黄金の足と言われ、1億円の傷害保険が掛けられている阪急の福本豊選手。しかし、どうしたことか今年はその出足が鈍いのである。6年連続盗塁王の福本に鉛のような重い足。いったいどうしたというのだろう
昨年の盗塁数減少とただいま2位
タイトルの常連は辛いものだ。王選手が少し調子を崩して本塁打を放つペースが減速しただけで周りが大騒ぎをするように、塁に出れば盗塁するのが当たり前と思われている福本選手の盗塁のペースがダウンすると「福本はどこか故障しているのでは?」や酷いのになると「もう福本は限界や。なんや鉛の靴でも履いているようや」などと言われてしまう。そんなに今季の福本は走れなくなったのであろうか?確かに6月2日現在、盗塁数トップは藤原選手(南海)で福本は2個差の18個で2位だ。数字的にも盗塁のペースは例年に比べて遅い。106個のシーズン記録を達成した昭和47年は5月末で28個だった。
勿論、7連続盗塁王を目指している福本にとって現在の18個は満足できる数字ではない。しかもペースダウンは昨季からで、盗塁王のタイトルを獲得したものの63個は福本にしては寂しい。63個は過去6年間で最低の数字だ。昨季については福本自身「とにかく打撃フォームがガタガタでヒットが打てなかった。出塁できないのだから盗塁数が増えないのは当たり前。打率3割は当然と根拠なく考えていた自分の慢心が原因。とにかく前期は最悪だった。後期で盛り返したけど1年トータルしても最悪のシーズンだった」と振り返ったように前期の極度のスランプを脱した後期には3割近くの打率を残したが、トータルでは打率.259 に留まり、盗塁数も伸びなかった。
まだ " 4足 " で足りているシューズ
今季は昨季に比べれば格段に打撃の調子はいい。開幕から打撃ベスト10に顔を出し、首位打者も狙える位置にいる。なのに盗塁数は思ったほど伸びない。昨季のような打てないから盗塁できないという言い訳は通用しない。となると原因は何か?「上手くは言えないがどうもタイミングがしっくりしない。相手バッテリーの呼吸を読み取るのが下手になったのかなぁ」と福本本人も首を傾げている。そういえば今季の福本は盗塁死よりも牽制で刺される場面が目立つ。上田監督に言わせれば「フク(福本)に対する牽制はボークまがいのものが多い。審判がもう少し厳格にジャッジしてくれたら牽制死はかなり減る筈」と。
他球団の投手がボークぎりぎりの牽制球をするくらい福本の足は依然として警戒されており、まだまだ健在であるが気になる現象もある。それはスパイクシューズだ。例年ならこの時期ならスパイクを8足くらい履き潰している。それが今季はまだ4足。盗塁で滑り込みをする機会が多い福本のスパイク消費は他の選手より早いのは当然。それだけ今季は盗塁する回数自体が減っていることを表している。また他にも今季の阪急打線の攻撃パターンの変化が盗塁数減少の原因ではないかという意見もある。これまでは出塁した福本が盗塁してスコアリングポジションに行き、次打者以降の適時打で得点するのが阪急の得点パターンであったがそれが今季は変わったと言うのだ。
今季の阪急打線の特徴は上位、下位の分け隔てなく長打が多いのが顕著である。特にマルカーノ、ウイリアムスの両外人が打ちまくっていて、福本が危険を冒して盗塁しなくても長打で一塁から長駆ホームインする場面が多い。「今年のウチの打線は長打が多いから盗塁しなくても得点できる。段々走る意欲が減ってきたよ(福本)」と苦笑い。確かに6月2日現在、チーム打率はリーグ1位。先発レギュラーメンバーだけで80本を超す長打を誇る打線の破壊力は絶大だ。つまり攻撃力の増大でこれまでの足を絡めた攻撃パターンが不必要になったせいで、福本の盗塁数も減ったという意見だ。
阪急のマジック灯した福本の快足
つまり福本の足が衰えたのではない。徐々にだが福本の存在感が増してきている。6月2日、近鉄戦前の日生球場の阪急ベンチ内では今後の試合日程が話題になっていた。走り梅雨の影響で5月中の試合がかなり中止になり、そのしわ寄せで6月の日程は9日間で11試合を消化する超過密で試合前の空気は重かったが「頑張ろうや!」と福本が一喝すると「よっしゃ~、やったろうやないか」とベンチの雰囲気は一変した。試合は8回表一死、左前安打で出塁した福本が二盗、三盗を鮮やかに決め、加藤選手の適時打で近鉄に競り勝って、マジックナンバー「18」が点灯した。
徐々に調子を取り戻しつつある福本は「去年は100盗塁を目標にしながら63個に終わり不本意なシーズンだった。今年も前半は去年を引きずっている感じだったけど、今後は追い上げてみせる。目標は勿論100盗塁」と自信も蘇ってきた。福本は気分屋で気持ちが入るとガンガン飛ばして手がつけられないプレーを見せるが一旦落ち込むと再上昇するまで時間がかかるタイプといわれている。6月の阪急は5月以上のハードスケジュールが続くが独走状態で前期優勝は間違いない。相手チームの視線は既に後期に向いており、福本の盗塁にさほど神経質になっていない今なら勢いに乗って盗塁数を増やすことも難しくない。
盗塁王と新記録に首位打者も狙う
昨季が終わった時点で通算550盗塁まであと46個。目標通り100盗塁をクリアすれば広瀬選手(南海)が持つ日本記録(593個)更新も実現する。更にもう一つの目標が首位打者のタイトルだ。現在のトップは同僚の加藤選手。「チャ(加藤)は粘り強く向こう意気が強い。フクはソフトで気は優しく、二人は対照的だがウチの打線はこの二人が中核」とナインからの信頼も厚いライバル同士。「去年までとは違って今年のフクは相手投手の球を最後までしっかり見ている。球を呼び込んで強く叩くタイミングも文句なし」と上田監督もベタ褒め。ヒットを打って出塁すれば必然的に盗塁のチャンスも増える。首位打者になれば盗塁王のタイトルもついてくるだろう。
盗塁数を増やすことがファンの声援に応える術である。中でも福本最大のファンは美津子夫人である。シーズン直前、美津子夫人が「あなたの公式戦の成績は毎年オープン戦の成績で占えるのよ知ってた?オープン戦が良かった年は公式戦の打率はいいし、盗塁の数も増えているんです」と夫人お手製のスクラップブックを持ち出してデータを示してくれた。振り返ってみれば今年のオープン戦は打率.372 ・8盗塁だった。確かに打率は打撃ベスト10から落ちることなくトップの加藤を追っている。ただし盗塁数は40試合を消化した時点で例年なら25個前後はあっていい筈なのだが16個留まり。美津子夫人の為にも6月の声と同時に猛ダッシュをしていくことになるだろう。