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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 641 ストーブリーグ ❶

2020年06月24日 | 1976 年 


9月に入り、いよいよ終盤を迎えたペナントレースの裏で早くも来季のチーム作りの動きが火花を散らしている。今年は監督の座は比較的安泰と見られているが、それでも2~3球団の監督は冷たい批判を浴び、更迭のピンチに晒されている。トレードによるチームの刷新を図るチームも多くなりそうだ。これは渦巻く怪情報の総集編だ。

ジッと耐えた秋山監督は留任するか?
秋風が吹き始めると首筋が寒くなる監督の名前がチラホラと聞こえてくる。いま注目されているのは秋山監督(大洋)、鬼頭監督(太平洋)、与那嶺監督(中日)、吉田監督(阪神)の処遇だ。中でも秋山監督と与那嶺監督は注目度が高い。昨今のロッキード事件で耳にするようになった " ガバナビリティ " つまり統治能力が欠如していると酷評されているのが秋山監督である。監督とは現場の最高責任者として全てをまとめ、取り仕切っていくのが業務内容である。大の男たちを自分の考え一つで自由自在に動かして勝負する。負わされる責任は大きいが、やりがいもまた大きい。

ところが現在の秋山監督に全面的な指揮権はない。攻撃・守備の権限はボイヤーヘッドコーチが握り、投手に関しては児玉投手コーチとの合議制となっているが実際の投手起用は児玉コーチが決めている。要するに秋山監督はお飾りであり、選手交代を審判に告げに行く伝達係に過ぎない。先日のナゴヤ球場での中日戦、草薙球場での阪神戦では試合中にも拘らずベンチを抜け出してタバコを吸っている姿を目撃されている。それもベンチ裏で一服ではなくビジター用の控室や場内放送室の中で腰を下ろしてくつろいでいた。「今のお前はツキが落ちている。しばらくボイヤーに任せてみろ」との中部オーナーの鶴の一声で現場の指揮権を剥奪された秋山監督の何やら考え込んでいる後ろ姿には孤独の影が滲んでいた。

「成績不振の責任を取って身を引くのは簡単だ。しかし与えられた任務を途中で投げ出す訳にはいかない。男にはジッと耐えなければならない時もある。今がその時だと思う」と秋山監督はジッと我慢の子を決め込んでいる。球団内部ではこの秋山監督の忍耐力を評価し、来年もう1年様子を見て留任させてもよいのではないか、という声もあるがボイヤーコーチの手腕に期待する勢力との内部対立が顕著になってきており秋山監督の去就は流動的だ。最終的な決定をする中部オーナーの胸の内には別当薫氏をはじめ、2~3人の候補者が存在していると伝えられている。


牧野の線より与那嶺監督留任が強い
はっきり言って最も安泰と見られていた中日・与那嶺監督がBクラス転落でにわかに「もしかしたら危ないかも」という空気が漂い始めている。小山球団社長の信頼が厚く与那嶺監督の任期はあと1年残っており留任の見方が依然として強いのだが、結果が全ての勝負の世界では「絶対」はない。仮に監督解任となったら次期監督は誰か?第一候補は2年前まで巨人のヘッドコーチだった牧野茂氏であることは名古屋地区のマスコミ関係者の間では公然の秘密となっている。

昨年末、名古屋市内のホテルで牧野氏の長女・弘子さんの結婚披露宴が催され、来賓に招待された小山球団社長がスピーチの中で「牧野君はいずれドラゴンズの監督を引き受けてもらいたい人物である」と発言した。勿論、リップサービスだろうが当時それを伝え聞いた与那嶺監督がわざわざ東京から名古屋の球団事務所に駆けつけて発言の真意を問い質したというのだから穏やかでない。結局小山球団社長が「他意はない」と否定したことで一件落着した。折も折り、時期を同じくして中日OBの杉下茂氏がライバル球団の垣根を越えて巨人の投手コーチに就任したことも牧野監督誕生の現実味が帯びた原因の一つである。

だがこの小山発言を快く思っていない中日新聞幹部がいる。「中日出身でありながら巨人のヘッドコーチとして花を咲かせたのが牧野だ。ただ牧野は選手として大成したわけではないから中日色がそれほど強くなく名古屋のファンも大人しくしていたが、今度はスター選手だった杉下までもが讀賣の軍門に下るとは何たることだ」といたく気分を害しているようで、巨人の手垢がついた " 牧野監督 " は聞捨てならない発言だったらしい。当の牧野氏は最近、中日に近い関係者に「中日のウォーリーは幾ら貰っているの?エッ1800万円、ずいぶん安いんだな」と尋ねて驚いたそうだ。牧野氏の年収は2500万円ほどで余程の好条件を提示されない限り監督就任はないだろう。したがって与那嶺監督留任が固いのである。


難しい田淵間違えば波乱
昨季は43本塁打で念願の本塁打王に輝いた田淵選手(阪神)だが今季は不振にあえいでいる。不振は打撃だけでなく守備の面でも「プロ失格」と評論家から酷評されるも本人は気にも留めていないから始末が悪い。田淵を持て余している阪神が田淵をトレード要員にして大型トレードを画策しているのではと書く在阪スポーツ紙は1社だけではない。トレードはないにしても、このままの状態が続けば大幅減俸は免れない。田淵は年俸3200万円の阪神きってのスター選手。昭和49年1200万円、同50年には2000万円の大台を突破して、昨年末の契約更改で球団史上初の3000万円台の高給取りとなった。この金額は王選手の5800万円、野村選手の3500万円に次ぐ日本No,3だ。しかも王にはコーチ料、野村には監督としての報酬が含まれており実質的には田淵が日本最高なのだ。

「20%ダウンは当然でしょう。それでも2500万円ですよ。本当なら1年前の2000万円に戻してもいいくらい」と話すのは阪神OB評論家。田淵本人は減俸を覚悟しているそうだが、問題は減額幅。阪神担当記者は「恐らく球団は大幅ダウンを提示できないだろう。なぜなら詳しくは話せないが博子夫人が球団代表と監督の急所を握っているというもっぱらの噂話があるんですよ。彼女が裏で駆け引きをやっているから球団は強い態度に出れない。せいぜい現状維持かダウンしても3000万円は切らない。問題は他の選手の動向ですね。球団の弱腰ぶりを目の当たりにした選手たちが強気に出る可能性がある」と声を潜める。

阪神という球団は不思議なチームで、かつては小山・村山、最近では江夏らスター選手の扱い方で揉め事を起こしている。スター選手の我が儘を許すことで他の選手との間に溝を作り、チームの和にヒビを入らせてきた。スター選手がスターらしく振舞い、リーダーシップを発揮して活躍すれば問題はないのだが、時としてスターに相応しくない言動でチーム内で浮いた存在になることが阪神では繰り返されてきた。今回の田淵がどのような態度で契約更改交渉に臨むのか。もしも球団から大幅ダウンを提示されてホールドアウト(契約拒否)といった態度を示した時に吉田監督の出番がくるかもしれないが、扱い方を間違えると吉田監督自身の進退に火の粉が降りかかる可能性もある。
コメント (1)
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