
フィラデルフィアに居た頃、ユダヤ人の友が、過ぎ越しの祭りの日に、一族郎党が集い祝う儀式に招待してくれた。一族の長老が長方形の大きなテーブルの頂点に座を占め、左右に一列に男性だけが座りユダヤの経典を輪読するのである。中高生の未成年の男子も加わって居たが、なぜ、異教徒の私が、ユダヤの小さな帽子を被り一族の一員としてその大切な儀式に参加できたのか、未だに分からない。
私の興味を引いたのは、友人の私室に入って見た克明に描かれた家系図ツリー。何の変哲もない大きな楠木を描いたとしか思えない絵が、近づいて見ると、ビッシリと名前が書き込まれている。
ジェイコブス・メンデルスゾーン、友人の名前であるが、枝の先の「ジェイ」と言う小さな名前を指して、自分だと言う。
彼は、絵の上に弧を描きながら、これは英国、ここはブラジル、こっちはソ連、ここはイスラエル、等と言いながら全世界に散って生活している一族の分布を説明してくれた。
途中、絵の真ん中で、束になって歪に消えている部分があったが、ジェイは、悲しそうな顔をして、ここがドイツ、ナチスにやられたんだ、と言った。
世界の多くのユダヤ人が、国籍など全く関係なく、自分達だけの小宇宙を形成している。ユダヤ人の故国はイスラエルかも知れないが、自分の国籍以外に、国籍・国境を越えて、ユダヤ人と言う途轍もなく結束力の堅い大きな拠り所「宗教の国」を持て居る。
もう一つ、ユダヤ人で強烈な経験をしたのは、フィラデルフィアでムラビンスキー指揮レニングラード・フィルの演奏会。
あの当時、ソ連政府が、自国のユダヤ人にイスラエルへの移住許可を中々与えなかった。これに抗議して、入り口でデモを行い、会場の座席を抑えて、会場の片側半分を完全に空席にした異常な演奏会が行われた。
あのカラヤンでさえ、ユダヤ興行界の反対に遭い、長い間米国で公演できなかった。
しかし、故国がなかった故に頑張り通し、ノーベル賞受賞者の大半はユダヤ人、素晴らしい音楽を演奏する大音楽家の大半はユダヤ人、世界人類の発展のために貢献した偉人の相当数はユダヤ人、ユダヤ人の人類への貢献は途轍もなく大きい。
この世界には、ユダヤ人以外にも、例えば、華僑の中国人社会、印僑の世界、ラテン系のアミーゴの社会、等など国・国境を超越した世界があり、国際情勢に強烈な影響を与え、人類の命運を左右している。
国連に幻想を抱くのも、遮二無二力に任せて国連常任理事国入りを画策するのも結構。
しかし、日本さえ、光り輝く正真正銘の一等国であれば、それで十分。
常任理事国入りが総てではない、と思っているが、甘いであろうか。