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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

榊原英資著「「通貨」で読み解く世界同時恐慌」(1)

2012年06月29日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   非常に時宜を得た興味深い本で、参考になるのだが、前から、榊原説で疑問に思っていた「国債発行にまだ余力がある」と言った形で復興目的の国債などに甘いのが何故か、と言う疑問に対して、この本で、
   「国の借金1000兆円の日本がギリシャになる可能性はあるか」「家計の資産が大きい日本は、まだ金持ち国家である」とサブタイトルを付けたところで、論じているので、今回は、この点だけに限って論じてみたい。

   榊原説の結論から先に言うと、
   「日本は負債が大きい代わりに、資産がけた違いに大きい。」
   日銀の資産循環統計の「部門別の金融資産・負債残高」の数字を引用して、資産から負債を差し引いた数字が280兆円あるとして、「まだ資産のほうが負債より大きい。」
   「日本にソブリン・リスクが皆無とは、勿論言えないが、そのリスクは小さく、今のところソブリン危機に陥る恐れはない。」と言う。

   
   ところで、日本の国債の格付け評価で、この日銀の「部門別の金融資産・負債残高」のような数字を参考にするのかどうか、専門的なことは分からないので、素朴な疑問なのだが、どう考えても、「まだ、資産の方が多い」などとは、単純に言えないのである。
   榊原氏が引用した表は、「国内非金融部門」の負債と資産(夫々、家計、民間非金融法人、一般政府の合計)で、榊原氏が余裕があるとして示した差額の数字は、裏返せば、「海外」の負債(本邦対外債権)から資産(本邦対外債務)を引いた差額の280兆円で、バランス・シートであるから、当然、「国内非金融部門」と「海外」を合算すれば、資産と負債はバランスする。
   海外部門の対外債権の超過分が、日本の余力だと言うことには疑問はないが、このあたりから、日本の国債の大半は、日本人が所有しているから安心だと言う理論が出てくるのであろうか。
   しかし、この表に示されているのは、政府の膨大な負債を家計が支えていると言う構図で、政府が徳政令を敷く意図なら別だが、日本国と家計とは、全く別個の当体であって、利害が異なるので、差し引きして数字合わせが出来るものでは決してないし、一たび経済が危機的な状態に陥れば、完全に相反する動きをする筈であり、また、国内非金融部門もそうである。
   したがって、この表の国内の資産マイナス負債の数字がプラスであると言うことは、対外債権がプラスであると言うことを示すだけであって、謂わば、他者の金をあてにしている訳であるから、国債発行余力があるなどとは、軽々には言えない筈である。

   ところで、企業の格付けが、企業のバランス・シートで判断されることを考えれば、日本の国債の格付けなり、ソブリン・リスクの評価は、当然、同じように、日本国の「貸 借 対 照 表」を基にして考えるべきではなかろうかと思う。
   幸い、財務省から、「国の貸借対照表」の試案が平成12年に出ており、平成14年度版が作成されているのだが、
   それによると、資 産 合 計 765.31兆円、負債合計992.71兆円、そして、資産・負債差額△227.40兆円となっていて、日本国が、巨大な負債残高を抱えた債務超過状態であることが、如実に示されている。
   このことを考えれば、日本国は、既に、膨大な債務超過であり、普通の会社なら、とっくに、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況として特記事項が記される筈で、榊原先生のように、まだまだ、日本は、負債より資産の方が多いから、国債発行余力があるなどと悠長なことを言っておれないと思うのであるが、どうであろうか。








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