新興国市場(エマージング・マーケット)と言えば、以前は開発途上国であったが、BRIC'sのように近年経済成長の著しい国々の市場だと考えられているのだが、著者たちの新興国市場の定義は、”買い手と売り手を、容易に、あるいは、効率的に引き合わせて取引させる環境が整っていない国々の市場のことで、理想としては、どの経済でも、市場の機能を支える各種制度が整っていることが望ましいのだが、発展途上国の場合、多くの面で、それが不十分なのである。”とする。
制度が整わない領域、すなわち、「制度のすきま(institutional void)」が、市場をエマージング(発展途上)の状態にして、これらが取引コストを高くしたり、業務が様々な障害に阻まれる原因となるのだが、新興国には、必ずこの制度のすきまがあり、夫々の国には固有の歴史、政治、法律、経済、文化的要因が市場を形成しており、新興国毎に、具体的なすきまの種類や組み合わせや深刻度が市場によって異なるので、その市場の攻略のためには、この制度のすきまに対処するために、如何に、適切な進出戦略を打ち立てるべきかが、多国籍企業や進出企業にとって最も重要な経営戦略だと説くのである。
この新興国市場のもつ特異性は、その経済圏におけるビジネスチャンスと課題を形成しているので、進出しようとする市場が、
どの市場制度が機能し、どの制度が欠如しているのか、
自分のビジネス・モデルで、その国の「制度のすきま」によって不利になるのはどの部分か、
既存の能力を土台に、如何に競争優位を構築し、「制度のすきま」を切り抜けるか、
「すきま」を埋める機会を特定し、「市場仲介者」の役割を果たすことによって、如何に市場の現状の構造を有利に活用できるか、
と言った戦略立案に役立つフレームワークを示して戦略を提言している。
更に、新興国市場で「制度のすきま」に対処しようとすれば直面する戦略的岐路についても、
自社ビジネス・モデルの再現か適応か、
独力で競争するか、協働か、
市場環境を受容するか、改革を試みるか、
参入するか、待つか、撤退するか、
先進国の多国籍企業のみならず、新興国で成功してグローバル企業になった「エマージング・ジャイアント」などの成功ケースを引きながら、その戦略を克明に詳述していて、興味深い。
新興国市場の発展のために、まず、真っ先に解決すべきは、交通手段やライフラインなど物理的インフラの整備が急務であることだが、「制度のすきま」で最も深刻なのは、売り買い等スムーズな取引を実現するために、先進国市場には、法制度や経済社会システムが有効に働くように様々な専門分野を担う仲介業者が存在し、市場の失敗要因を最小限に抑えるべく市場インフラとして機能しているのだが、新興国には、このような有効な仲介者、制度的インフラが欠如、ないし、不十分であることである。
また、新興国の資本市場、製品市場、労働市場の形成に大きな影響を及ぼしている「制度のすきま」は、市場情報の欠如・情報を信頼できない、不明確な規制環境、非効率的な司法制度の3大要因で、企業が、この三つの機能を自ら果たさなければ事業にならない。
しかし、逆に、この「すきま」が、競争優位獲得の切っ掛けになるので、それを埋める事業の構築を目指す起業家精神を持った国内外の企業にとっては、それは大きな機会となり、新興国市場で成功を収めている内外企業の大半は、これによりチャンスを得て来たのだと言う。
著者たちは、新興国市場とは、この売り買いをスムーズにする市場システムを模索することによって、今正に台頭しようとしつつある市場であるから、「制度のすきま」が大量に存在する極めて機能不全な市場と、高度に発展した市場は、別ものではなくて同じ延長線上に存在しており、先進国でも多くの「制度のすきま」が存在し、サブプライム問題は、その最たるものだと言う。
従って、この「制度的なすきま」の解消には、相当な時間と専門的知識を要するので、この短・中期的に「制度のすきま」が存在することこそが、新興国市場の最も大きな有望性であり、企業もリスク回避策ばかりに捕われた消極的なグローバル戦略ではなく、新興国市場を正当に評価して、「制度のすきま」を特定して、十分なビジネス分析や機会評価、戦略的判断を下して「制度のすきま」を攻略すべく、成長著しい市場に打って出ることが肝要で、ひいては、その成功が、本業にとっても大いに役立つのだと説いている。
この本の副題が、新興市場で勝つ(Winning in Emerging Markets)なのだが、非常に興味深いのが、後半の大部を割いて、新興国で成功を収めた新興国オリジンの「エマージング・ジャイアント」、例えば、中国のハイアールやインドのタタ・モーターズ、メキシコのセメックスと言ったグローバル企業の成功戦略についても詳述しており、同類のアジア、アフリカと言った新興国への進出については、「制度のすきま」攻略の展開だが、アメリカなどの先進国へは、クリステンセンのローエンド・イノベーション戦略との接点などが見え隠れしていて興味深い。
結局、「制度のすきま」とは、ニッチと言われる市場のすきまを、もっと広義に政治経済社会システム全体をターゲットにして展開した議論であって、そのニッチを埋めることこそが、ビジネス・チャンスの創造であり、ブルー・オーシャン市場へ打って出る絶好の道だと言うことであろう。
このことは、エジソンが、ニューヨーク全域に電燈を点すために、発電から送電など必要なものすべてをシステムとして開発し、イーストマン・コダックが、フィルムだけではなく、写真機からDPEなど周辺ビジネスを総て開発して近代写真システムを構築した様に、企業に、もっともっと広義の「制度的なすきま」をシステマチックにブレイクスルーするシステム・イノベーションを追及せよと言う教訓として捉えることが出来るであろう。
ここでは、新興国市場における有効な成功戦略について論じられているのだが、新興国であればある程、「制度のすきま」が多く存在していて、それだけビジネス・チャンスが多いと言うことであるが、先進国でも十分に有効な経営戦略となり得る筈である。
言うならば、広い意味でのソーシャル・イノベーションの追及であり、ビジネス環境を、もっともっと広い視野で捉えて経営戦略を打てと言うことであり、新しい戦略論の展開として、非常に、興味深く読ませて貰った。
もう一つ重要なポイントは、新興国市場は、大きく成長し、既に、イノベーションの実験フィールドとなっており、この市場で生まれたアイデアやビジネスモデルが、先進国市場に逆上陸して、グローバル・スタンダードの一環を形成しつつあると言うことである。
この点については、これまでに、このブログでも、プラハラードのネクスト・マーケットであるBOP市場や、ゴビンダラジャンとGEのリバース・イノベーションについて論じて来たので、蛇足は避けるが、大切なことは、ICT革命とグローバリゼーションの進展による革命的な潮流の変化によって、企業を取り巻くグローバルな経営環境が完全に変ってしまったと言う認識を持つことで、旧態依然たる経営戦略の構築では、最早、グローバル・ビジネスは御し得ないと言うことである。
制度が整わない領域、すなわち、「制度のすきま(institutional void)」が、市場をエマージング(発展途上)の状態にして、これらが取引コストを高くしたり、業務が様々な障害に阻まれる原因となるのだが、新興国には、必ずこの制度のすきまがあり、夫々の国には固有の歴史、政治、法律、経済、文化的要因が市場を形成しており、新興国毎に、具体的なすきまの種類や組み合わせや深刻度が市場によって異なるので、その市場の攻略のためには、この制度のすきまに対処するために、如何に、適切な進出戦略を打ち立てるべきかが、多国籍企業や進出企業にとって最も重要な経営戦略だと説くのである。
この新興国市場のもつ特異性は、その経済圏におけるビジネスチャンスと課題を形成しているので、進出しようとする市場が、
どの市場制度が機能し、どの制度が欠如しているのか、
自分のビジネス・モデルで、その国の「制度のすきま」によって不利になるのはどの部分か、
既存の能力を土台に、如何に競争優位を構築し、「制度のすきま」を切り抜けるか、
「すきま」を埋める機会を特定し、「市場仲介者」の役割を果たすことによって、如何に市場の現状の構造を有利に活用できるか、
と言った戦略立案に役立つフレームワークを示して戦略を提言している。
更に、新興国市場で「制度のすきま」に対処しようとすれば直面する戦略的岐路についても、
自社ビジネス・モデルの再現か適応か、
独力で競争するか、協働か、
市場環境を受容するか、改革を試みるか、
参入するか、待つか、撤退するか、
先進国の多国籍企業のみならず、新興国で成功してグローバル企業になった「エマージング・ジャイアント」などの成功ケースを引きながら、その戦略を克明に詳述していて、興味深い。
新興国市場の発展のために、まず、真っ先に解決すべきは、交通手段やライフラインなど物理的インフラの整備が急務であることだが、「制度のすきま」で最も深刻なのは、売り買い等スムーズな取引を実現するために、先進国市場には、法制度や経済社会システムが有効に働くように様々な専門分野を担う仲介業者が存在し、市場の失敗要因を最小限に抑えるべく市場インフラとして機能しているのだが、新興国には、このような有効な仲介者、制度的インフラが欠如、ないし、不十分であることである。
また、新興国の資本市場、製品市場、労働市場の形成に大きな影響を及ぼしている「制度のすきま」は、市場情報の欠如・情報を信頼できない、不明確な規制環境、非効率的な司法制度の3大要因で、企業が、この三つの機能を自ら果たさなければ事業にならない。
しかし、逆に、この「すきま」が、競争優位獲得の切っ掛けになるので、それを埋める事業の構築を目指す起業家精神を持った国内外の企業にとっては、それは大きな機会となり、新興国市場で成功を収めている内外企業の大半は、これによりチャンスを得て来たのだと言う。
著者たちは、新興国市場とは、この売り買いをスムーズにする市場システムを模索することによって、今正に台頭しようとしつつある市場であるから、「制度のすきま」が大量に存在する極めて機能不全な市場と、高度に発展した市場は、別ものではなくて同じ延長線上に存在しており、先進国でも多くの「制度のすきま」が存在し、サブプライム問題は、その最たるものだと言う。
従って、この「制度的なすきま」の解消には、相当な時間と専門的知識を要するので、この短・中期的に「制度のすきま」が存在することこそが、新興国市場の最も大きな有望性であり、企業もリスク回避策ばかりに捕われた消極的なグローバル戦略ではなく、新興国市場を正当に評価して、「制度のすきま」を特定して、十分なビジネス分析や機会評価、戦略的判断を下して「制度のすきま」を攻略すべく、成長著しい市場に打って出ることが肝要で、ひいては、その成功が、本業にとっても大いに役立つのだと説いている。
この本の副題が、新興市場で勝つ(Winning in Emerging Markets)なのだが、非常に興味深いのが、後半の大部を割いて、新興国で成功を収めた新興国オリジンの「エマージング・ジャイアント」、例えば、中国のハイアールやインドのタタ・モーターズ、メキシコのセメックスと言ったグローバル企業の成功戦略についても詳述しており、同類のアジア、アフリカと言った新興国への進出については、「制度のすきま」攻略の展開だが、アメリカなどの先進国へは、クリステンセンのローエンド・イノベーション戦略との接点などが見え隠れしていて興味深い。
結局、「制度のすきま」とは、ニッチと言われる市場のすきまを、もっと広義に政治経済社会システム全体をターゲットにして展開した議論であって、そのニッチを埋めることこそが、ビジネス・チャンスの創造であり、ブルー・オーシャン市場へ打って出る絶好の道だと言うことであろう。
このことは、エジソンが、ニューヨーク全域に電燈を点すために、発電から送電など必要なものすべてをシステムとして開発し、イーストマン・コダックが、フィルムだけではなく、写真機からDPEなど周辺ビジネスを総て開発して近代写真システムを構築した様に、企業に、もっともっと広義の「制度的なすきま」をシステマチックにブレイクスルーするシステム・イノベーションを追及せよと言う教訓として捉えることが出来るであろう。
ここでは、新興国市場における有効な成功戦略について論じられているのだが、新興国であればある程、「制度のすきま」が多く存在していて、それだけビジネス・チャンスが多いと言うことであるが、先進国でも十分に有効な経営戦略となり得る筈である。
言うならば、広い意味でのソーシャル・イノベーションの追及であり、ビジネス環境を、もっともっと広い視野で捉えて経営戦略を打てと言うことであり、新しい戦略論の展開として、非常に、興味深く読ませて貰った。
もう一つ重要なポイントは、新興国市場は、大きく成長し、既に、イノベーションの実験フィールドとなっており、この市場で生まれたアイデアやビジネスモデルが、先進国市場に逆上陸して、グローバル・スタンダードの一環を形成しつつあると言うことである。
この点については、これまでに、このブログでも、プラハラードのネクスト・マーケットであるBOP市場や、ゴビンダラジャンとGEのリバース・イノベーションについて論じて来たので、蛇足は避けるが、大切なことは、ICT革命とグローバリゼーションの進展による革命的な潮流の変化によって、企業を取り巻くグローバルな経営環境が完全に変ってしまったと言う認識を持つことで、旧態依然たる経営戦略の構築では、最早、グローバル・ビジネスは御し得ないと言うことである。