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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 638 ナイター中継

2020年06月03日 | 1976 年 



この声、不満、お願い…切符も取れない。テレビも見れない。ファンのイライラどうするの?

堀内がコケたらシュウマイが売れた。巷ではそんな現象が起きているそうだ。つまり堀内が打たれて巨人のリードが無くなり試合は延長戦へ突入。当然日本テレビの中継は終了してしまうが、今ではローカル局のテレビ神奈川でリレー中継を行なっている。そのスポンサーがシュウマイで有名な某●●軒で、CMを見た視聴者のシュウマイ購買量が増えたというわけだ。今季の巨人は打高投低で打線が爆発し攻撃時間が長くなったり、逆に相手打線に打ち込まれてこれまた試合時間が伸びてテレビ中継の枠に収まらないケースが多々あった。6月3日の中日戦では日本テレビの中継が終了した時点は7回表で4対2で巨人がリード。巨人ファンの多くがテレビ神奈川にチャンネルを変えた。そしてまたシュウマイが売れたのだ。

テレビ神奈川を見られないファンの「あぁウチの地方ローカル局もリレー中継しないかなぁ」と嘆く声が多いという。ローカル局にとってこれほど局のイメージアップはない。全国ネット局の傘下にないローカル局はいろいろな努力と工夫を凝らしてきた。ネット局が扱わない東京六大学野球や高校野球の地方予選の放映など数少ない人数で早朝から夜遅くまで関係各位を飛び回り " 持たざる局 " の悲哀をグッと堪え、もがき苦しんで頭を絞って考え出したのが巨人戦のリレー中継なのである。

テレビ関係者によると「成功するだろうという漠然とした思いはあったが、ここまで爆発的な人気になるとは」と驚いている。スポンサー協会の「第5回・民放テレビ局サービスエリア調査」によると昭和48年に約300万台だったテレビ神奈川の受信台数は昭和50年には約80%増の550万台に達した。リレー中継は後楽園球場で行われる巨人軍主催の全42試合をカバーする。テレビ神奈川に続き千葉テレビ、群馬テレビもこれに追随したことからもリレー中継の人気が分かる。「いつもハラハラドキドキする場面で時間切れになるのが癪だからリレー中継を見たい。放送を見るにはどうすればいいのか教えて欲しい」という視聴者の声が各ローカル局に殺到しているという。

長々とリレー中継の話をしたのはそれだけ多くの野球ファンがナイター中継の「誠に残念ですが間もなく中継を終了します」という時間切れに対して不満を抱いている事実の証明になるからだ。否、不満というより怒り・憤慨に近い気持ちだろう。『ギャートルズ』や『花の係長』でお馴染みの文春漫画賞受賞作家・園山俊二氏に言わせると「試合のクライマックスで平然と中継をやめてしまうのは世界でも例のない愚行である。だって一番面白い場面でやめるなんて漫画や小説の世界では有り得ない。『続きは次号で』なんて手法を何回も使ったら読者にソッポを向かれてしまう。よくもまぁ野球ファンは大人しく黙っているよね」と嘆く。

日本テレビの関係者はヤケ気味に「いっそのこと午後7時半からテレビ神奈川に中継してもらってウチはその後にやればいいんじゃないかな」と。いい例が4月の大洋戦。この試合は終了時刻が午後10時過ぎだったが、日本テレビの中継時間は1時間20分、テレビ神奈川は1時間17分と差は無かった。テレビ神奈川の視聴率も凄い。昨年は平均16%でこれはローカル局としては異例の高視聴率だ。一方で中継を打ち切られたファンの抗議の電話が日本テレビに殺到する。「責任者を出せ」から始まり挙句には「社長を出せ」とエスカレートする。ならば日本テレビは中継を延長すればいいではないか。だがそんな単純な話ではないのだ。

もう既に来年の巨人戦ナイター中継のスポンサーとの交渉は始まっている。野球に限った話ではなく午後9時以降の番組スポンサーも決めなくてはならない。その席で午後9時半まで中継してはとスポンサーに進言しても相手から色よい返事は来ない。早々と9時前に試合が終わったらどうするのか。例えば9時から野球と無関係の別番組を放送するとしてもスポンサーは納得しない。視聴率を稼げない番組に巨人戦用の高額スポンサー料を払うことは割に合わないと判断するからだ。テレビ局側が1分1秒で他局と視聴率を争っているのと同様にスポンサー側も高視聴率の対価としてお金を払っているのである。

「全国ネット局は貴重な時間帯を売っているので完全中継は無理だがウチは開局以来、ローカル局としての使命を果たしている」と胸を張るのは神戸で昭和44年の開局後8年間ずっと阪神の試合をプレーボールからゲームセットまで中継しているサンテレビの関係者だ。甲子園球場での試合だけではない。広島に遠征すれば25人の中継スタッフがチームに同行する。近畿以西はサンテレビが担当し、名古屋に行けば三重テレビ、川崎に行けばテレビ神奈川に依頼して阪神戦を中継する。こういうローカル局による共同制作、共同セールスはこれからのローカル局にとって業界を生き抜いていく理想的な形なのではないだろうか。

さて野球中継に関してファンの間でもう一つの不満が「なぜ巨人戦ばかりなのか」である。他球団同士の試合も、パ・リーグの試合も見たいという声が少なからず存在する。そうした声に応える形で誕生したのがフジテレビで午後11時10分から放送された『プロ野球ニュース』である。30分番組であるが巨人戦だけでなく全12球団を扱う番組は画期的であった。しかし、巨人戦以外の生中継にはまだまだ高いハードルがあった。フジテレビの関係者によると「プロ野球ニュースの成功で巨人戦以外の試合を中継したこともあるんですが、結果は大失敗でした。次回?ウ~ン、ちょっと難しいかな」と低視聴率に終わった事実を明かした。

アンチ巨人派やパ・リーグ愛好者が「巨人戦以外の試合を中継しろ」と声高に叫んでも視聴率という高い壁の前ではどうにもならない。ファンの気持ちは理解できる。しかし現状の視聴率では無理だ。そもそもスポンサーが付かない。「中継するだけで大赤字。どうしてテレビ局が奉仕しなくちゃならないのか」とフジテレビ以外の局員も言う。「パ・リーグの試合を中継する方法がある。各親会社がスポンサーとなること。南海や阪急は勿論、ロッテだって今や一流企業。自分の球団の試合にお金を出してくれれば明日からでも中継できる。自分達でお金は出さず他人任せは虫が良すぎる」とテレビ局関係者は言う。当分はスポンサー不要のNHKに頼らざるを得ない。
コメント (2)
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