面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ポエトリー アグネスの詩」

2012年04月10日 | 映画
66歳になるミジャ(ユン・ジョンヒ)は、釜山で働く娘の代わりに、中学3年生の孫ジョンウク(イ・デヴィッド)を育てている。
決して裕福ではないが、常に身綺麗に着飾っている彼女は、近所でも「お洒落なおばあさん」として知られていた。
そんな彼女は、言動もどこか浮世離れしていて、いつまでも少女の面影を保っているように見えた。

ある日ミジャは右腕に不調を感じて病院で診察を受けたが、医師からは最近物忘れしやすくなったという方が心配だと、アルツハイマーの検査を受けるよう勧められる。
病院を出ると、救急車の前で人目も憚らずに泣き崩れる女性がいた。
中学生の娘が川に投身自殺をしたことにショックを受け、半狂乱状態になっていたのだった。

帰り道のバス停で詩作教室の生徒募集広告を目にしたミジャは、その広告を気に留めながら帰宅した。
毎日ダラダラと自堕落な生活態度をとっている孫のジョンウクに、自殺した女子中学生のことを尋ねるが、「よく知らない」と素っ気ない生返事を返すばかりだった。

小学生の時に教師から「将来詩人になるだろう」と言われたことを覚えていたミジャは、詩作教室に通うことにした。
講師から「見ることが大事」と聞かされたミジャは、折に触れ目にして感じたことを手帳に書き留めていく。
そんなある日、ミジャは孫の友人の父親から驚愕の事実を知らされる。
川に身を投げた少女に、孫とその友人たちのグループが、数ヶ月にわたって性的暴行を加えていたというのだ。
グループの父親たちは、総額3千万ウォンの慰謝料で少女の母親と示談にすることにし、ミジャにも一部負担するよう依頼する。
洗礼名をアグネスといった自殺した少女の慰霊ミサに出向いたミジャは、教会の入口に置かれていた少女の写真を持ち帰った。
ミジャは居間のテーブルの上に写真を置き、ジョンウクに詰問するが、孫は逃げるように自室で布団をかぶってしまう。

ミジャはアグネスに心を寄せ、彼女の“足跡”をたどり始めた…


人生の過酷さから目を逸らすように生きてきたミジャだったが、初老に差しかかった今、醜い現実が突きつけられる。
病院でアルツハイマーと診断され、孫が性犯罪に走り、訪問介護している老人男性から性行為を迫られる。
詩作教室で講師が語りかけた。
「詩は、見て書くものです。人生で一番大事なのは見ること。世界を見ることが大事です。」
詩作についての心構えとしてだけでなく、否応なしに厳しい現実にさらされることになるミジャに対するアドバイスのようだ。

アグネスの死という事実に触発されるように、ミジャは現実をありのまま見つめて、自分にできることは何かを探し求めて歩み始める。
そして目を逸らすことなく現実を直視して真摯にそれを受け入れ、自分が為すべきことと決したことを為し終えたミジャは、アグネスの心に寄り添いながら一篇の詩を紡ぎだした。

詩は難しくて書けないと嘆いていたミジャが詩を書きあげることができたのは、今あるがままの自分と現実を受け止め、しっかりと見定めた正にそのときだった。


社会の片隅に生きる人間を真摯に見つめる作風に定評のある、韓国の名匠イ・チャンドン監督の心に染みる良作。
観終わってから、じわりじわりと込み上げてくる情感が味わい深い…


ポエトリー アグネスの詩
2010年/韓国  監督:イ・チャンドン
出演:ユン・ジョンヒ、イ・デヴィッド、キム・ヒラ、アン・ネサン、パク・ミョンシン、キム・ヨンテク、ファン・ビョンスン


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