道はないと説いている。
問題のステーツマンシップ(statesmanship)だが、「ブリタニカ」によると、
私利私欲にとらわれず,国家の十数年後の目標を考え,強い責任感・倫理感で行動する政治家精神のこと。単なる短期的な政治的目標を達成しようとする政治屋 politicianと区別して,政治家 statesmanと呼ぶが,その心のもち方をステーツマンシップと呼ぶ。 と言うことである。
国家債務の減免は、史上、何百、恐らく、何千回もあり、ドイツさえも受けている。
第1次世界大戦後に、ドイツは財政に困窮を極めたが、世界の債権者が顔を背けて資金繰りが上手く行かなかった故に、ヒットラーの登場を許してしまった。
しかし、第2次世界大戦後は、膨大な国家債務を抱えていたドイツが、アメリカ政府の寛大な措置によって、1953年に債務を減免されていて、経済復興に大いに役立ったのを、ドイツは忘れてしまっていて、この歴史の教訓を学んでさえいないと、サックスは指摘している。
ピケティも、別なところで、偉そうなことを言っているドイツもフランスも、第2次世界大戦後の国家債務を返済していないと暴露している。
ドイツのヴォルフガング・ショイブレ財務相は、公然と、ギリシャはユーロから離脱すべきだと画策しているようだが、経済不如意で困窮したメンバーを追放すれば良いと言うような簡単な問題ではなく、見方によっては、大恐慌、そして、第二次世界大戦以降の大危機の筈である。
スティグリッツは、”米CNBCに対し、ユーロが解体する可能性が生まれるとしたら、ギリシャよりドイツがユーロから離脱すべきだ”と語ったと報じられている。
今のような状態が続けば、EUの支援がなくなって梯子を外されれてしまえば、当然、ギリシャはデフォルトになって、IOUなり、新ドラクマを創出せざるを得なくなろう。
破産なので、借金は棒引きになるのかも知れないが、どん底からの経済再生であるから、想像を絶する苦難に直面する。
唯一の救いは、手足を呪縛されていた外為を、自由に操作して、自国経済を自力で立て直し得る可能性があると言うことであろうか。
最も望ましい解決策は、ギリシャの国家債務が、ギリシャ経済の立ち直りのために本当に必要な程度にまで、減額なり利子の低減なり期限の延長なりして減免措置に、両者が同意して、ギリシャがユーロ圏に存続すると言うことであろうか。
何故、ここまでEUやECBやIMFは、ギリシャを窮地に追い詰めてしまったのか、今回両者間に合意が成立して救済策が実施されても、恐らく不十分で、ギリシャの経済危機は継続し続けて、また、同じ問題を起こすと思われる。
幸いにも、ギリシャにとって最もサステイナブルな解決が図られたとしても、組織体制不備で欠陥だらけのズタズタになったユーロシステムを如何に修復して行くのか、ギリシャの経済が本当に復興するのか、難問山積であって、予断を許さないであろう。
どう、足掻いて見ても、徹底的に経済的に窮地に落ち込んでしまったギリシャの再生は、超法規による倫理的な見地からの救済以外に方法はなくなってしまっている。
第2次世界大戦の瓦礫の中から、ヨーロッパは、ステーツマンシップの精神の発露によって立ち上がって来た。
今や、常態になってしまった銀行家や政治家の虚栄心、腐敗、シニシズムによって、崩壊の縁に立たされてしまっている。
今こそ、ヨーロッパおよび世界の、今日および未来の世代の為に、ステーツマンシップを甦らせる時である。
と、サックスは、結論付けている。
( Europe rose from the rubble of World War II because of the vision of statesmen; now it has been brought to the verge of collapse by the everyday vanities, corruption, and cynicism of bankers and politicians. It is time for statesmanship to return – for the sake of current and future generations in Europe and the world. )
ところで、前述のIMFが、ギリシャ債務の減免措置の必要性を認めたと言う報道が、ギリシャの国民投票の前になされたと言うことは、IMFは、債権者側のトロイカの一員ではあるが、EU債権者への暗黙の圧力ではなかったかと言う気がしている。
しかし、昨日のメルケルとオランドの会談では、ギリシャからの「明確な提案」が必要だと更に強気に出ており、ECBも、ギリシャが求めていた資金供給の上限引き上げには応じないことを決めたと言うことであるから、ギリシャをデフォルトに追い込むつもりなのであろう。
ドイツのショイブレ財務相は、ギリシャのユーロ圏での比重は1.8%なので、ギリシャのユーロからの退出は、大した影響はないと考えて退出を迫っているようだが、逆に考えれば、弱いギリシャなどの南欧諸国を食い物にして富を蓄積してきたドイツにとっては、僅かな資金を投入してギリシャを救済するくらいは、東ドイツ統合時の苦労から考えれば、簡単な筈ではなかろうか。
先日、エマニュエル・トッドの”「ドイツ帝国」が世界を破壊させる”の書評で、ドイツ帝国の台頭の危険を論じたが、ドイツが、今回のギリシャ救済の手順を間違えば、ユーロのみならず、EUの崩壊の導火線に火をつけることになるかも知れない。
私は、ギリシャのデフォルトなり、経済の崩壊が、アルゼンチンなどのケースとは違って、EU域内の国であり、ユーロゾーンの国であることを考えれば、如何に深刻で重要な問題かを、ドイツが、理解していないのだと思っている。
私が最も恐れるのは、地政学的リスクである。
元々、加入要件を満たしていないと周知のギリシャをEU加入に導いたのは、民主主義の発祥地のみならず、地中海の要所を占めており、地政学的に、極めて重要な位置にあることがポイントであったが、今後のギリシャの帰趨によっては、バランス・オブ・パワーが大きく崩れるであろうことである。
この5年間のトロイカの締め付けによる経済悪化で、政治経済社会情勢が凋落の一途を辿って、ギリシャ国民は、今や、塗炭の苦しみに喘いでいる。
窮鼠猫を噛む状態に追いやられたギリシャは、救世主が、ロシアであろうと中国であろうとかまわないであろうし、まかり間違えば、イスラム国の格好のターゲットにさえなり得る。
パワー・ポリティックスの主戦場と化してしまったギリシャ、
超大国アメリカの凋落が悲しくなるのも、人類の最高の遺産ギリシャゆえである。